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で、医師の働き方改革って結局なんなの?

はじめに

こんにちは。
元 脳外科医で今はContrea(コントレア)というスタートアップで働いている吉川ヒビキといいます。
医師の働き方改革を達成するために活動しています。

前回書いた記事です。
反響がたくさんあって、医師の働き方改革はやはり大きな課題だなと実感した次第です。

巷で騒がれている医師の働き方改革ですが、まだあまり詳しくない先生にも概要を知ってほしい思い、また記事を書いてみました。

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医師の働き方改革とは?

医師の働き方改革というのが2024年にはじまり、残業時間などが規制されるそうだ」
というのはみなさんなんとなくご存じかと思います。

医師の働き方改革
は法律に則った厚労省主導の施策として行われようと試みられています。

その法律が「医療法等改正法(正式名称:良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律)
というもので2021/5/21に成立しました。


他業界では既に始まっていた!

実は他業界では既に、法律に立脚した働き方改革というものが既に始まっています。
2018年に働き方改革関連法案というものが成立し時間外労働の規制などが記されました。

働き方改革関連法は2019年から施行され始めた一方で
医師や建設業、自動車運転業務など一部の事業・業務については
5年間の上限規制適用が除外とされました。

他業界では2019年に施行され始めたものが、5年間の猶予期間を経て遂に2024年から医療業界で適用され始めるわけですね。


3つの施策

さて、先述の医療法等改正法(=医師の働き方改革法案)3つの柱で構成されています。それぞれについてご紹介します。

医師の働き方改革関連法案 3つの柱

医師の働き方改革関連法案は以下の3つの柱から構成されます。

  • 医師の働き方改革

  • 他職種とのタスクシェア・タスクシフト

  • 地域の医療体制確保

医師の働き方改革って医師の働き方改革だけじゃないんですね!(??)
医師の働き方改革を行うためには、他職種の法律を改正したり(診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法などなど…)、医師の働き方が変わることによって生じるマンパワーの減少を是正したり、様々なことを勘案しないといけません。

『医師の働き方改革は遂行する』『地域医療も守る』両方やらなくっちゃあならないってのが…
                           
                           荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』

医師の働き方改革にスポット

医師の働き方改革についてスポットをあてて見てみましょう!

医師の働き方改革で目玉となるのは医師の時間外労働規制です。
これは医療法の中に
”長時間労働の医師の労働時間短縮及び健康確保のための措置の整備等”
組み込まれたもので

  • 医療機関での医師労働時間短縮計画の作成

  • やむを得ず高い上限時間を適用する制度の創設

  • やむを得ず高い上限時間を適用する医療機関における健康措置の実施

    という3つがメインの内容になります。

法律に則って医師の時間外労働が規制されます

想像できますか?
今まで、超過勤務なんてどこふく風で昼も夜もなく働いてた我々医師の世界に労働時間の制限が課されるわけです。

しかしながら、すべての病院に一律に残業時間制限が課されるわけではありません。
一部の病院ではやむを得ず長い残業時間が認められます。
やむを得ず長い残業時間が認められるパターンは以下の2つです。

  • 救急医療や地域医療の要となっている
    (地域医療確保暫定特例水準;B水準

  • 初期研修や専門医取得後の高度な技能訓練を行える病院
    (集中的技能向上水準;C水準

上記2つに当てはまる病院が長い残業時間を認められる病院です。

普通の病院は960時間/年までしか時間外労働が認められない一方、
これらB水準・C水準の病院では1860時間/年まで時間外労働が可能です。

普通の病院は960時間/年・頑張らないといけない病院は特例的に1860時間/年

それぞれの水準の病院には追加の健康確保措置がつきます。
健康確保措置とは

  • 連続勤務時間を28時間に制限する

  • 勤務間インターバル9時間の確保

  • 代償休息のセット

という3つで構成されます。
我々医師は当直の後も帰らずにそのまま勤務しますね。
そういった連続勤務が制限されます
時間外労働を減らすだけでなく、当直後の連続勤務をなくすという意図はとても健全だと思います。

当直の終わりは通常業務の始まり

                                   寺沢 武一『COBRA』
すべての病院に、連続勤務を防止するための措置が付随する

そして、将来的にはB水準(地域医療の要・救急の要を担う病院はやむ得ず長時間労働を認める)はなくなる予定になっています。
C水準(初期研修医や専門医取得後に特殊技能を身につけるためやむ得ず長時間労働を認める)も縮減する予定になっています。
これらは2035年を目標にしています。

医師の働き方改革は2024年に始まり2035年までの10年越しの壮大なプランなんですね。

B水準はなくなり、C水準も縮減方向に。医師の時間外労働はどんどん削減されていく!

ちょっとややこしい話…

A水準・B水準・C水準についてちょっとややこしい話です。
実はこのA~C水準は、医師個人に対して適用されます

どういうことかというと、同じ病院の中にもA水準で働いている医師B水準で働いている医師の両方が存在するようになります。

同じ病院で働いている医師どうしでも、時間外労働の上限時間が異なってくるわけですね。
普通の医師はA水準・脳外科のエース医師はB水準・臨床研修医はC水準、と同じ院内でも棲み分けがされることが予想されます。

同じ院内でも人によってMAX残業時間が異なるぞ!

ですので、病院それぞれが複数の水準で指定される必要が出てきます。
例えば忙しい病院 かつ 臨床研修にも力を入れている病院はB水準とC水準も取得する必要があるわけですね

やむ得ず時間外労働の上限時間を増やしたい病院は
どうすればB・C水準の指定を受けることができるのでしょうか?

そのためには、医師労働時間短縮計画を作成することが義務付けられています。
あくまで、医師の労働時間を短縮する意思があることを示した上で、特例的に長い時間外労働を認めてもらう形になります。

厚労省のHPにあった医師労働時間短縮計画の雛形を見てみます。

 医師労働時間短縮計画

特徴的なのは、労働時間短縮のための取り組みとして

  • 他職種へのタスクシフト・タスクシェア

  • 主治医制の見直し(チーム制の推奨)

  • ICTの活用

といったことがあげられています。
いずれも現場の課題として大きいものですよね。

特にICTの活用は、コロナ禍で遠隔診療が脚光を浴びるなど今後ますます必要になってくる分野です。
しかし病院はセキュリティを重視しないといけないという特性や
現場のフローが複雑化・属人化・アナログ管理されていることが多く
ICTの導入などDXに関してのハードルは非常に高いです。

ですので、このあたりに関しては私たちのような病院向けサービスを展開している企業の腕の見せ所になります。

コントレアではインフォームド・コンセントの時間を短縮するためのサービスを提供しています。
動画を用いた病状説明が可能になるため患者様の理解度向上を期待できるところもポイントです。

現在、展開しているサービスは消化器外科・麻酔科・眼科・検査です。
サービス導入の際には外来の診察フローにどのように動画視聴を組み込むかというところまで、弊社で全面的にバックアップしますので、お気軽にご相談ください。


懸念点

医師の働き方改革は2024年度に向けてゴリゴリと進められていますが
懸念点もあります。

それは、KPIである労働時間を正確に取得できないことです。
理由は以下の2点です。

  1. 業務の定義が曖昧

  2. 嘘をつくことができる

どの業務を時間外労働として申請するか?はよく議論になるテーマですよね。

朝早くや夕方6時から行われる定期カンファレンス、抄読会、明日の手術の準備、手術ビデオの編集、学会準備、論文執筆、自己研鑽……

医師の仕事は業務と自己研鑽の境界が曖昧です。
ですので、労働時間を規定内におさめるために、時間外労働の申請が恣意的になってしまう可能性があります。(朝カンファは時間外労働として申請しない、手術ビデオの編集は自己研鑽扱いにする、など)

また、結局は自己申請なのでいくらでも嘘をつくことができます。
実際「残業時間が○○時間を超えないようにしてね」と上司から釘を刺される病院は数多くあります。

Twitterでアンケートをとったりもしました。

すなわち、多くの医師が嘘の時間外労働時間を申請していることが考えられます。

見かけだけの医師の労働時間が減ったとして、意味はあるのでしょうか?

労働時間の短縮を定量的な目標として定めているのに
医師の正確な労働時間の把握はめちゃくちゃ困難というのが私の懸念です。

労働時間管理には色々な病院で色々な方法が使われていますよね。
勤怠管理のサービスを提供するAMANOさんの記事に勉強になるものがあったので貼っておきます。


長くなってきたのでこのへんにしておきます。
医師の働き方改革の文脈では他にも

  • 宿直・当直について

  • 他病院の取り組み

  • 上手な医療のかかり方の啓発

など深掘りできそうなトピックがあるので、今後も紹介していきます。


まとめ

・医師の働き方改革関連法案は「医師の働き方改革」「タスクシフト・タスクシェア」「地域医療の確保」の3本柱で成り立つ
・医師の働き方改革では労働時間の短縮が重要視されている。
・医師の労働時間は正確に把握されていないため、懸念が残る。

以上です!

今後も医師の働き方改革に関する情報医療系スタートアップに関する情報を発信していきます。
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参考資料

厚生労働省 医政局 医事課 医師等働き方改革推進室
医師の働き方改革について
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000818136.pdf



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