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トピックス(小説・作品)

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素敵なクリエイターさんたちのノート(小説・作品)をまとめています。
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2019年11月の記事一覧

ばれ☆おど!⑮

 第15話 天守閣からの絶景  さて、正面エントリーの方はというと――。 「フフフ、お前らにはずいぶん痛めつけてもらったな! たっぷりとお礼をしてやるよ!」  そう西氷が言うと、黒服たちの一人が言った。 「降参しろ! 得物を捨ててゆっくりとこっちに来い」  その時、明かりが突然消えて、あたり一面真っ暗になった。  敵はパニックに陥る。  特に西氷の狼狽ぶりはひどかった。  こうなれば緑子の独壇場である。  暗闇からの正確な射撃は緑子の得意とするところだ。  敵はめ

ばれ☆おど!⑭

 第14話 卑怯者に送るレイクエム  西氷は目覚めると、自分の車の運転席に座っていることに気づいた。  全身の痛みに顔をしかめる。  痛みと共にあの時の恐怖がよみがえる。  自然にフロントガラスに目がいく。  そこには、車内から何かメモのようなものが張り付けられている。  それを乱暴に剥がし手にとる。 これに懲りたら、二度と悪さをしないことだ。 我々がお前を監視していることを忘れるな。 ――雀ケ谷南高校動物愛護部――   西氷は全身の痛みに呻きながら、叫んだ。 「あの

ばれ☆おど!⑬

  第13話 地下駐車場の復讐劇 敵討ち(カタキウチ)――仇討ち(アダウチ)とも言う。元の意味は江戸時代に制度化された私刑のことで、親族の目上の者のために行う”復讐”を目的とする。現代においては漫画や小説、映画などで、主要人物の行動原理としてしばしば採用される。    どのくらいの時間が経過したのだろうか。  カン太は意識を取り戻した。  目を開けて、しばらくぼんやりとする。 (あれ? オレはなんで寝ているんだ? 確か、あ、そうだ! 漆原さんの様子を! ……って、こ

ばれ☆おど!⑫

 第12話 死の恐怖と絶望の標本  満里奈がポケットからアイフォンを取り出して画面をみると――。 「アイツからよ!」 「よし! じゃあ、うまく取り次いでくれるかな?」 「わかったわ」  彼女は画面を指で撫でて、アイフォンを耳にあてる。 「もしもし? 折り返してくれて有難うというべきかしら? …………え? だから? ……そうそれは終わったことでしょ? ……とにかく、もう! ……だから代わって! ……え? ……わかったわよ。じゃ代わるわね」  そう話し終えると、アイフ

ばれ☆おど!⑪

第11話 猫のしっぽ?  異常者――著しく常軌を逸した人間を指す。『きちがい』とほぼ同義であるが、こちらは『釣りきちがい』など、熱心な愛好者を指すことがあるのに対して、この語にはそのニュアンスはなく、純粋に嫌悪される状態の者を指す。  そいつは、まぎれもなく『異常者』だった。  ――西氷清四郎(ニシゴオリセイシロウ)。二十一歳。K大学医学部三年。趣味はテニス・乗馬・筋トレ。実家は大病院で、その跡取り。愛車は派手な赤いボディーのフェ◯ーリ。兄が二人いたが、二人とも幼少期に

フランスのPower

≪ パリ滞在記・その5 ≫    〜Château de Versailles ヴェルサイユ宮殿 〜 18日間の旅行中、2回だけパリ中心部から近郊地域に足を延ばしました。 今回はヴェルサイユ宮殿。電車で40分ほど、そこから歩くこと約10分。 見えてきました、その場所が! 黄金に輝く門の中には、既にただならぬ雰囲気が漂っています。 「有史以来、最も大きく、最も豪華な宮殿を!」太陽王ルイ14世の掛け声のもと、ヴェルサイユ宮殿の建設が始まったそうです。 その掛け声とおり と

ギュスターヴ・モローという人

 ≪ パリ滞在記・その4 ≫ 〜国立ギュスターヴ・モロー美術館 Musée Gustave Moreau Une maison-atelier unique a Paris〜 ロダン美術館を後にして、続いてはギュスターヴ・モロー美術館です。 神話や聖書に主題を求め、目に見えない精神世界を描き続けた画家。 以前から、モローの絵に少し拒否反応がありました。見ているとなぜか落ち着かず、展示されていてもチラッと見ただけで素通りしてしまいました。 そんな中、半年前<ギュスタ

「黄泉比良坂にて」 終章

 担架に寝そべったまま、周囲の様子を観察していると、とんでもない光景をおれは見た。おれたちがいたのは、確かに最初に登ろうとした山の山道のふもとだった。おれたちが登ってきたはずの、参道が、まるごと崖崩れのように崩れて、道が消滅していたのだ。土砂の隙間から、そこに参道があったという断片は見て取れる。そして、それを覆いかぶさるように、小さな地蔵がそこかしこに転がっていた。だが、おれたちが登った参道の山道は、さまざまな土砂や岩が覆い被さり、何もなくなっていた。  そして、学校のあった

「黄泉比良坂にて」 #54

 遠くのほうでサイレンの音が聞こえた。あたりの空間にこだまするその音は、ふわふわして、幻聴のようで、ぜんぜん距離感が掴めなかった。近くで鳴っているようでもあるし、ずいぶん遠くで鳴っているような気もする。  おれはゆっくりと目を開けようとするが、まぶたが何かで引っ付いているように全く開かない。接着剤で固められているようだ。  目についているものを手で払いのけようとするが、まったく腕が動かない。そうか、おれの腕はもうないんだっけ、と他人事のように思い出す。西川原、と叫びたかったが

「黄泉比良坂にて」 #53

 気付けばおれは泣いていた。いや、水の中にいるわけだから、自分が泣いているかどうかはわからない。しかし、喉の奥が痙攣し、目を閉じていられない。これから死ぬんだ、と自覚した瞬間、これまで自分が生きてきた世界が、急に温かいものに感じられた。  境界線を超えつつあるんだ、とおれは思った。  境界線を超えて、向こう側へ行こうとしているのだ。  境界線を超えてしまえば、二度とこちら側へは戻って来られない。  だから、おれは泣いているのだ。  ゆっくりと目を開けると、身体が少しずつ浮かび

「黄泉比良坂にて」 #52

 川の水は冷たく、足の先が痺れてきている。おれは靴もすべて脱いで、裸足になった。西川原も工藤も、それぞれすでに靴を脱いでいる。おれは少しずつ足を動かして、前進しようとしたが、全然前に進まない。  水の流れに抗うということが、これほど困難だとは思わなかった。さっき、中州から岸まで渡ったときとは全然違う。同時に、川上から風が吹いてきているのがわかった。人魂たちは宙に浮いているが、それでも前に進めないのは風が吹いているせいもあるのだろうか。  おれたちは全員無言になった。おれは足を

「黄泉比良坂にて」 #51

 ぼーっと、川面と、川の上を蛍のように浮遊する人魂を見ていると、じっとそこに立っているだけのはずなのに自分自身が川を流されているかのような、そんな感覚になった。自分のまわりをすり抜けて、月夜に照らされた銀色の水が、自分のそばを後ろむきに流れていく。その上を飛んでいる人魂たちは、まるで川を遡っているかのようだ。  そうだ、おれだって、川の流れから見れば、ただここに立っているだけで、川の流れに逆らっていることと、同じことなんだ。同じ場所に立っているだけのように思えても、自分の周り

「黄泉比良坂にて」 #50

「いや、そうじゃなくて、秋川に乗っ取られた、身体の持ち主の、魂だよ」 「秋川が、身体を乗っ取ったときに同化するとかなんとか、言ってたな。本当かどうかはわからないけど」 「魂と魂が同化するってことなのかな?」 「知らん。魂が合体してひとつになるところなんか、想像できないけどな」 「もし、秋川が、十人以上に渡って人間の身体を乗っ取り続けていたんだとしたら……」工藤はおれのほうを振り向いた。「もとの秋川の身体から、一人ずつ順番に、魂が乗り換えていった、というわけだ」 「うん」 「で

「黄泉比良坂にて」 #49

 おれは、本当に表情を失った人の顔を初めて見たような気がした。おれは工藤の様子を見て、逆に心が落ち着いたところがあった。それと同時に、もうこれ以上落ちるところがない、最下層に来たのだ、という感覚があり、ここが「底」なんだと思うと、精神が安定に向かうのを感じた。おそらく、死刑台に向かう死刑囚がこんな心境だろう。奇跡でも起こらない限り、おれたちが助かる見込みはない。見込みがないということは、これ以上努力をしなくても良い、ということだ。  少し高い場所から落ちたら、助かる可能性があ