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ばれ☆おど!⑫


 第12話 死の恐怖と絶望の標本


 満里奈がポケットからアイフォンを取り出して画面をみると――。

「アイツからよ!」

「よし! じゃあ、うまく取り次いでくれるかな?」
「わかったわ」

 彼女は画面を指で撫でて、アイフォンを耳にあてる。

「もしもし? 折り返してくれて有難うというべきかしら? …………え? だから? ……そうそれは終わったことでしょ? ……とにかく、もう! ……だから代わって! ……え? ……わかったわよ。じゃ代わるわね」

 そう話し終えると、アイフォンをカン太に渡した。

「もしもーし、この前お前にボコボコにされた者だけど! …………そう。ところでさ。うちに趣味の悪いイタズラするのやめてくれないかな? …………だから、変な手紙よこしたり、ネコの尻尾を人のうちに投げ込むことだよ! …………とぼけるな!! …………あくまで白を切るなら仕方ないな! でも絶対に証拠つかんでやる! ……ああ、そ」

「……切りやがった!」

「ダメみたいね。本当にごめんなさい」
「委員長が謝ることじゃない。悪いのはアイツだよ」
「それは、わかってるけど、でも」
「気にしないで。なんとかなるって」

 カン太は思う。
(って言ったけど、八方塞がりだ。どうすればいいんだ?)


 ◇ ◇ ◇


 翌朝、鉢植えに水をやろうとカン太の母、真帆(マホ)はベランダに出た。

 鉢植えの後ろに何か黒いものが見えている。

 彼女は、よく見ようと覗き込んだ。
 鉢植えが少し揺れる。
 すると、それが転がってきて彼女の目の前に姿を現した。

 彼女は息が一瞬できなくなる。
 だが、必死になって、力いっぱい息を吸い込んだ。そして――


「キャァァァーーー!」

 ありったけの声で叫ぶと、そのまま意識を失った。

 カン太は走ってベランダに駆けつける――。
 ところが、カン太はその光景をみてフリーズした。

 そこには黒猫の生首がゴロンと転がっている。
 切断面からの血液が流れ、黒猫の顎のあたりを濡らしている。
 その目は見開かれたままで、まるで近づく者を呪い殺そうとでもしているかのようだ。
 死の恐怖と絶望の標本――もし、そういうものがあるとするなら、これがそうなのだろう。

 ショックのあまり、真帆はそのまま寝込んでしまった。

 カン太は思う。
(もう、限界だ! あの人に相談しよう)

 その日の放課後、カン太が部に顔を出すと、動物愛護部の部室には源二と緑子が先に来ていた。
 最初に、声をかけたのはシータである。
「吾川様? 何か心配ごとがありますね!」

「え?! なんでわかるの?」

 推論はシータの得意分野である。
「それはですね。熱感知センサーで体全体の温度分布を観察しているからです」

「温度分布で感情がわかるの!?」

「はい。実は人間は感情の変化によって、平常時よりも、ある部分が冷えたり、逆に別の部分が暖かくなったりしています。それによって今のその人の感情がどのようなものであるのか分かるのです」
「なるほど。すごいね。うん。確かに、シータの言う通り、オレはいま八方塞がりでどうしていいか、行き詰っているところなんだ。だから、大きな不安を抱えている」

「それで、ユーはどんな不安を抱えているというのだ?」
 源二が尋ねると、カン太はこれまでのいきさつを説明した。

「なんだと? ユーの家にイタズラだと」
「はい。どうすることもできません。それが原因で、母は寝込んでしまうし、もう手も足も出ません」
「そこで、我が部に解決を依頼というわけか?」
「残念ですが、そうです」

「わかった。我が部で解決しよう。では一つだけ条件を付ける」

「条件って何ですか?」
「いま漆原君が、一週間ほど学校を休んでいる。悪いが、様子を見てきてほしい」

「部活来ないと思ったら、学校も休んでいたんですか?! 病気とか怪我なんですか?!」
「それが、先生に聞いても、理由はただの風邪としか聞いてないそうだ」
「風邪にしては長いですね。肺炎にでもなったとか?」

「それも心配なのだが、先生の様子が、何か変なのだ。もちろん私のカンだが」

「様子が変?」
「目をそらすし、コソコソしている感じがするのだ」

「それは、あやしいですね」

「そこで、今日、私が、部の代表者ということで、お見舞いという名目で様子を見に行こうとしていたのだが、私も忙しい」

「そこで、暇なオレですか? はいはい。暇ですよ。暇ですとも」

「私は、ユーが『やることが何もない暇な奴』と言った覚えはない。ユーは被害妄想なのか?」

「そうですよ。暇なうえに、被害妄想が得意です」
「アカンよ。ようやく、ユーは自分の正体に気づいたようだな。ワハハハハ……」

「…………もう!! では今から漆原さんの家に行ってきます。場所はどこですか?」


 ◇ ◇ ◇


 カン太はうるみの家の地図を渡された。
 その場所は案外簡単に見つけられた。それもそのはず。なぜなら、雀ケ谷市でも五指に入る、高層マンションだったからだ。
 その最上階がうるみの自宅ということになっているのだが、とりあえず、インターフォンを押してみる。

 誰もでない。しばらく待ってみるがダメだ。

 カン太は思う。
(まいったな。留守ってことはないよな。そういえばさっきからずっと監視されているような気がするんだけど、気のせいかな?)

 実は、カン太のすぐ後ろに何者かが、いたのだ。だが、巧みに視界から姿を消して、カン太には見えないのである。

(まあ、いいや。しばらく待ってみても出なかったら、出直そう)

 それから約5分後、カン太は帰ろうとした。
 すると――

「うるみお嬢様に、御用とお見受けしましたが」

 先ほど、カン太の視界から姿を消していた男が声をかけてきた。
 だが、振り返っても誰の姿も見えない。

「え?! 誰?」

「私は漆原家の使用人じゃ」
 突然、その姿を現す白髪の翁。

「びっくりしたぁ。急に現れましたよね。どこから湧いて出たのですか?」
「湧いて出たとは失敬な! ワシはずっとここにいましたぞ!」
「え? でも姿はみえなかったけど……」
「おぬしに気づかれぬように、真後ろに隠れていただけじゃ」

「まるで、忍者ですね」

「わが曾祖父の時代まではそう呼ばれておったのぅ。ガハハハッ」
「じゃあ、おじいさんのひいおじいさんはホントの忍者だったの?」
「さよう。代々、漆原家の下忍じゃ」
「下忍って?」
「忍者一族を束ねる棟梁の使用人をする忍者のことよ」

「ってことは漆原さんって?」
「わがあるじの一人娘じゃ」

「……ところで、なんでオレが漆原さんに用があるのが分かったの?」
「簡単なことよ。そのインターフォンを押したこと。それと、おぬしは、ブツブツとつぶやいておったろう」

「なるほど」

「どうしても会いたいか?」
「もちろんです」


「では、失礼する!」

 カン太は目の前が真っ暗になり、気を失った。



(つづく)

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ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです