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映画

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映画コラム 某ブログでも書いています。
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#映画レビュー

『ゴジラ-1.0』

外から見たゴジラ 真っ暗な映画館内に重低音が響く。耳障りな、しかし聞き慣れたリズムだ。IMAXの巨大スクリーン内では、小洒落た街並みを覆い尽くすように、鋭利な岩を体中に生やした壁がまっすぐに立ち上がる。壁の片方にある長い尾は地面を裂くようにゆっくりと揺れ、もう片方にある二つの目はこの世の憎しみを閉じ込めたかのように燦々と光っている。街を破壊して歩くカイジュウの全貌をとらえたヒロインがその名前を呼ぶ。映画に詳しくない人も必ず知っている名前。「Godzilla」という一言に、場

『Disappearance at Clifton Hill』

謎を解く映画 地下鉄を待つ間に、頭上のモニターを確認する。時刻、天気予報、コマーシャル、地方ニュース。まばたきする間に内容は変わっていくものだが、その日はずっと同じ映像ばかりが繰り返されていた。ナイアガラの滝周辺の国境で起こった爆発。自動車事故という話らしいがテロという言葉も見かけた。あの日、私が目にした情報のなかで、どれだけの表現が的確なものだっただろう。 「真実と嘘。どっちがどっちかは自分で考えなさい。まだまだ、お勉強が必要ね」 ナイアガラの滝で有名な観光地を舞台に

哀れなるものたち 受け継がれる母と娘の意思

 『哀れなるものたち』は、多くの人が語っているように、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を骨子にした作品だ。さらに、『フランケンシュタイン』の作者であるメアリ・シェリーやその母であるメアリ・ウルストンクラフトの人生を重ね合わせて、という複雑なレイヤーを持った構成になっていて、原作者アラスター・グレイは間違いなくメアリの母娘のことを書いているだろうし、ヨルゴス・ランティモスも、いまこの時代にこの作品、ということで意識しているように思える。  自分はフェミニズム史には

2023年 映画ベスト10! <日本映画編>

あけましておめでとうございます。 2023年の映画ベスト10、<外国映画編>に続いて、<日本映画編>です。 こちらもかなり観た中からの厳選10作品となります。 では早速どうぞ。 10位 『首』 北野武監督による待望の新作! 本能寺の変に向かう戦乱の世を秀吉、光秀など跡目を狙う面々がしのぎを削り合う。 中でも加瀬亮の信長がセクハラにパワハラという完全なるブラック企業の社長という感じで狂っててかなり良かったです。 秀吉については相当調べたらしく、曽呂利新左衛門など落語の始

ゴジラ -1.0 感想:相克と相殺のニュートラル

公開から随分と二の足を踏んでおり、信頼するレビュアーの方達、価値観の近しい、あるいは違える友人からの評価を伺うにつれ、より一層見るのが億劫になってしまっていたのだが、ついぞ観てきた。 意を決して蓋を開ければ、清く正しく面白くない、かといって不快でもない、毒にも薬にもならない作品だったので安堵している。 完全にニュートラルじゃん。なにが-1.0と書いてマイナスワンか。梅田望夫でもゼロ年代でもないんだぞ。 もっと席に座っていることが苦痛になるほどつまらないか、あるいは自分の嫌

映画「アンジェラの灰」 (アイルランド・アメリカ映画)アイルランド🇮🇪🇺🇸

その昔アイルランドはイギリスの圧政により農地が私物化され、その結果、働き口を失った人々が祖国を後にすることになりました。 ある者はアメリカへ、ある者はスペインへ・・ そんな過渡期にあったアイルランドの町がこの映画の舞台です。 ここで見ることのできる日常は、 おそらく、当時の日常そのままなんだと思います。 貧しい暮らし、粗末な住居、ささやかな食事・・・ みているだけでつらくなってしまいました。 一家をささえるお母さんの大変さといったら・・ こういった状況を打破するた

ラストダンスは映画館で

はじめてその映画館に足を踏み入れたのは、京都に来て1年目、春の終わりだった。 あの春、わたしは京都の大学に入学したばかりだった。満開の桜は美しく、胸の高鳴りはおさまることなく。歩けば寺社仏閣に当たるこの街で、そこに咲く桜たちは、幻想的で切なく、京都の夜によく似合っていた。 春の訪れは、恋の訪れでもある。入学早々、わたしには気になる男の子ができた。映画サークルで出会った、同じ1年生とは思えない大人びた彼。有名カフェで働く彼は、キラキラして爽やかで、まるで"春"みたいなひとだ

日々と少女映画 | オン・ザ・ロックとバービーと

時々訪れる実家の父親の不用意な発言に苛立ちと悲しさを感じることが増えている事に最近になって気がついた。父の明るく陽気で優しくて面白い側面が今の私には見えなくなってしまい、反対に亭主関白で家父長制の権化的な父にもやもやとすることが増えてそのことに悲しさを感じてもいた。 でも、最近になりその事に少しだけ自分の中で良い方向に折り合いがついてきたようなきがしているので書いておこうと思う。 思えば賢明な両親の献身的な教育のおかげで、子供の頃にははみ出しもので親に苦労をかけてしまった

映画『イニシェリン島の精霊』自分の人生を問われる哀しくも美しい人間の物語

中年期以降の人間ならば誰にでも思い当たるであろう「誰かとの分かれ道を感じた瞬間」の寂しさとやるせなさをこの『イニシェリン島の精霊』が恐ろしくも可視化してしまったのかもしれない。私自身は去ってしまったことも、去られてしまったこともどちらも経験がある。多くの人がそうであろう。 また同時に、この作品では「人生を豊かに生きるとはどういうことか」ということについてとても真剣に考えさせられる。価値観が多様になり様々な生き方や暮らし方が肯定されているように思えていても、実は人間の根底にあ

サブカルクソ野郎がした、花束みたいな恋について。

「花束みたいな恋をした」の二人が履いている"ジャックパーセル"は、私にとっての"オニツカタイガー"だった。 「花束みたいな恋をした」は、坂本裕二脚本の、今をときめく麦役・菅田将暉と絹役・有村架純の恋愛映画だ。説明もいらないくらい流行したけれど、この映画には主人公二人だけが分かり合える固有名詞がたくさん出てくる。好きな映画監督、好きな作家、そしてお揃いのスニーカー。このスニーカーは、ジャックパーセルという名前だ。この二人の、ありえないくらい痛くて、ありえないくらい愛しい、最高

映画館が舞台な最近の良作、3選!

2023年も前半から良作多いです。 観るのに忙しくてなかなかnote書けてないのですが、映画館を舞台にした良作を鑑賞できたので、今回まとめて紹介できればと思います! 『エンパイア・オブ・ライト』(2/23公開)これはしみじみ良かったです。 映画館が舞台になっているだけでもう贔屓目で見ちゃうんですが、そんな映画館ファンには染み入る作品となってます。 オープン前の映画館に入って一つひとつライトをつけていく、映画館の徐々に火が灯されていくオープニングがもう秀逸! それだけで大満

『ボーンズ・アンド・オール』最も気高い究極の愛の話

観終わって2日以上経っているのに未だにこの2人を思い出す。きっと私が何も手につかなくなっているのは紛れもなくこのせいだ。 観たのは間違いなく“カニバリズム”を題材にしているR18の作品であるのに、ここまで心を動かされるとはどういうわけなのだろう。 「もしかしたら自分だけなのではないか」 思春期の頃は自分自身の気持ちや身体の変化に戸惑い、誰にも相談することなくうまくやり過ごしていた。生まれて初めて感じた誰かと触れ合いたいと欲した時のことや怖くて寂しかったけれど平気なふりを

2022年、映画ベスト10(日本映画編)

2022年に劇場公開された新作映画の中からベスト10を選びました。 今聞かれたらまた順位変わるんじゃないかくらい順位つけるのって大変ですが、何とか絞りました。 先日は、「外国映画編」を発表してますのでそちらも併せてご覧ください。 それではいってみたいと思います。 10位 『さがす』いやー、面白かった。 脚本が練り込まれていてとても良くできてました。 それに俳優陣もみんな良くって見応えバッチリです。 さすが、ポン・ジュノの元で助監督をしていた片山慎三監督。 骨太ながら先の

2022年、映画ベスト10【外国映画編】 

あけましておめでとうございます。 2022年も映画をたくさん観ましたがそこからベスト10を年末に決めました。 (毎年、年末にベスト10発表会してます) いつも外国映画と日本映画に分けてそれぞれ出してますので、まずは外国映画編からいってみたいと思います! 10位 『コーダ あいのうた』これはシンプルにいい映画でした。 重めのテーマを扱っているけどすごくポップにアップテンポなノリで作られているのでエンタメとして楽しくて、かつしっかりと考えさせられる作品となってます。 家族の