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ゴジラ -1.0 感想:相克と相殺のニュートラル

公開から随分と二の足を踏んでおり、信頼するレビュアーの方達、価値観の近しい、あるいは違える友人からの評価を伺うにつれ、より一層見るのが億劫になってしまっていたのだが、ついぞ観てきた。

意を決して蓋を開ければ、清く正しく面白くない、かといって不快でもない、毒にも薬にもならない作品だったので安堵している。
完全にニュートラルじゃん。なにが-1.0と書いてマイナスワンか。梅田望夫でもゼロ年代でもないんだぞ。

もっと席に座っていることが苦痛になるほどつまらないか、あるいは自分の嫌いな駄目さが目につくのに、面白くて悔しい、という思いをするものと想像していた。

山崎貴という監督がこれまで撮ってきた代表作「ALWAYS 三丁目の夕日」「永遠の0」の、良く言えば「得意とするテイストとノウハウを総動員し」、悪く言えば「栄光にすがりそれらを不細工に張り合わせ」、最後にハリウッド配給への憧憬と「少しひねったリブート」のお手本としてギャレス版ゴジラを逆輸入してひとつまみ・・・そんな観る前の想像と、観た後の感覚はさして変わらなかった。期待通り。

「歴史考証はあまりにも雑というか、良く言えば潔く捻じ曲げているのでファンタジーやメタバースの類として割り切るべき」だとか、
「拙い演技と脚本の人間ドラマに多くの時間を裂きすぎており、苦悶を禁じえない」だとか、
「ゴジラ掃討作戦の展開は子供に向けて書かれているが如く懇切丁寧に前振りされており、全てが予定調和」だとか、
そういった悪評点の予習を済ませ、構えていた。

それぞれがその通りではあった。

歴史考証のオミット、「アメリカはソ連を気にして手を出さない」という部分は本当にそのままのセリフだけ、三回ほど唱えられるだけの説明だったのでひっくり返ってしまった。
それで許されるんだ。

安藤サクラの序盤の怪演が好印象で、あとは監督の、吉岡秀隆への全幅の信頼が伝わってくる構成が微笑ましかった。
出征前日に路上酒場で飲みながら、佐々木蔵之介と作戦についてうだうだ喋る場面が、一番純粋に面白いと思えたシーン。
神木隆之介と浜辺美波のあれやこれやは何も覚えていない。

VFXについては海のゴジラのシーンは申し分なく非常に良かったと思える。皆が皆、一様に手放しで称賛している通りで、十分に堪能できた。これがあったからこそニュートラルだ。マイナスじゃない。2億パーティクルだ500テラバイトだという話は伊達じゃなかった。

一方で陸のゴジラのシーンも見応えはあるものの、一部密度の割に重量、質量を感じられないシーンが散見され、いま一歩惜しい、という感想。

山崎監督のVFXノウハウ、眼、感性は海戦主体のシーンを撮ってきた経験に裏打ちされており、陸上での「重さ」の表現はそこまで得手ではなく、水上水中を舞台とすることで浮力の性質を借りて弱点を打ち消しつつ、波、しぶき、泡の表現を武器に説得力を出すことを最も得意としているのだろう・・・
劇中で吉岡秀隆の捻出した作戦がそのまま、監督の得意な表現の領域に持ち込むことにリンクしているとすれば一つ、この作品に魅力を感じる点だ。

思えば戦後直後、「総力戦の後のさらなる総力戦」という舞台設定もまた監督の、ヒット2作の後の憔悴した身につきつけられた「シン・ゴジラ後のゴジラ新作の監督オファー」という状況と重ねることもできる。先の揶揄はまさしく前者「得意とするテイストとノウハウを総動員」の側と、好意的にも捉えられよう。

つまらなかったけれど。そのでこぼこさ、ともすれば観客を馬鹿にしてるようで、しかし妙に真摯さは伝わってくる、すれすれの「単純さと丁寧さ」、あるいは「雑さと潔さ」の相克と相殺が、憎めない作品に足らしめているのではないだろうか。思えば、ここまで邦画の「よく言う駄目なところ」を忠実に踏襲しながら、高い評価を得ている作品は無いのではないだろうか。
劇場ではすすり泣く声が聞こえたりスタッフロール後拍手する観客もいた。実際有効に機能している相手も存在し、というよりおそらくそれが多勢なのだろう。

オープニングの零戦の着陸、クライマックス前の震電の離陸シーンなんかはピカイチでVFXの質が低く、もはやギャグのようにも感じられたし、ラストのゴジラ肉片の再生で終わるという、そのシーンそのものが安牌取りの興覚めな蛇足であるのにこれもまた質感表現が雑だったり、よくOK出しましたね、ラストのカットですよという。
挙げればきりがない。それらが総じて、なんだか釣り合っている。絶妙に、ニュートラル。あぁつまらなかった。観て良かったですねと心から言える。

なにが-1.0と書いてマイナスワンか。

山崎貴、邦画界の最右翼的位置に居ながら、不思議なバランス感覚を持った監督であり、故に今の成功があるのだろう。

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