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小説のみまとめました。
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「っ……。ぅ……………」
女の目がより一層大きく見開いた。限界まで開かれた目は、切れ長で温度を感じない普段の彼女のそれとはまるで別人のようで、眼球は今にも飛び出しそうだった。血の稲妻が眼球を侵食し、徐々に端から赤くなっていく。眼球全てが真赤に染まり切ると、死ぬのか。
(阿……ぁ…ア…………)
声はきこえない。そう言っているように見えた。本能か何か、呼吸を妨害する腕を引き剥がそうと先程から女の手が僕

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ふゆこは小学一年生。4月2日が誕生日なので、同級生の誰よりも早くちょっぴり大人に近づきます。
そんなふゆこには悩みがあります。最近お母さんと上手くいっていません。上手くいっていないということは、お母さんと仲が悪いということではないのですが、たまに喧嘩をしてしまいます。たまに喧嘩をしてしまうことが、今のふゆこの悩みです。
お父さんとは仲良しです。お父さんはお母さんとふゆこのためにお仕事を頑張ってくれ

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  1

- 怜 -

天井。

目が覚めた。寝ようと試みた覚えはなかったけれど、最近読んでいた小説を手にしている様子から考えると、本を読みながらいつの間にか寝てしまっていたようだ。指が最後のページに挟んである。意識を失くす直前の記憶を辿ると、女の、『私たちは生きていさえすればいいのよ』という最後の一文のみ、海馬で鮮やかに存在感を示していた。

ベッドからゆっくりと体を起こす。いくつかスペースが空いている本

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向日葵が赤い

向日葵が赤い

「お姉ちゃんよわ〜!」
弟がケタケタ笑いながら言った。
ゲーム用の小さな画面には左側に赤い文字でwin、右側に青い文字でloseと書いてあった。

「途中ずるしてたからお姉ちゃんは負けてないよ」
と、後ろから幼い女の子の声が聞こえた。
妹はニコニコしながらベッドから足を投げ出し私達を見ていた。
とても天気の良い日だった。二階の窓からは雲一つない青空が広がり、心地の好い風が吹き込んでいる。吹き込んだ

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(無題)

それとの付き合いは、大学時代の友人がロンドンで個展を開くという報せを受けて、3日ほど家を空け帰宅した時から始まったのでした。

一泊してすぐにシヒコに帰っていればまた結果は変わっていたのでしょうが、「久々に友人に会うわけだしゆっくりしてきたらいい」と言う夫の言葉に服し、ロンドンに二泊してから夕方の便で故郷に帰ってきました。
今思えば、絵を描くこと以外は身の回りの事もてんで無能力な夫が、私に羽を伸ば

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アイコニック

期間限定の、店員が全員ろう者のカフェに彼女と出かけた。
すると、彼女は注文の筆談に苛立ち、15分後にコーヒーを運んできた店員に表情と雰囲気で怒りと嫌悪感を醸し、あますことなく全てのスタッフを、罪人を見るかのような侮蔑した目で見ていた。
ああ、なるほど。だから彼女はうつくしいのだと、うつくしく育ったのだと、そう思った。

その夜、私は彼女の両耳を削ぎ落としました。
私は、彼女に美しくなってもらいたか

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幸福のすゝめ

あ、振られたな。
送られてきたメッセージの長文。書き出しの二、三文を読んで直感でそう思った。

最後まで読んでみてもやっぱり、振られていた。

ただ、自分でも驚くほどに冷静だった。
ああ、まあそうだよな。分かってたよ。そう思った。

その長文の内容は、元彼が好き。君のことも好きだけれど、やっぱり元彼が忘れられない。もう一度元彼とやり直すために頑張る。ごめんなさい。
といった内容だった。

ものごこ

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