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終景誌 ─幻想小説家が考案した地名に由来する十圏の地誌─
前書き 本稿は、地誌でありながら、〈列島〉全土の地理的特徴を明確に記したものではない。
著者は、いまもって〈圏内〉から脱出不能であり、外部資料や客観的視座によってこの土地を分析(リモートセンシング)することができない。
また、本稿は研究対象である〈列島〉の性質上、アカデミックな価値を有さない。しかしながら、既知の地理や文化、都市システム等との比較研究については有用であると考えられる。
本稿
顔なき友(2018)
またシャツに穴あけましたね寝たばこの癖は千年直さないまま
ネクタイが互いの首を締め付けるリボンであれば可愛きものを
我が肉はエヴァンと呼ばれ桃よりも林檎よりも瑞々しく赤
本当のくづれゆく輪は花のよう にしゃりと亡ぶ時を高めて
命の夜 翁の腕は盤石の時をつぶせりひとはかげろう
諦念の夜こそ駆けよと教えたる師の眸( め) 破獄のごとく瞬く
光への不信を超えて探さねばならない時層を掘削せしめ
月のウィータ(2016-2018)
ああ友よ星とスミレを匙に溜め夜によりよく我をしとねよ
ふるさとは要らない黒の背広着て高きヒールで時空を翔べば
黄金に冴えたる月のウィータからいざ分岐せし時を走破す
目を閉じて夜は瞼の紫に虫の卵を産むのだからね
身体を投げ記憶消せど涙さえ有れば重たく沈む魂
にんげんが機械化するのは細部から爪に歯・体毛・それに眼球
悪い宿命などない命は尽きるから真綿の星に旗は立たずに
浴用の白衣に宿る音
象牙の塔(2020)
夜を編み上げればひとはそのなかで猫を飼おうと言い出すのかも
果てしなき熱病に影は君臨す蒼き蝉の亡霊をしたがえ
自刃した記憶の宿り木 小鳥らは白き骸に首をかしげて
いまはもう手をつなぐよりはればれとさわらないでと微笑める街
花瓶があるすべての花が枯れてきたその死に場所として、花瓶が
肉片はいつまでも光り輝きて金魚は死んだなどと思わない
この世から聖者の寝具消えたとて暮れれば愚者の褥にねむ
有翅・劣化・代償(2019)
「偽果熟れり」 販売機の罅割れし声 鉄の踵で花を辿れば
みな夏の殉ずるときを待っているひかりのせかい・罪なき地上
いまはまだ二万字という裸体だがあなたにはおしむらくも名がある
敵機なし 楽園跡地の海辺では姿を捨てた兵たちの唄
澄んだ青は記憶にしか定着しない 野原の青き草の臆見
生命の正体は湿り気どうぶつがなにかの体液てからせている
閃光が星座を絶ちて沈黙の闇に臆せず雨を歌えば
犬の目
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いつか デジタルを漱ぐ人魚 無心の祈り デジタルを漱ぐ人魚のとなりに居た 溶けない光 デジタルを漱ぐ人魚のとなりに居ても居なくても 無心の祈り 長話をしてしまったと老鯨が言った 黒砂の浜に打ち揚げられて 人魚の首飾り ゆらゆら みたまが光を放つ げじげじは それを見て涙をこぼす いつか デジタルを漱ぐ人魚 無心の交霊 デジタルを漱ぐ人魚のとなりに居た 溶けない光、溶けない光は 輪郭 デジタルを漱ぐ
もっとみるむつぐぁましい22.4.4
ほんのり狐色の肢体に永遠を示唆されておかしくなってしまっただけ 痙攣がとまらなくなってしまっただけ 御神木の霊気でふりはらって 撃沈という名の不快な悦びが███████████ 乱射する光ひらり 優しいならば 善なる限りは ご容赦されるのか まさかみ さかまみ 震える限りのギムを果し、つまり生をやり抜くこと以外にすべきことがあるとは思えない ただたくさんありすぎる 暴力しかないというひともいる お
もっとみるイドの奥底〈Ⅲ〉 (2015*2021reboot)
わが夜を訪ねよ 月は見上げるな ここは愉快な王国じゃない
わが夜をさらに訪ねよ キミは「目」だ ここはそもそも王国じゃない
炎症をクリスタルのよな喉飴が慰み明日には母星へ帰る
まちがいを鸚鵡のように繰り返す キミが正してくれない限り
胸に早数千の傷 わが友は数億の星をみる眼でねむる
秋のかど わが唐突な前振りにキミは楚として爪先で立つ
月もなく罪さえもなく丸い星、点々と星、星、こわばる