象牙の塔(2020)
夜を編み上げればひとはそのなかで猫を飼おうと言い出すのかも
果てしなき熱病に影は君臨す蒼き蝉の亡霊をしたがえ
自刃した記憶の宿り木 小鳥らは白き骸に首をかしげて
いまはもう手をつなぐよりはればれとさわらないでと微笑める街
花瓶があるすべての花が枯れてきたその死に場所として、花瓶が
肉片はいつまでも光り輝きて金魚は死んだなどと思わない
この世から聖者の寝具消えたとて暮れれば愚者の褥にねむる
居たとしていずれにしてもただ友と呼ぶ以外にないそのひとだろう
街中で所属をすっと口にするひとのまことに安らいだ顔
その刹那湖水は蒼きこの星の眼として翼あるものを見ゆ
春ごとく無名の花をかぞえては午後にうつろう河辺へと撒く
温かき手は寝かしつけるように撫づどんな痛みも均しく夜へ
爪痕はつねに意思として残る赤い三日月満ちたりせずに
いま生きて消毒液の雨のなか病院なんて嫌だねと云う
もう泣かぬ鋭くはたいた手が屠る小鳥を夢に見てしまっても
受付で本の在り処を尋ねいるちょうど三十一音の声
夢を掻き出すのに丁度いい指がない人間の賢しき手には
速報にながれぬ自刃の跡形がしずかに傷むいまこのときも
カーテンの裂け目に取り憑いて消えぬおまえの蒼き影を捨て置く
いずれまた生活の書をひらくだろう靴の重さにぶつぶつ言って
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