【短編小説】悪辣な推論(1)
あるところに男がいた。男は今、宇宙空間を独りで漂流している。
男は真っ白い宇宙服を着ていた。宇宙服は正しく機能しており、エアはまだ十分にあったが、それでも数時間ももたないことを男は知っていた。男は船外調査の折、同僚に宇宙船から突き落とされた。宇宙に上も下もないのだから突き落とされるという表現は正しくないのかもしれないが、男には果てしなく広がる宇宙の闇の中に落とされたように感じた。
男は宇宙船から突き落とされ少しばかり藻掻いてみたが、すぐに何の解決にもならないことを知った。