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小説:ペトラの初陣

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「進撃の巨人」リスペクト小説です。 ペトラ・ラル、旧リヴァイ班、そしてペトラ父に捧げます。 長いですが、良かったら読んでみて下さい。
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記事一覧

【小説】ペトラの初陣 82

「どうした、リヴァイ?」

 ハンジとの会話を止め、エルヴィンが反応の薄いリヴァイに尋ねる。

「何を考えている?」

「エルヴィン。

 俺の特別作戦班だが、もう1人加えていいか?」

「確か決まってるのは、グンタ、エルド、ペトラだったな。

 あとは誰だ?」

「……まあ、あいつだ」

 しぶしぶながら、リヴァイは指を差した。

「マジですか、リヴァイ兵士長殿!」

 オルオはそう叫ぶと一目散

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【小説】ペトラの初陣 81

「生かしたまま捕えるのは、無理だったな」

 少し後ろの方で、エルヴィンが並走するリヴァイに話し出した。

 もはや人数も少なく、穏やかな馬速なので、自然と会話は聞こえてくる。

「ああ。地下から外に脱出するルートもあった。

 それに気づかず、巨人を追って俺とハンジは大広間へ向かった。

 それも今回の遠征で犯した大きな失敗の一つだ」

「巨人よりも、むしろミュンデを追ったのか?」

「俺はその

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【小説】ペトラの初陣 80

【16】

 
 空が、青白んできた。

 もう雨の気配は微塵もない。

 馬上にいたせいでもないのだろうが、誰も何も話さなかった。

 生き残った兵士たちを乗せた馬の足音と、

 もう動くことのない兵士たちを積んだ荷馬車の音だけが、響いている。

 ペトラにとって、あまりにも長すぎる一日だった。

 あまりにも濃すぎる一日だった。

 多くの仲間の死。

 母、シビラの失踪の真相。

 ミュンデ

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【小説】ペトラの初陣 79

 体が、ふわりと宙に舞った。

 その男は、ぺトラを抱きかかえたまま、扉付近まで移動する。

 ぺトラは声も出なかった。

 リヴァイ兵長。

 手にしていたアンカーを、今は地面に放り捨てていた。

 ぺトラが撃ち放った、一発目のアンカー。

 それは信煙弾の弾幕に紛れて、ミュンデの背後へと飛んでいった。

 外れたのではなかった。

 リヴァイの指示に従い、あえて外したのだ。

 それは大広間の

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【小説】ペトラの初陣 78

 同じ手は通用しない。

 今度は巨人はそれを手でつかむ。

 そのまま握りつぶす。

 さっきまで血まみれだった手のひらの中から、

 今度は黒い煙がもくもくと膨れ上がった。

 そして巨人はエルヴィンめがけて腕を伸ばす。

 エルヴィンが逃げる。

 そこでぺトラは撃った。

 アンカーを射出。

 しかしそれは、ミュンデの体から逸れていく。

(もう一つ!)

 別のアンカーを、撃ち放つ。

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【小説】ペトラの初陣 77

 流れるような動作で窓際に積み上げられた瓦礫の山を、

 片手でゴッソリとかきだした。

 その陰に隠れていた兵士が一人、捕まる。

 言葉にならない悲鳴が上がった。

 ミュンデは食いつかない。

 そのまま握りつぶした。

 何度聞いても受け入れがたい音。

 無慈悲に命が消える音。

 巨人の指の間から、赤い液体が飛び散る。

「やめるんだ、ミュンデ!」

 エルヴィンの声だ。

 団長が突

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【小説】ペトラの初陣 76

 互いの距離は、松明の炎を挟んで10メートルほど。
 

 このくらいの明かりがあれば、身振りは目視できる。

 

 土煙が完全に収まってから松明を投げたとしたら、

 
 すぐにその位置を把握して巨人はリヴァイを襲っただろう。

 兵長の素早い判断に感心しながら、ぺトラはサインを読み取ろうと目を凝らした。

 リヴァイはブレードを床に置いた。

 足元にひざまずいているオルオの胸ぐらをつかんで

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【小説】ペトラの初陣 75

 今すぐ、

 一秒後にでも、

 私も、

 あの窓際にいた兵士や、

 伏せろと忠告した兵士や、

 壁際にいた女性兵士みたいに、

 死ぬかもしれない。

 痛みなど感じる間もなく。

 そう思うと、息が吸えなかった。

 周りが暗い。

 何も見えない。

 そこへ。

 大きな光の塊が、ふわりと宙を描いて飛んできた。

 ぺトラがしゃがみこんでいる、ほんの2、3メートル手前に転がって、止

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【小説】ペトラの初陣 74

 巨人化してしまった以上、ミュンデさん自身の意識はおそらくない。

 でも、身体能力の高さや発想の柔軟さが残ったままだ。

 となると。

 生半可な方法では、絶対倒せない。

 装置を身に着けているぺトラの不安は高まった。

 また、天井を破壊されて気づく。

 さっきよりも弱まっているが、雨はまだ止んでいない。

 残り香のような雨が、ぺトラの髪を濡らしていく。

 手元や足元は滑りやすくなっ

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【小説】ペトラの初陣 73

【15】

 カーテンの炎の明かりは、風圧で消えた。

 だが、床にはまだわずかに残り火がある。

 視界が完全な闇で覆われているわけではない。

 それは絶望でもあり、希望でもあった。

 地獄がまだ終わっていないことが見て取れるし、

 終わらせるにはその明かりが必要だからだ。

 巨人の両目が急に動いた。

 ギョロリと一回転する。

 その視線が、特定の人物に据えられて、止まった。

「逃

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【小説】ペトラの初陣 72

「おい、オルオ。

 お前の立体起動装置を俺に貸せ」

「え?」

「俺は誰の装置でも扱える」

「……本当ですか?」

 本当だろうか、とぺトラも思った。

 しかも、兵長とオルオでは、身長差が結構ありそうに見える。

 ただ、立体起動装置自体にサイズのバリエーションはなく、

 せいぜいブレードの長さや重さなどを自分で使いやすく改良するくらいだ。

 もちろんそういった微調整が生死を分ける境目

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【小説】ペトラの初陣 70

「ありがとう、オルオ。助けてくれて」

 ぺトラは命の恩人に感謝を伝えた。

 考えてみれば、オルオは訓練兵時代、常に成績上位者だった。

 特に刃の振りの早さと正確さでは、群を抜いていたのだ。

 だがオルオは、なおも突っ立ったままだ。

 かなり辛そうな表情をしている。

 出血した鼻が痛むという様子でもない。

「ぺトラは……気づいてたよね?」

 怯えたような目で問いかける。

 ぺトラが

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【小説】ペトラの初陣 69

 巨人に揺さぶられた勢いで天井から切り離され、

 そのままぺトラめがけて飛んできた。

 なんというタイミング。

(――!)

 ブレードで防ごうとしたが、それごと腕にぶつかる。

 弾かれるようにして一回転し、ペトラは壁に激突した。

 衝撃で息ができない。

 視界も飛んだ。

 その音に気付いて、巨人が走って近づいてくる。

 もう、潰れた片目も両足も回復し切ったのだろう。

 痛みで目

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【小説】ペトラの初陣 68

 窓の外が真昼のように光った。

 すぐに雷の音が続く。

「今だ。装置を付けろ!」

 ハンジが大広間にいた兵士たちに向かって叫ぶ。

 巨人が倒れている隙をついて、広間内の兵士たちが一斉に窓際まで走る。

 どうやら兵士たちはそこにまとめて立体起動装置を置いていたようだ。

「熱っ!」

 最初にたどり着いた金髪で口髭の兵士が、装置に触れた途端、手を引っ込めた。

 
 ミケだった。

 
 

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