【小説】ペトラの初陣 81

「生かしたまま捕えるのは、無理だったな」

 少し後ろの方で、エルヴィンが並走するリヴァイに話し出した。

 もはや人数も少なく、穏やかな馬速なので、自然と会話は聞こえてくる。

「ああ。地下から外に脱出するルートもあった。

 それに気づかず、巨人を追って俺とハンジは大広間へ向かった。

 それも今回の遠征で犯した大きな失敗の一つだ」


「巨人よりも、むしろミュンデを追ったのか?」

「俺はそのつもりだった。


 とにかく死なないように捕まえて、縛り上げておきたかった。


 だがまさか地下に穴を掘ってあって、


 それが中庭の井戸につながっているとはな。

 昼間に中庭を掃除した時、井戸の中には縄梯子がかけられていた。

 おそらく貴族のものだった頃に作られた抜け道なのだろう」

(ああ)


 だからミュンデさんは中庭で巨人化することができたのだ。


 巨人化する時の発光を、落雷の光に紛れさせて。


 だから突入に気づくのが遅れ、犠牲者が出た。

(まったく)

 人間じゃなくなる最後の最後まで、いちいち頭が切れる人だ。

 恨めしく思いながら、ペトラは2人の話に耳を傾ける。

「発つ前にエルドが正門の周囲を広く探って見つけたんだが、


 朽ち果てた表札を丁寧に拭いてみたら、そこには『クライネルト』と書かれていた」


「なんだと? ということは」 

「ああ、そうだ。この屋敷は元々はミュンデの家ってことだ。


 どうりで詳しいわけだ」

「ミュンデは地下に監禁していた2人を巨人化させ、


 我々を殲滅してくれることを期待した。

 外から様子を窺っていたが、


 2体の巨人の声が聞こえなくなったため、


 その作戦が不首尾に終わったと判断、やむを得ず自ら巨人化した。

 そうすれば意思疎通もできなくなり、


 自分がウォール教側の情報提供をしてしまうリスクもなくなる――」

「見事にしてやられたな」

「だが今回の遠征で、はっきりしたこともある」

 エルヴィンはリヴァイを慰めるように言った。

「すべての巨人は、元々人間であった可能性が高い。

 さらに、2年前のウォール・マリア陥落時に襲ってきた超大型巨人だが、

 壁の開閉扉を狙って蹴ったかもしれないことを考えると、

 知性を持つ巨人が存在する可能性もある。

 そして、いるとしても、数に限りがあるということだ。


 ミュンデは巨人化しても、動きは確かに鋭かったが、知性を持ってはいなかった」

「ああ、だからブレード一本という戦力だけでもなんとか倒せたしな」

 

「そうだ。


 その点に関しては、運がよかった。

 もっとも、どうやって巨人化するのか、

 さらに一度巨人化した後で、再び人間に戻ることができるのかなど、

 疑問点はまだ多い」


「ミュンデの死体が消えちまったからな」


「いずれにしろ、はっきりと決まった方針が一つある」


 エルヴィンは前方を見据えて言った。

「今回のミュンデの件を、憲兵団や王都へ報告するのは控えよう。


 彼らが、我々調査兵団と相反する考え方を持っている可能性が高いからだ」

「もちろん、ウォール教の連中にもね」


 いつの間にかハンジがそばに戻ってきて言った。

 この人はいつも、気がつくと会話に割り込んでくる、とペトラは思った。

 目が悪い分、耳がいいのだろうか。

 エルヴィンとハンジの会話がまた始まった。


 ぺトラは兵長を見た。

 
 兵長は、ぼんやりとその会話を聞いている。

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