【小説】ペトラの初陣 76

 互いの距離は、松明の炎を挟んで10メートルほど。
 

 このくらいの明かりがあれば、身振りは目視できる。


 

 土煙が完全に収まってから松明を投げたとしたら、

 
 すぐにその位置を把握して巨人はリヴァイを襲っただろう。


 兵長の素早い判断に感心しながら、ぺトラはサインを読み取ろうと目を凝らした。

 リヴァイはブレードを床に置いた。

 足元にひざまずいているオルオの胸ぐらをつかんで、立たせた。


 そして、オルオの腰のベルトの、ちょうど側面のあたりを指さして見せる。


 ぺトラは凝視しつつ、思考を巡らす。


(ブレードの、ストッカー?)


 いや、違う。

 もっと体に近い部位を指さしている。


 腰に取り付けられた、射出機のあたりを。


(ワイヤー……?)


 ぺトラは自分の装置の、ブレードから繋がれているコードを手に持ち、


 少し掲げるようにして見せた。


 リヴァイが大きくうなづく。 

(よかった!)

 答えはあっていたらしい。

 

 突然、天井から凄まじい咆哮が鳴り響いた。

 
 巨人が威嚇している。


 動揺して姿を見せたら終わりだろう。


 さすがに誰も動かない。


 静まるのを待って、沈黙のやり取りを続ける。


 リヴァイはオルオから手を離すと、地面に置いたブレードを再び持ち上げ、


 今度はぺトラを指さした。


 それから、自分のブレードを示し、それを小さく振ってみせる。


 最後に、人差し指を一本だけ、立てた。


 とりあえず、ぺトラは最後の動作の意味だけは理解した。

 チャンスは、一度きり。

 兵長はそう言っている。


 しかし、残りの仕草は何を表しているのだろう?


 私のワイヤー。


 兵長のブレード。

 ワイヤーと、ブレード。


(まさか――)


 ぺトラは意図に気づく。

 息を飲んだ。

 


 そんな。


 まるで、曲芸みたいな。


 できるわけがない。


 ぺトラはリヴァイに対して、激しく首を横に振った。


 リヴァイはそれを見つめていた。


 そして、大きく一回、うなづく。

 やれ。


 そう言っていた。


 やれる、やれない、ではない。


 やるしかない。


 選択肢が他にないのだ。

 ぺトラはリヴァイを見つめたまま、大きく息を吸った。


 そうだ。


 兵長なら。


 不可能じゃないかもしれない。


 今まですべて、不可能なことを、可能にしてきたのだ。

 
 その時。

 ほとんど音もなく。


 ただ風だけが、


 死の臭いをまとって迫ってきた。

 巨人が宙を舞って地面に降り立った。

 
 床に着地した衝撃が鳴り響く。

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