【小説】ペトラの初陣 82

「どうした、リヴァイ?」


 ハンジとの会話を止め、エルヴィンが反応の薄いリヴァイに尋ねる。


「何を考えている?」

「エルヴィン。


 俺の特別作戦班だが、もう1人加えていいか?」


「確か決まってるのは、グンタ、エルド、ペトラだったな。


 あとは誰だ?」


「……まあ、あいつだ」


 しぶしぶながら、リヴァイは指を差した。

「マジですか、リヴァイ兵士長殿!」

 オルオはそう叫ぶと一目散にリヴァイに近づいてきた。

「お願いします!


 ぜひ、加えて下さい! 


 僕は……いや、俺は、やりますよ! 

 必ず、巨人を、一匹残らず、掃討します! 

 約束します!」

「もう、逃げるなよ」


「はいッ!」

 リヴァイの疑わしげな眼差しをものともせず、オルオは威勢のいい返事をした。

 それからオルオは急に馬の進路を変え、ぺトラの方にズンズンと近づいてくる。


「おい、ぺトラ」


「え、なに?」


「今日の結果。


 君は、いや、お前は、討伐数1。補佐2。


 僕……じゃなくて、俺は、討伐数1、補佐0だけど、


 まだまだ勝負は始まったばかりだからな。


 

 い、いい気になるなよ!」


「……何それ?」


 今日の戦闘でそんな細かいことまで数えていたとは。


 あと口調が急に変わって、気持ち悪い、とペトラは思った。


 
「おい、お前ら」


 背後から声がかかる。


 ぺトラの身が硬直する。


「これからが本番だ」

「はいッ!」「はい」


「今回の遠征なんぞ、まだほんの遊びに過ぎねえからな」

「はいッ!」「はい」


 トロスト区の城壁が見えてきた。

「俺の作戦斑に入ったからには、

 壁外調査が遠足に思える日々を用意するから、覚悟しておけ」


 2人はまた同時に返事をした。


 リヴァイは2人を追い越していく。


 すれ違う際に、ペトラはリヴァイと目が合った。


 それだけで、呼吸がどうしても、止まってしまう。

 日が昇った。


 太陽の光に照らされて、リヴァイ兵長の姿が浮かび上がる。


 逆光で、表情はよく見えない。


 厳しい言葉にも、心からのねぎらいを感じる。


 オルオはただ、それを見つめているだけで、返事もできなかった。


 ぺトラはまた、ポケットの中でスカーフを握りしめた。


 そして決意した。

(いつかお父さんに、手紙を書こう)


 今は疎遠になっている、父に。


 その時、伝えよう。



 私はお母さんのように、調査兵団に、

 そして何よりもこの人に、すべてを捧げるのだと。


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END

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