【小説】ペトラの初陣 68

 窓の外が真昼のように光った。

 すぐに雷の音が続く。

「今だ。装置を付けろ!」

 ハンジが大広間にいた兵士たちに向かって叫ぶ。

 巨人が倒れている隙をついて、広間内の兵士たちが一斉に窓際まで走る。

 どうやら兵士たちはそこにまとめて立体起動装置を置いていたようだ。


「熱っ!」


 最初にたどり着いた金髪で口髭の兵士が、装置に触れた途端、手を引っ込めた。


 
 ミケだった。


 
 燃え盛るカーテンが装置を覆い、火が燃え移っている。

「こんなんじゃ着れねえぞ!」

 ミケが声を荒げる。


 その背後で、粉々になったソファが揺れ動いた。
 

 巨人のもう一方の脚を切断しようとするリヴァイが、ぺトラの視界に映った。

 しかしそれをものともせず、巨人は残った脚を切られながらも突然、跳んだ。


 同時に、目から杖も抜いて捨てた。

 両足を失ったまま、天井の巨大なシャンデリアに飛びついた。

「避けろ!」


 リヴァイが叫ぶ。


 巨人は、ダイブした。

 窓際で装置を身に着けようとしていた兵士めがけて。

 

 ミケは辛うじて身をかわした。

 だが、もう一人が巨人の下敷きになる。

 悲鳴が一瞬だけ上がり、すぐに消し潰れた。

「ゲルティ!」


 ミケが叫ぶ。


 同時に、そこに置いてあったほとんど全ての立体起動装置も圧し潰され、


 廃棄物と化した。


「クソッ!」


 ミケは床を拳で叩いた。


「どうすんだよ! 武器がねえぞ!」


「落ち着け、ミケ」


 リヴァイが毅然と言い放つ。


「今、身につけてる奴らが倒せばいいだけだ」


 口にしながら、扉の方を振り返った。


「来い、ぺトラ。俺が引きつける」

 急に名前を呼ばれて、ぺトラは驚いた。

 誰もが巨人との戦闘に目を奪われていて、


 自分の突入については誰も気づいていないと思っていたからだ。


「はい!」


(リヴァイさんは常に全体を見ている)


 
 そう確信してぺトラは即答した。


 短く命じた後、巨人に向かって走り出すリヴァイの後を追う。

 床のあちこちに炎が燃え移っていた。


 おそらく地下にいる間にこの巨人は全身に油を浴びせられ、


 火を点けられたに違いない。

 その油がまばらが垂れ落ちたせいで、炎が床に点在しているのだ。


 点けた人間は一人しかいない。


 ミュンデだ。


「お前はそっちだ!」


 ぺトラはリヴァイの指示通り、反対側の壁に向かった。

 炎を避けつつ、リヴァイはあえて瓦礫を踏み鳴らし、


 音を立てながら左側の壁に沿って駆け、突き当りの巨人まで近づいていく。

(さすが兵長)


 こちらを一度も見ることなく、うまく巨人の気を引いている。

「食ってみろよ!」


 リヴァイがソファの手前にあった椅子を片手で掴み、巨人の頭に向かって投げた。


 同時にぺトラは走りながら、ブレードを抜く。


 タイミングを見計らって、アンカーを射出――。


 その矢先だった。

 炎が舞い上がった。


 次の瞬間、巨大なものがいきなり目の前に現れた。

 シャンデリア。

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