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二人日記【小説】

・4月21日晴れ
突然ですが、交換日記をしませんか?私の名前は沙也加です。あなたの名前を教えて欲しいです。返事を書いてもらえたら、朝8時に同じ靴箱に入れて欲しいです。一日に一人のペースで交換したいです。って突然こんなことを言われても戸惑うよね。嫌だったら、この交換日記を捨ててもいいよ。

・4月22日晴れ
僕はタカシといいます。朝、普通に登校してたら、このノートが合った。突然過ぎて動揺しています。何から聞けばいいのかな?これでいいのかな。お返事お待ちしています。

・4月23日晴れ
タカシさんって言うんですね。返事を書いてくれてありがとうございます。趣味の話とかしましょう。私の趣味は星を眺めたり、読書をしたりすることです。タカシさんは好きな趣味ありますか?教えて欲しいです。

・4月24日晴れ
僕の趣味も読書です。沙也加さんの好きな本はどんなジャンルですか?僕も教えてほしいです。

省略

・5月22日晴れ
交換日記を初めて丁度1ヶ月が経つのかな。僕はふいに、交換日記を始めた時を思い出した。学校に登校すると僕の靴箱の中に一冊のノートが入っていた。僕は「何だこれ?」と思って取って中身を見ると、そこには『突然ですが交換日記をしませんか?』から始まる文が書いていた。沙也加という女の子の名前は知らないし、顔も思い浮かばない。違うクラスの子だと思った。なぜ、違うクラスの僕に交換日記を持ちかけたか分からなかった。

・5月23日晴れ
昔から友達の居ない私は、誰かと話したかった。でも、いざ人と話すと恥ずかしく感じた。だから私は交換日記を始めることにしたの。それだったら知らない相手でも、自分の気持ちを伝えられると思った。ランダムにどこかの男子の靴箱に日記を入れた。それが、タカシで良かった。こんな私と日記のやりとりしてくれるなんて思ってもいなかったから。ありがとう。

・5月24日晴れ
この一ヶ月でいろいろな話をしたよね。確か、ルールは僕が朝の8時に日記を僕自身の靴箱に入れておくと、放課後には沙也加が持って帰ってくれる。次の日の朝には日記が戻っている。一日一人、二日で二人、その繰り返し。二人は実際に出会わないこと。ルールは、その二つ。それでも僕は、そんな毎日が楽しい。沙也加と話していると楽しくなれる。好きなこと、嫌いな先生や、好きな芸人、沙也加と他愛のない話をしてるだけで楽しい。

・5月25日晴れ
なんだか、不思議な感じだよね。何回も交換しているのに相手の顔を知らない。けれど、こうやって話している内に、その人の性格まで分かる。文面から分かるタカシの優しさ。タカシは優しい人なんだね。私、優しい人が大好き。

・5月26日曇り
沙也加の方が優しいよ。いつか忘れたけど、日記に動物好きって書いていたよね。その中で沙也加が一番好きなのはウサギ。動物好きに悪い人はいないと思ってるんだ。逆に顔を知らない人だから話せることもあると思う。近すぎず遠すぎずの関係。

・5月27日雨
ありがとう。最近、体の調子がおかしいの。なんだか気分がどんよりする。窓から見える景色が雨だからかな。雨は心までしとしとさせる。お母さんやお父さんに体調が悪いことを言っていない。言うことすら体調のせいで、面倒くさいの。タカシは体調大丈夫?

・5月28日雨
僕は大丈夫。それより、沙也加の方が心配だよ。病院で検査してもらったら?僕は沙也加と交換日記を続けたいから、沙也加が健康でいて欲しいと思っている。

・5月29日嵐
お母さんに体調のこと伝えた。お母さんに連れられて、近くの大きな病院に行ってきた。検査した所、脳に異常が見つかったらしい。私不安。来週、再検査するらしい。

・5月30日曇り
沙也加。心配だよ。脳の異常って?再検査して何もないことを祈っている。

・5月31日雨
私、不安で夜も眠れなかった。

省略

・6月6日嵐
再検査の結果、担当医から余命を宣告された。私、もうすぐ死ぬらしい。手術しても生き延びることが出来ないって。運命って残酷だよね。

・6月7日曇り
余命って、本当に?なんで、どうして沙也加生きられないの?

・6月8日雨
余命3ヶ月だって。私、生きたい。死にたくないの。どうして運命って残酷なんだろう。まだまだやり残したこともあるし。生きたい。生きたい。

・6月9日晴れ
僕と沙也加は同じ空の下で生きている。沙也加が生きる残された時間を大切にしよう。一日一日の日々、いや一秒一秒が大切な時間だよ。僕はルールを破ってまで沙也加に会いたい。

・6月10日晴れ
それは駄目だよ。最初に約束したじゃない。決して出会わないこと。大切な時間……。残された時間をどう使うか考えてみた。私、海外旅行に行くことにした。最後に見てみたい景色があるの。スイスのユングフラウヨッホという場所。とても綺麗な景色らしいの。そう旅行雑誌に書いていた。最後に冥土の土産として眺めたい。

省略

・7月2日晴れ
海外旅行に行ってきました。目的だった景色を見れた。雪に囲まれた巨大な山。自然って凄い。もうすぐ死ぬことを忘れそうになった。死ぬのが、この景色のように壮大な嘘だったらどんなにいいのだろう。

・7月3日晴れ
沙也加が亡くなるは嫌だ。沙也加が生きた記録を、この日記に残そう。二人で書いた日記は永遠に残る。だから、辛いことや楽しいことを最後の最後まで日記に残そう。忘れないように、日記に刻み込もう。

・7月4日雨
これから病院で入院生活が始まる。やっぱり、もうすぐ死んじゃうらしい。なんか、諦めがついた。私は死を待つ覚悟を決めた。いつ死ぬのか分からない恐怖を感じながら、死ぬのを待つだけ。タカシとの日記楽しかったよ。ありがとう。

・7月5日曇り
そんなことを言ったら駄目だ。簡単に死を感じたら駄目だ。沙也加、最後まで諦めるんじゃない。最後の最後まで生きる希望を持とうよ。

・7月6日曇り
諦めるなって。私の辛さがタカシに分かるの?私は、私は……生きたいの。

・7月7日晴れ
僕は確かに本人じゃないから沙也加の苦しみは分からない。でも、分からないなりに僕は沙也加を元気にしようと思っている。こんなこと突然言っても戸惑うと思うけど言う。だって僕は沙也加のことが好きなんだ。

・7月8日快晴
そんなに私のことを思ってくれるなんて。病気のせいで少し、イライラしていた。ごめん。そして、ありがとう。私もタカシのことが好きだよ。

・7月9日晴れ
沙也加。僕は沙也加を愛し続ける。これまでもこれからも。この日記に刻み込み続ける。

・7月10日雨
体全体が痺れる。手の感覚もおかしくなってきた。もう日記は書けない。しばらく日記はお休みします。そして、この日記をタカシに預けます。二人の思い出が詰まった大切な日記。大切に持ってて。

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・9月1日晴れ
タカシさんへ。いや沙也加へになるのかな。私は沙也加であり、タカシの母です。沙也加が亡くなりました。昨日の夜、病院のベットで安らかに眠りに付きました。

沙也加の寝ていた枕の中から出てきた、この日記を初めて見たとき、驚きました。知らない男子と交換日記をしていたのだから。私は不思議に思いました。4月の始めから沙也加は病院のベットから出ることが出来なかったのです。看護師の話によると出入りしていた同級生は居なかったと話していました。では誰と私に内緒で交換日記をしていたのか。

私は分かりました。沙也加はタカシという架空の友達、いや恋人を作って寂しさを紛らわしていたのですね。私はもっと早くに気付くべきでした。寂しい思いに気付けなかった。この交換日記は棺桶に入れたいと思います。天国でも、この日記を使えるように。

私は正直迷いました。この交換日記に参加していいのかを。二人の思い出に参加していいのかを。迷惑なのは分かってます。でも、この日記に最後の締めくくりとして、このメッセージを追記しました。沙也加、天国でも幸せにね。

〜作者からのメッセージ〜
沙也加とタカシが書いた日記の内容だけで物語は進んでいく。二人の心情を描けない分、日記にはストレートに描いた。日付の横に記載されている天気にも注目です。今回の作品は作者としては珍しい作風でチャレンジしてみました。物語の重要な部分だけを執筆し、省略するものはする。かといって短くならないように気をつけました。最後の結末を予想された読者は居るだろうか。二人の日記で、最後に沙也加が亡くなるだけじゃなくて結末を意外にする。これが作者自身がハマっている作風です。

植田晴人
偽名。小説のタイトルはカッコいい、なおかつシンプルを心掛けています。



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