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春は好きだけど、苦手な季節

「好きな季節は?」と聞かれたら、迷わず「春」と答える。単純に気候がいい。光や風の具合がちょうどよく、不快感がない(花粉や黄砂は別)。

基本的に一人でいる方が、楽で好きだ。だけど春になると、誰かに会いたくなったり、新しい場所に出かけたりしたくなる。普段はあれこれ考えすぎて、なかなか行動できない私を、そんな気分にさせるのだから、季節の力ってすごい。

あと5月が誕生日っていうのも、春が好きな理由のひとつかもしれない。自分が生まれた季節って、「私の原点」みたいで、思い入れが強くなる気がするもの。

だけど「好き」と同時に、春は苦手な季節でもある。矛盾しているのは分かっている。でも本当のこと。

まず、新緑がまぶしすぎる。太陽の光の反射だけでなく、植物たちのパワーが強くて、圧倒されてしまう。私に見せつけるかのように、ぐんぐん葉をつける木々に、「ほら、君もこうやって成長してみなよ。ま、無理だろうけど」と、言われている気分になるのだ。

もちろん、私の勝手な妄想だ。だけどその感覚は、高校時代うつ病になり、突然学校に行けなくなったときと似ていて、苦しい。

春は新年度で環境が変わったり、新しいことに挑戦したり。そんな人たちが増える。人と比べたって仕方ないのに、周りが新しいステージに進んでいくなか、私だけ取り残されてしまったように感じるのだ。

ほのかに甘い、土や花の香りもセンチメンタルをかき立てる。くたびれたガーゼの肌掛けみたいな風に包まれると、「ああ、大人になってしまったな」と、少し寂しい気持ちになる。

思い出、現実、目指すもの。いろんなことがゴチャ混ぜになって、押し寄せてくる。そして、感情をおさめるべき場所が分からず、手に持ったまま立ちつくしてしまう。「この気持ち、どうしたらいいの」って。

それでも「好きな季節は?」と聞かれれば、やっぱり「春」と答える。ポカポカ陽気の日にベランダにレジャーシートを敷き、娘とごはんを食べるのが最高に幸せ。そこに、春風が吹けば、もう何も文句は言えないのだ。

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