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【改訂版】貪欲な表現者・三浦春馬の本気に溺れる 天外者(てんがらもん)

※本作は、以下noteの改訂版です

とにかく五代さんを演じた期間はとても充実していたし、三浦春馬という俳優としても、ひとりの男性としてもベストを尽くすことが出来たと胸を張って言える作品になりました。
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『日本製』 巻末ロングインタビューより

三浦春馬さんが自らの口で語った、「天外者(てんがらもん)」。
役者として、常に全力疾走してきた彼が「ベストを尽くすことが出来たと胸を張って言える作品」だという。

断言しよう。「天外者(てんがらもん)」は、役者・三浦春馬がコツコツ積み上げてきたものすべてを、余すところなく堪能できる作品になっている。

このnoteは、五代友厚に命を吹き込んだ、若き貪欲な表現者のいう「ベスト」を心から讃える、一ファンの記録である。

以下に簡単な人物相関図を貼っておく。

天外者相関図

1.細かい表情・仕草の演技

【遊女・はるとのシーン】
橋の上から身を乗り出すはるを救ったことで、二人は出会う。
才助のなんとも言えない純朴さと、少年っぽさが垣間見える。はると会話するシーンの話し方と表情からは純朴さを。子どもたちとの会話と笑顔からは少年っぽさを。それぞれ微妙に変えて表現している。いつもの作品で見られる、細やかな三浦春馬さんのお芝居だ。

この後、はるが侍に絡まれるシーンでは、
はるの「世の中のことを知りたいんだよ。夢くらい。見たっていいだろう」という言葉に共感し、感じ入る才助の表情と、助けに入る時の凛々しさを見せてくれる。

はるとのシーンで言えば、サナトリウムを訪れた際、肺病で臥せっているはるの手を握る、才助の手の美しさには本当に惚れ惚れする。
大きな掌ではるの手を包み込み、長い左手の人差し指と、右手の親指で愛おしそうにはるの手を撫でるその仕草に、どれほどはるを愛しく思っているのかが感じられて、切なく胸が締め付けられる。

【利助(のちの伊藤博文)とのシーン】
攘夷派の武士たちに追いかけられて、逃げているときに利助にぶつかり、落としたので壊れた万華鏡。それを手に、才助に食って掛かる利助に謝って、万華鏡を器用に直していく。

感心する利助に、藍色の手ぬぐいで汗を拭きながら、いたずらっぽく「イギリス留学か?」と尋ねる。なぜそれを?という表情の利助に、コナン君よろしく、謎解きの説明をする才助の得意げな表情が、とてもかわいい。
このシーンでは、才助が「ものの仕組みが見えている」ということ、「持っている情報から蓋然性の高いことを推測する能力」に長けていることが明らかになる。そして、それをいかにも当たり前のように、いたずらっぽい表情で披歴する、才助。嫌味も邪気も全くない人であることを、ほぼ表情と声のみで表す三浦春馬の凄みをここでも感じる。

遊郭で、グラバーや龍馬と出会うシーンでの「井の中の蛙」扱いされた才助が怒り、それを龍馬が茶化すシーンでの表情も、純朴さと少年っぽさが同居する才助らしい、良い表情だ。

映画の中では、正味110分ほどの本編のうち、ここまでおおよそ15分ほどであろうか。いや、20分ぐらいだったか。はっきりとは覚えていないが、とにかくかなり早い段階で、三浦春馬という役者は、五代才助の人柄をほぼ表情の演技で表現しきっているのである

平常運転といえば平常運転なのだが、やはり、感じ入るものがある。

「森の学校」で初主演を果たしてからおよそ17年。本作では、天性の細かい表情の豊かさに加えて、積み上げたスキルによる表情と声での表現力を、余すところなく見せてくれている。

2.積み重ねた努力の賜物(スキルアップ)

【殺陣】
龍馬と逃げるシーン。
攘夷派から命を狙われているため、追いかけられて逃げる才助と龍馬。逃げる道すがら一緒になり、二人は袋小路に追い込まれる。

ここで、三浦春馬さんが披露する殺陣が素晴らしい。
いわゆる、薩摩の示現流と呼ばれる構えではないだろうか、と思うのだが詳しくないのでよくわからない。

殺陣は、「五右衛門ロックⅢ」「サムライ・ハイスクール」で見ているはずなのだけれど、身体の厚みが増したというか、日々ハードな筋力トレーニングを繰り返し、体幹が強くなったおかげで、キレとスピードが増しているし、何より刀を振るっているときの姿勢がとても美しい。三浦春馬さんの役者としてのたゆまぬ努力とその成果を、見せてもらえた気がする。
(筋トレについては、2019年末の「堂本兄弟」出演時に語っている。冬なのに体脂肪率11%って、寒くないのだろうか)

【英語】
・遊郭のシーン
長崎の遊郭で、ともに武士たちから逃げて、相手を追い払った坂本龍馬と五代才助は再び出会う。どういう経緯で集まることになったのかはわからないが、武器商人トマス・グラバーと、坂本龍馬、岩崎弥太郎、五代才助が遊郭の一部屋に集まる。
才助はグラバーに言う。

They were helpful the document from before (うろ覚え)

この時の、英語のセリフが、少したどたどしいのを覚えていてほしい。

・薩英戦争で捕虜になるシーン
「指揮官に会わせろ」と言い、指揮官に「われらの武器庫の場所を教える」という才助。「裏切者!」と大きな声を出す森本は部屋から追い出され、英兵と指揮官と才助だけになる。

才助はそばにあるランプを一瞥し、薩摩の兵力について説明する。信じない敵の指揮官。「ならば、これで信じるか」そういった刹那から、敵の指揮官の首元にサーベルを突き付ける才助が現れるまでのほんの数秒間のシーンが、実に美しくて、観ている私は一人悦に入る。
このシーンの三浦春馬さんは、この世の者とは思えないほど麗しい。

続けて、才助が英語で話し始める。聞いている私の耳が驚く、きれいなBritish English。もちろんネイティブのそれとは違う。日本人が頑張って話す、Britishだ。OやAなんかの母音はそこそこイケてる。でもBritishの子音までは再現しきれてなかったりする、あれ。

最初にグラバーと会ったシーンが1857年で、薩英戦争が起きたのが1863年。6年経っているから、たどたどしかった英語が上手くなっているのは当然として、British Englishである。発音が明らかに違う。才助の中の人がシンシアのコンサートの時に話していた英語と違う。「Not my father’s son」を歌っていたあの時とも違う。

そして、歴史好きの心に響く言葉が、才助の口から放たれる。もちろん英語だったのだが、日本語で記しておく。

「勇敢に戦って敗れた国は、また立ち上がれるが、逃げた国に未来はない。我々はそのことをよく知っている」

明らかに、「島津の退き口」のことを意識したうえでのセリフだと感じた。

この「我々はそのことをよく知っている」にあたる、最後の英語のセリフの言い方が、またいい。

島津義弘を守りながら懸命に撤退したであろう、先人へ思いを馳せながら、英国海軍の指揮官に「覚悟しとけよ」というニュアンスを伝える。かつ、母国語ではない言語でそれがきちんと表現できている。

春馬さんの、「海外でやりたい」は本気だったのだなと強く感じたこのシーン。英語できちんと演技ができることを証明している。しかも、いつもの春馬さんクオリティで、だ

『日本製』の巻末インタビューで、殺陣を習っているのは具体的な役が来たからというわけではなく、いつか海外で演じることになったとき、必要となるはずだからと語っていたことを思い出す。英語に関しても、2017年の「オトナ高校」撮影の際、ちょっとした合間さえあれば英語の勉強をしていたと高橋克実さんが語っていた。真剣に海外で演じることを夢見ていたのだろう。

どこまでも、先を見据えて地道な努力を積み重ねていた人だったことを思い知る。佐藤健さんと出演していたDVD「HT」の中で下手くそな英語をしゃべっていたことが、まるで嘘かのようだ。

3.俳優の枠を超えた、作品へのかかわり

ここで最初の、『日本製』にみる春馬さんのコメントに戻ろう。

とにかく五代さんを演じた期間はとても充実していたし、三浦春馬という俳優としても、ひとりの男性としてもベストを尽くすことが出来たと胸を張って言える作品になりました。

「天外者」を鑑賞してから、「ひとりの男性としてもベストを尽くすことが出来た」という言葉の意味を、ずっと考えていた。

1と2で見た通り、「三浦春馬という俳優としてベストを尽くすことが出来た」作品なのは伝わった。では、「ひとりの男性としてベストを尽くすことが出来た」というのは、どういう意味だったのだろう。

そのヒントは、やはり『日本製』の巻末インタビューにあった。

春馬さんは、本作の撮影にかかわった五代友厚プロジェクトの皆さんの熱さに触れ、史実を扱うことに対する責任の重さをひしひしと感じていたようだ。それはそうだ。「五代友厚」という人物の魅力に、強く惹かれた人たちが五代友厚プロジェクトには関わっているのだから。

関西テレビで放送された「天外者」のドキュメンタリーの無料配信を観たところ、監督と五代友厚プロジェクトの方との意見の食い違いもあったようだし、両者の意見を理解し、咀嚼したうえで役者というフィルターを通して、かかわった方がなるべく納得のいくものを現場に置いていかなくてはいけない、と感じていたのではないだろうか。

役者として、というよりも男として、自分の仕事に対する責任をどうやって果たすかという心持ちだったのだと考える。だからこそ、「ひとりの男性としてもベストを尽くすことが出来た」という言葉につながったのではないか。自分なりに、感じていた重責を果たすことが出来たという実感があった。そんな風に思っている。

また、坂本龍馬を演じた三浦翔平さん、妻・豊子を演じた蓮佛美沙子さんは正式なオファーを受ける前に「個人的にこの役をやってくれないかと誘われた」と語ってくれている。役者としての責任範囲を超えたところでも、「自分の仕事に対する責任を果たす」という心持ちであったことが感じられる。


終わりに

この作品を通じて、春馬さんの本気は、私に十分すぎるほど伝わった。いや、そういうのは変だ。春馬さんは、いつだってどんな作品に対してだって、全力であり、本気だったのだから。だけど、これまでに俳優として磨き上げたすべてを、五代友厚について学んだすべてをぶつけたであろう、この「天外者」という作品は、私にとって忘れられない作品になった。

3で触れたことについて胸をいっぱいにしていると、キンキーブーツのスタッフの言葉「He was a real leader」がまた脳裏によみがえる。

そんな風に思ってはいけないんだけれど、だからこそ「どうしてこんなことに」が止まらない。

「どうして」を止めたくて、また劇場に向かう。答えは出ない。そしてまた、何度目かの「どうして」を受け止める。「どうして」はどこかで止めなくてはいけない。あんまり欲張ったら、春馬くんがゆっくりできないから。

まだ「どうして」は止められないけれど、それ以上に春馬さんの作品にかける情熱とか、本気を強く感じる作品なので、やはり何度も映画館に足を運んでしまう。

どうしても、あのきれいなBritish Englishをまた聴きたくなる。私の耳が春馬さんの本気を受け取るからだ。

きっと、春馬さんの本気を、私は感じに行く。
何度でも、劇場で公開している限り。
DVDやBlue-rayが売り出されたら、それはもう永遠に。

やっぱり、三浦春馬は私にとって、唯一無二で、最高のエンターテイナーなのだ。

私はいつだって、この作品を観るたび、三浦春馬の本気に溺れるのだ。

※以下、改訂前のレビューを含むマガジンです。


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