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【恋愛小説】 恋しい彼の忘れ方⑬【創作大賞2024・応募作品】

「恋しい彼の忘れ方」 第13話 -統合-

新緑の侯、私は有紀先生に、こんな連絡をした。

「先生、こんにちは。
ちょっと自分で気になっていることがあって、連絡しました。
それは、『自分軸』がしっかりしていない、というところです。
他者の言動に左右される自分や、他者の目線を気にする自分を感じており、これは、母親との幼少期の関係が原因なのかな?と気になっています。
だいぶ、母親のことは認められている、だけど、自分が自分で100%大丈夫、とはいいきれていない自分。
これは、出来た事の褒め褒めをやっていけば解消するのか、それとももっと潜在意識へのアプローチが必要でしょうか?
もし、意識の深いところへのアプローチが必要であれば、先生のお力をお借りしたいです。
どうぞ宜しくお願いします。」

先生からは、個別セッションを提案していただいた。そうして、私は、「自分軸」に向き合う事にした。


セッション当日。
有紀先生は、私と共に伸びをしながら、リラックスさせてくれた。

「今回のテーマがクリアになると、どんな世界が待ってるかな?」

「自分のままでいいんだって、思えたらどっしりとすると思います。笹船ではなくて、自分がある状態がいい。どんな自分でも大丈夫、って思いたいです。
クライアントさんにセッションを提供する時に、心からの"大丈夫だよ"を言ってあげられて、信じるという感覚を掴みたいです。」

「わかりました。それでは、始めましょう。」  


私は、目を閉じた。
有紀さんに誘導されながら、イメージをしていく。
そこには、直径1m程の水たまりの上に浮かんだ笹舟に乗っている自分がいた。

ビューっと風が吹くと、波立ち、笹舟は揺れる。私はよろけて、しがみつく、そしてまた風が吹き、よろけて、しがみつく。
これを繰り返していた。

「ビューっと風が吹いてるのは、何秒ですか?」

「20秒くらい。」

「では、風が収まっているのは、何秒ですか?」

「んー、10秒くらい。」

「10秒、風がない時間がある。
風がない時は、どんな様子ですか?」

「終ってよかったな、とぼーっと当たりを見てる。風がないと、手を放して力を抜いてる。」

「風がない間は、どんな感覚ですか?」

「安心、ほわー、よかったぁって。あったかい気持ち。」

その後、有紀さんに誘導してもらいながら、イメージを、進め、感じ、自分の言葉でこんな風に話した。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

風は2、3分来なかった。
10秒数えて、数え終わったら、「これが安心だったのか」と気付いた。
安心の時は、この"風のない状態"が安心だと気づけなくて刺激を求めていた。

でも、気付いた後は、その後は凪の状態がいいのかな、安心できるなと思った。そして本当にこれが安心だ、ってわかった。

そこに向き合うまでに、時間がかかっちゃったなあ。ほっとした、よかった、で済ませちゃって、ちゃんと掴んでおこうとしてこなかった。
時間はかかったけど、今気づける瞬間で、今気づける時で、それを味わえて嬉しい。
プチプチをつぶすような、口の中で、数の子とかイクラを、ころころ転がし、ぷちっとしてみてじわっとでてきた感覚。あーこれだったんだ、味わいたかったんだ、って思った。

もう風は吹かなくなったかもしれない。
イメージできるのが、笹船だけど、自走してる。風は吹いてる、そよ風が心地よい。止んだり吹いたりしている。

風は気にならなくて、水溜まりの淵、色んな形の淵の周りを自分で自走して、確かめて、遊んでいる。

気持ちいなぁ、思う通りに運転できる。行きたいところにいける。風が無いとどんより、蒸し暑いような感じ。風があって、気持ちいその風に左右されないで、自分で動ける、楽しい。

急に、影響力の強い風がビュンと吹いた。その時バーって赤いリボンのついた麦わら帽子が飛ばされて、追いかけようかなと思うけど、目に見えないところに飛んで行ってしまった。

諦めて進んだ先に、良い帽子を渡してくれるカエルがいた。カエルが帽子屋さん。青色のリボンの素敵な麦わら帽子を渡してくれた。出会えてよかった。

カエルは、
「これからもっと楽しい出会いがあるよ。大丈夫、出会えるようになってるから。」
と言ってくれた。この先も進んでいこう、とワクワクしている。

カエルは、風に対して、
「おーい、強風、手加減してやれよ。」
と言った。
カエルは、出会わせるポイントだった。

カエルは、ずっと一緒にいるのではなくて、人生のタイミングで出会う時に出会う。
帽子を渡されて、私は離れていく。
執着はしない。先を進んでいく。

進んだ先に出会った人が、今度はこっちに乗ってみなよと言って、白い木でできた船を渡してくれた。
自然な流れで、乗り替えた。周りが白い木の船で、中は木の素材のまま茶色い感じの板。

また出会った人に、私は、つばの広い白い帽子を貰った。

船の先に立って、風を感じていたら、後ろに同じ年の男の子が座って漕いでくれているのに気付いた。

自分は心地よい風を感じている。後ろの男の子とはあうんの呼吸、気をとられないで風も感じ、心地よいを全面に感じられている。
その男の子に名前を尋ねると、「ロブ」と名乗った。

私は、金髪の明るい性格の女の子で、ロブは、大人しく、帽子を深く被った男の子だった。

ロブは、
「僕が漕ぐから楽しみなよ、こっちやっておくから。」
と、少し寂しそうに言った。


私は、
「一緒に楽しもうよ、上に登って見ようよ。」
と言った。
「あなたがいるから、見れるんだよ。」

ロブは、怖気づいて、
「一緒にいっていいの?」
と言った。
私は、言った。
「あなたがいるから、あなたのお陰で、私は、他の人のことを優しくしようと思ったり、みんながいってくれるような言葉を紡げたり、絵を描いたりできてるんだよ。」

ロブの心が、ぽっぽっぽって、光を発して温かくなり、「僕は、いていいんだ」と明るく笑った。

ロブは、言った。
「ぼくは、綺麗さ、美しさのセンサーになる。ぼくは、いていいんだ。ありがとう。」

私は、高く、広い方、陽に向かって、ロブを引っ張る。
2人で、「広い世界を見に行こう!」と、船を離れて、空に飛び立って行った。

すると、次々と他の子どもたちも空へと飛び立ち、私達と手を繋いで高く高く舞い上がった。

戻ろうと思えば戻れるし、カエルも手をふっている。
大丈夫。大切なものはいつでも、ある。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

──こんな物語が見えた。


目を開けて、現実世界に戻って来る。
有紀さんが、にっこり微笑んで、迎えてくれた。

私は、この体験から、はじめロブは、賢人のことかな?とも思ったけれど、自分の中の、思ってなかった1つの自分、「ネガティブ」なのかなと感じた。

帽子を被った女の子に名前をつけるとしたら、"光"。そして、後ろで船を漕いでいた"ロブ"。

陽の光と、陰のロブ。

ロブは、光が楽しめるように、自分(ロブ)もいる、と役割を自覚、いてくれてたんだな、と感じた。
「人が気付けないことを気付ける」とても繊細で美しい心を持ったロブ。

その時あまりよくわからなかったけれど、
ロブがいて、心のひっかかりや、苦しみを感じて、自分を責めていたけれど。
それがあるから、より綺麗な世界、そういう面を今みれてるんだなあと感じた。

今は、温かさと、自分でよかった、いてくれてよかった、そう感じる。
影を潜めようとしてくれたロブ。
そのロブがいてくれて、
「だから、人生が面白い!」


今まで、私は、自分の中の「ネガティブ」を嫌なものとして見ていた。消し去ろうとしていた。でも、私自身の陽の部分は、知っていた。
陰のロブがいるから、見える世界がある事を。私はこの時はっきりと、私の言葉には、ロブの繊細さの光が含まれていることを知った──。
私の魂は、1つではなかった。光と、ロブと、私自身と、全てが統合されて、「自分」を成しているのだ、とこの時、悟った──。

私は、今、やっと
いや、今、だからこそ──

「どんな自分でも愛しい」という感覚を、この手に掴んだ。



その後、鏡の前を通りかかると、笑顔で「ありがとう」「かわいいよ」「やったね!」などと、子ども達にかけるような言葉が、自然に出てくるようになっている。

「自我」の声はほぼ聞こえなくなった。
たまに、否定の声が聞こえるが、"いるのね"とただ耳を傾けるだけ。ノージャッジメント。



ある日、私は料理教室に参加した。
そこで、私は、真弓さんのお家が全焼してしまった話を聞いた。
今の料理教室は、お家を建て直してオープンしたものだそう。家庭のこと、人間関係、過去に様々な事があったという。
しかし、今、赤いベレー帽と赤いエプロンを身に着け、"皆さんに食を通して生き方を見つめ直して貰おう"と、笑顔でチャレンジしている真弓さんが、そこに居る。


私は料理教室の後、真弓さんにメッセージを送った。 

「真弓さん、大変なことがあったんですね。あのお話を聞きながら、頭に思い浮かんでいたことがあります。

【山火事が起こると発芽する種】です。
それが、ユーカリの種。
ユーカリの葉はテルペンという物質を放出しますが、実はこれは引火性。葉から出された物質で山火事が起こりやすい状況をつくり、それが発芽するきっかけとなります。
自分で山火事を起こし、自分の発芽を誘引するんです。

これは、人にも当てはまるのでは、と思います。人はネガティブなこと(一般的にはネガティブといわれること)が起こると、内に目を向けて成長を促進させる傾向があります。

真弓さんのご経験から、一見降り掛かってきたようなネガティブなことも、実は"自分が、自分の成長のために起こしたこと"という見方ができるのでは、と思いました。
ネガティブな出来事を起こさせて、自分の思う通りの現実を誘引するように。

真弓さんでいえば、今きっとやりたいと思っていたことができていて、さらにやりたいと思ったことが今後できていく。
ぐんぐん成長できている状態ですもんね!
私も真弓さんや皆さんのエネルギーに乗って、自分のやりたい!を現実化させます♪
また来月、楽しみにしてます!」


このメッセージを送ったあと、見返してみると、この内容が自分へのメッセージでもあることに気付いた。
私は、ネガティブを忌み嫌っていない、それ「ギフト」と捉え、活かす思考に変わっている。

私は、きっとこれから会う人に、心からの、「大丈夫だよ」を言える。

「私は、私の人生をもって、この世の美しさを証明する!」
そう決意した。



次の日、
漫画描き仲間の千ちゃんと近況についてテレビ電話をした。

今日は何となく、恋愛の話となり、私は賢人の過去世の話をしてみた。
家老であり、私と想い合っていた仲であったことや、今でもその面影が残っているということなど。
特に、冷蔵庫と闘っていること。賢人は、1週間分の食材を買ってきてくれて、それが使い切れた時は「勝った」、使いきれなかった時は「負けた」と言うのだ。
そこが、本当に男社会で生きてきた家老っぽいんです、と笑いながら伝えた。
賢人が続けている戦略的なスポーツも、国同士の争い事や駆引きなどがあったあの時代の家老と被った。
女性の扱いにデリカシーがないところも話しながら、もしかしたら魂にとって初めての結婚だったりしたのかなあ?と急に愛おしさが込み上げてきた。
千ちゃんは私の話を聞きながら、あれよあれよと言う間に、そのビジョンを絵に現した。

.
.

これを見て、私は笑った。
「これこれ、まさにです!
あー絶対、賢人は家老ですよー!
千ちゃん、よくこんなにパパッと凄いの描けますね!」

「なんか浮かんでな。直ぐコメディにもってきたくなる。」

「いいなあ!私も早く描けるようになりたいなあ。
私は、これが悲恋だと思っていたけど。面白いな〜。」

「アーティスト脳の人は、別に悲しいと思わへんからなぁ〜。」

「え?」

「俺、前、葵さんに『美しい』って言ったでしょ。泣いて相談された時。」

「はい。」

「アップで見たら、悲しく見えても、引きで見たら、もうそりゃ喜劇。だから、泣いてる人いたら、なんで悲しむの?って思っちゃう。」

「そっかぁー。アーティストは。
あ!だからか!漫画家の彼も、私の話に対して、"面白い"ってよく言ってた。」
 
「せやろ?」

「うん。だからかぁー。
ん?漫画も?だから、漫画も、アップや引きがあるのか!なるほど!」

「そう、漫画や小説とか、作品はそうやな。」

私は、大輝は悲しみを胸に抱えて生きている人な訳では無い事を知った。
大輝は、自分の人生を、楽しんで生きているんだ。楽しんで創作活動をしているんだ。
私も、表現したい。
漫画を描く練習もしながら、私の辿ってきた道を言葉で表現しておこう。そう思った。


「来世に、どんなものを残していくのか、考えるのもおもろいな!
次生まれ変わったら、俺等が過去世やもんな。」

「ほんと。私は、何を渡そうかな……!」




その日の夜、晩ごはんは賢人が作ってくれた──が、カレーではなかった。

食べ終わり、私が洗い物をしようと台所に立つと、賢人と愛ちゃんがヒソヒソ話をしているのが見えた。
何かな?と思っていると、愛ちゃんが何かを持ってこちらに歩いてきた。


「ママ、いつも、おいしいおりょうりつくってくれて、ありがとう!これ、パパからだよ。」

見ると、エプロンと、可愛らしい動物の絵柄のゴム手袋だった。
驚いて賢人の方に視線を向けた。

「いつも、パジャマで洗い物してたから。水で濡れちゃうと思ってさ。
それなら大丈夫でしょ?」

賢人……私のこと見ててくれてたんだ。そう思ってくれていたんだ──。私は、賢人に愛されている。
私は、貰った手袋とエプロンを抱きしめて、心から言葉を伝えた。

「賢人、ありがとう!嬉しいっ!
 ──葵を……見つけてくれてありがとう!」

賢人は、「え?!なにそれ?こわっ!」と怖がるジェスチャーをし、
私は構わず、笑いながら賢人を抱き締めた──。


第14話 創造


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