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消費者も気候変動に「適応」する|47キャラバン#17@広島

東日本大震災をきっかけに、食べものつきの情報誌「食べる通信」を創刊し、生産者と直接やり取りをしながら旬の食材を買えるプラットフォーム「ポケットマルシェ」を立ち上げた高橋博之さん。東日本大震災から10年の節目を迎える来年の3.11に向けて、改めて人間とは何かを問うために47都道府県を行脚する「REIWA47キャラバン」を開催している。
先日、高橋さんの車座座談会でご縁があって、ポケットマルシェのみなさんとREIWA47キャラバン(香川、愛媛、広島)に同行させていただいた。このnoteは私がそこで見たもの、感じたものを綴っている。
(※高橋さんは毎週月〜土曜日の朝6〜8時にオンラインで車座座談会を開催している。農家や漁師、食農に関心のある消費者や学生などが10人ほど集い、食や農業、気候変動、生死、幸せなど、人間と自然が離れすぎてしまった現代社会やこれからの社会についていろんな話をする場となっている。高橋さんのTwitterにリプライかDMを送れば参加できるので興味のある方はぜひ。)

食べものは「幸福」を実現するための手段

朝6時過ぎから愛媛県の八幡浜市と西条市の農家さんのところにお邪魔して、もうすでにおなかいっぱいな感じだけど、しまなみ街道を通って広島市のキャラバン会場へ。大のカープファンだという高橋さん、カープ女子っていうのは関係人口のいい例だ、と話はじめた。

旬の食材を生産者から直接買えるポケマルは、自らを産直ECではなくて産直SNSと表現している。食べものを売買する場というよりは、関係人口が生まれる場と言えるかもしれない。食べものはあくまで手段なんです」と、高橋さんは強調する。

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需要と供給で価格が決まる競争市場では、販売されている財が全く同じものであることを前提としている。それは、どんなに手間暇かけて良いものを作っても、全部同じということを意味している。違いがないから価格一点で競争する。人間もそう。個性や人格は捨象され、労働力としてどれだけ優れているかという違いのみで競争する。求められるのはできるだけ安く効率よく作ること。だから自然環境や立場の弱い人、将来世代、奪えるところから奪えるだけ奪う。現代社会はそうやって発展してきた。でもそれが行き過ぎた先にあったのは、自然と人間、人間と人間が分断され、気候変動をはじめとする自然環境問題や、心身ともに病んだ末の過労や自殺といった社会問題が表面化した、行き詰まった世界だ。

ポケマルはこうした世界に風穴をあける。競争市場では排除されてきた手間暇やこだわり、個性や人格をもった食べものを通して、離れすぎてしまった生産者と消費者、人間と自然が出会い、お互い様の関係が育まれていったその先に、生きる実感や幸福感のある世界を描いている。

関係人口の創出というと地域活性化の文脈で言われることが多いが、そうとも限らない。高橋さんは活性化だけを目指したら負け戦だという。みんな活性化なんてできっこないし、する必要もない。縮小や消滅というのは悪いことではない。親の看取りと一緒で、地域を看取る、いい形で締め括るっていう選択肢があったっていい、と。しあわせに生きることが目的ならば、緩やかな現状維持も、より良い終わりを迎えることも、あっていいんじゃないかということなんだろう。

幸福に関する議論の必要性について、高橋さんは15年前の岩手県議会議員時代からずっと訴えてきたというが、やっと時代が追いつきつつある今でも変わらず訴える。一体何がそうさせているのか、わからないけれど、その一貫した姿勢が放つものは、しっかりと受け取った。

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人が介在して、点が線になる

翌朝、ちょっと時間があったので1人で原爆ドームまで行ってきた。広島に来るのが初めてだったから、原爆ドームも初めてだった。あんなに街中にあると思っていなくて、日常に溶けこんでいたのがなんだか不思議だった。帰ってきて高橋さんにどうだったかと聞かれて、点のままで、線にはなっていない、という話をした。

時間的にあるいは空間的に自分の遠くで起こったことは、それ知ることで自分の外に点として現れる。なんらかのきっかけで自分の中に存在している点とつながれば線になる。点が線になったと感じるのは、人が介在する場合が多い。

難しくてよくわからないからと遠ざけていた福島の原発事故。飯舘村で6年間の避難の末に戻った人たちと出会ってから、ぐっと自分に近づいて、原発や震災の話になるといつもその人たちのことが浮かぶ。高橋さんも同じようなことを言っていた。

「地方の生産現場を襲う自然災害、都会の人はニュースで見て大変だなあって思う。でも、それで終わり。我ごととして心を痛められない。なぜか。昔は国民の10人に1人は農家だった。今はたったの1.4%(※140人に1人)。ふつうに生活してたら農家に会う機会なんてほとんどない。」

食べものを通して生産者と消費者がつながるということは、生産者と消費者、都市と地方、そして自然と人間が、線になるということ。線がたくさんある世界は想像力がはたらく世界で、きっとやさしくて尊敬のある世界だ。たくさんの線が生まれるポケマルの世界はそんな感じなんだと思う。

農業界を盛り上げる農カード

3泊4日の旅もそろそろ終盤。最後の訪問先、三原市の久和田農園へ。他の農家さんも集まっていて、わらわらと名刺交換会とお土産の贈呈がはじまった。最近話題の農カードも交換している。

農カードは、どこで何を作っている農家さんなのかという情報が載っていて、農産物をポケマル等で購入した際に入手できる。農業をもっと身近に感じてもらいたい!と全国の農家さんたちが立ち上げた。私も今回のキャラバンで3枚ももらっちゃった。こういうの集めるのはなんだか楽しい。何より参加している農家さんたちがものすごく楽しそうだ。農家は孤独に動植物と向き合うみたいなイメージを持っていた昔の私が見たら、すごく驚くんだろうな。

不安定さを関係性で乗り越える

名刺とお土産と農カードでひとしきりあいさつを交わした後は、久和田さんのぶどう畑へ。今年の天候やコロナの影響はどうでした、という高橋さんの問いかけに、すごく大変だった、ということを話してくださった。

7月の長雨では防除がなかなかできず、8月の猛暑ではぶどうの水分が蒸発してすごく軽くなってしまった。スプリンクラーを使っても自然の雨には敵わなくて、品種によっては4房で2kgづめだったのが300gもマイナスで5房にした。8月には収穫できると思っていた分が収穫できずに遅れてしまった。異常気象の異常が毎年違うから、今まで通りのやり方じゃ難しい。経験則に縛られずに、天候によって対処していかなくちゃいけない。

市場流通を通すとこういう農家の声は消えてしまう、消費者もこの声を聞いて自然のブレを許容しなくちゃいけない、と高橋さんは相槌を打つ。

注文は殺到するし、直売所にもお客さんがすごく来た。並べているのは早朝に収穫したもぎたてのものだけなのに、昼間にここにきて、今収穫したもぎたてのものが食べたいっていう人もいて、それを行列の時にやられてしんどかった、という話には、昨日の二宮さんのお話をしながら、生産者も消費者を選んでいい、と。

こんなやり取りしながら涙ぐんだり冗談を言って笑ったりする早紀さんの姿には、いろんな苦労がにじんでいて、それでも明るく前に進んでいて、なんだかとても励まされた。すごくやわらかくてあたたかなご夫婦だった。

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帰りの車内、私は去年の秋に行った小豆島のオリーブ農家さんを思い出していた。気候変動の影響について農家さんの口から直接聞いた初めての経験で、こんなことを綴っていた。

オリーブにはたくさん品種があることすら知らなかったけど、その品種ごとの特徴や病害虫についても詳しく教えていただいた。中でも驚いたのが、6.7年前まではほとんど見られなかった炭疽病という病気が、気候変動による気温上昇と降水量増加で、多く見られるようになったということ。炭疽病になる前に収穫したり、炭疽病に強い品種(ミッション→ルッカ)に植え替えたり、木々の間隔を広くして風通しを良くしたりするなどして、「適応」しているらしい。でも、若いうちに収穫すると搾油率は低くなったり、オリーブの木を植え替えるには何年もかかるなど、容易ではない。そうなると収量や品質の低下につながり、農家さんの生活は苦しくなってしまう。

気候変動の影響は一次産業従事者や、そういった人の多い途上国において大きいと言うけれど、それを感じた話だった。農家さんは「適応」を始めているけれど、私たち消費者も「適応」、つまり上記のような事情で価格が今までよりも上がることや、あるいは価格を変えないために大きさや形や色の整っていないものが増えることを受け入れる必要があるのかもしれない。何も知らないといいものを安く求めてしまいがちだけど、生産の現場である農業に関わることは、その「適応」の一助になる。

この時からたった1年しか経っていないけれど、気候変動への危機感はものすごく募っている。都市で生活してても変化を感じるし、SNSをひらけば誰よりも自然と近いところで変化と日々向き合って、なんとか適応していこうとする農家さんの声が目に入ってくる。でも高橋さんが言っていたように、そういう声が消費者の耳に届くことは少ない。野菜が高くても、形や大きさが違っても、なんでそうなったのかにまで関心を持ったり、痛みを感じたりするのは難しい。点が点のままで、線にならない。

「やっぱり、消費者も適応していかなくちゃいけない。」

1年前よりもずっと強くそう思って言葉にした私に、

「そうなんだよ。生産者はみんな謙虚だから自分のことを責める。天候の変化はあったけど、自分の栽培技術の問題かもしれないって。だからオレはこの声を届けて、生産者の適応だけじゃなくて消費者の適応も議論にしていきたい。自然のブレ、不安定さを科学で乗り越えるのがアグリビジネス。関係性で乗り越えるのがポケマルやCSAだ。」

と高橋さん。なるほど。科学の力で「同じもの」をつくって価格競争するか、関係性で消費者の理解を促して「違うもの」でも、「違うもの」だから、買ってもらえるようにするか。

科学の力で乗り越えたとしても、その先にあるのはたぶんもっと不安定な世界だ。かと言って、科学に全く頼らないとか狩猟採集に戻ろうとかそういうことじゃなくて、行き過ぎた結果が今の不安定な世界だから、もう少しバランスとって均衡点を見つけないか、ってことだと思っている。均衡点なんてないかもしれないしきれいごとや理想論かもしれないけれど、私はそれを追いかけたいし、現在進行形でそれを追いかけているポケマルを心から応援したい。

各種リンク

▼「REIWA47キャラバン」について

▼これまでのキャラバンの様子はこちら

▼私の書いた香川編&愛媛編もよかったら!


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東京大学農学国際専攻M1🌱 大好きな農学から消費スタイルや暮らしを良いものにしたい。

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東京大学農学生命科学研究科農学国際専攻修士1年の岸本華果さん。「農業を通して消費スタイルや暮らしを良いものにしたい」と考えつづける岸本さんがいろいろとnoteに書いています。

コメント (1)
ポケットマルシェさんは私たちもとても影響を受けました。
私たち「わいわい広場」では信州限定の産地直送サービスを立ち上げました。
まだ立ち上げたばかりでこれからのサービスですが、信州の魅力を伝えていこうと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
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