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つま先立ちしない|47キャラバン#16@愛媛

東日本大震災をきっかけに、食べものつきの情報誌「食べる通信」を創刊し、生産者と直接やり取りをしながら旬の食材を買えるプラットフォーム「ポケットマルシェ」を立ち上げた高橋博之さん。東日本大震災から10年の節目を迎える来年の3.11に向けて、改めて人間とは何かを問うために47都道府県を行脚する「REIWA47キャラバン」を開催している。
先日、高橋さんの車座座談会でご縁があって、ポケットマルシェのみなさんとREIWA47キャラバン(香川、愛媛、広島)に同行させていただいた。このnoteは私がそこで見たもの、感じたものを綴っている。
(※高橋さんは毎週月〜土曜日の朝6〜8時にオンラインで車座座談会を開催している。農家や漁師、食農に関心のある消費者や学生などが10人ほど集い、食や農業、気候変動、生死、幸せなど、人間と自然が離れすぎてしまった現代社会やこれからの社会についていろんな話をする場となっている。高橋さんのTwitterにリプライかDMを送れば参加できるので興味のある方はぜひ。)

旅みたいな講演

高橋さんの車座を横で聴きながら、香川から愛媛の西予市へ向かう。昨日は朝の車座、昼の企業向け講演、夜のキャラバンと2時間×3回、今日もまた車座とキャラバンで2回。同じ趣旨の話を、ものすごい熱量で、睡眠時間よりも長く、目の前の人、そして社会に向かって訴え続けている。この人飽きないんだろうか。そのエネルギーは一体どこからくるんだ。不思議で仕方がなかった。

車中での会話も講演と重なり合う。中村哲さんの「誰もが行きたがらないところへ行き、誰もがしたがらないことをする」なんて、昨日と今日でもう何回聞いただろう。それだけこの言葉は高橋さんの「生」の一部となっている。私の脳内ではこの言葉はもう高橋さんの声でしか再生され得ない。

高橋さんの講演では一切自分のことが語られない。ポケマルのサービスの話もない。今からどんな話をするかということも言わない。「普通」の講演なら、本題の前に自分の経歴を話したり自社のサービスを紹介したりするし、資料があってどんな流れで話すかあらかじめ言われる。そっちの方が分かりやすいに違いないのに、いつまでも覚えているのは、何者かすらよくわからなかった高橋さんの話だ。

自己については語られない。でも、講演が終わる頃にはだいたいどんな人かわかる。時間いっぱい使って壮大な自己紹介をしている感じがする。自己が先人たちのつくってきたこの社会をどう捉え、未来にどんな社会を描き、現在の社会でどう振る舞うか。すなわち、どう生きるかについて、全身で語る。

人間と自然が離れすぎてしまったこの世界で、食べものを通して生産者と消費者がつながり、人間と自然のつながりを取り戻す。

この一貫した主張を発し、場の雰囲気を感じ、聞いている人たちと会話をしながら、進む。だから今日のキャラバンは昨日のとはまた少し違った。大体の行き先は決まっていて、あとは流れに身を任せる。旅みたいな感じだ。

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お客さんと家族になる

講演終了後、えらく感動している人がいた。

「自分の今までやってきたことはまさに社長のおっしゃってたこと。社長の講演に全部答えがあった。」

感慨深そうにそう語るのは、今回の協力者である柑橘農家の二宮さん。ポケマルに登録した3年前は、1年間で3商品しか売れなかったそう。そんなスタートから今までやってきたこと、それが高橋さんの講演につまっていたと。

買ってくれた一人ひとりのお客さんと誠実に向き合う。お客さんの感想を聞いて、自分の気持ちを素直に伝える。わからないことはわからないと正直に言う。そんなふうにしていたら、商品の写真にダメ出しをくれたり、商品名を提案してくれたり、東京のスーパーで売られている値段を調べてきてもっと高くていいと言ってくれた。マーケティングもブランディングも、全部お客さんが教えてくれた。ポケマルのコミュニティで、趣味で育てていたローズマリーが大きくなりすぎて道をふさいでしまったと何気なく投稿したら、商品の箱に一緒にローズマリーを入れたらどうか、なんて提案もしてくれた。やってみたらお客さんにすごく喜ばれた。

そんな二宮さんの話を聞いて、もう一人感慨深そうにしている人が。いや〜、二宮さん、僕は会えてうれしい。自分の言っていることを体現している人と出会えた、と。2人ともなんだかとても嬉しそうだ。

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すごいですね、と言われても、「僕はなんにもしてない。全部お客さんがやってくれた。」と、ぶんぶん手を振る二宮さんは、今やポケマルで最も売れているスター農家の1人。でもなんでそんなに売れているのか、ポケマルのみなさんも誰も知らなかった。お客さんに対して人として誠実に向き合って、家族になって、どんどん巻き込む。それがスター農家の秘密らしい。

生産者だって消費者を選んでいい

翌朝、二宮さんのみかん畑にお邪魔した。なんだか畑にいるときの方が饒舌だ。早生みかんを試食させてくださりながら、ほんとならもっと甘くなってるはずなんですけど、9月の雨が多くて、と気候の話を始める。

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「7月の降水量は平年の2.5倍、8月は19%、たぶん9月は倍くらい。天気のブレが大きいから、みかんの大きさをコントロールするのが難しいんすよ。今年くらい難しいのは初めてです。小玉で予約とってるんですけど、小玉できるかなあ、みたいな。ただ、ある程度やっぱ予約取っておかないといけないんで、、、でも仮に、小玉が全くない、となったら、お客さんに理由を説明してすいませんって謝ろうと決めてます。その代わりにSとかMとかを、うちで差額負担して、同じ価格で売るんで、それでもいいですかって聞こうかなと思ってます。自然物なんで、仕方ない部分もあるし、それをわかってくれるお客さんじゃないと長続きしないんですよ。」

昨日の講演にもあったけど、高橋さんは生産者も消費者を選ぶ時代だという。

「消費者に対してはお客様って言うけど、生産者に様をつける人はいない。でも、消費者は札束食って生きていけないから食べものを作ってくれる生産者の存在が必要で、生産者も食べものでモノ買えないからお金と交換してくれる消費者の存在が必要なんです。生産者も消費者も本来対等なはずなんです。だから、消費者が生産者を選ぶように、生産者だって消費者を選んでいい。」

二宮さんはこれを実践している。全部正直に話す、そしてつま先立ちしない、無理しない自分を受け入れてくれる人と長く付き合う。だからストレスもないと。

このあと、危ないからほんとはダメだろうけどみかんを運ぶモノラックに乗せてもらい(斜面急すぎてめちゃ怖かった...!)、

昨日のエピソードにあったローズマリーを見せてもらって、

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最後に宇和海の見える最高に景色にいいところまで案内してもらった。

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自然栽培で耕作面積日本一を目指す農家

次は、広島のキャラバン会場へ向かいつつ、西条市の稲作農家首藤さんとその右腕進藤さんのところへ。首藤さんたちは農薬も肥料も使わない自然栽培で耕作面積日本一を目指しているという。なぜか。

西条市は水が豊富で、地下水を飲料水として使っている。でも、地下水の硝酸態窒素濃度が水質基準のギリギリまで高くなってきてて、飲料水としてもう使えなくなってしまうかもしれない。市は原因を言わないけどおそらく農業だという。(※地下水の硝酸態窒素濃度が高くなる原因は、一般的には農地での肥料のやりすぎ、家畜の糞尿や生活排水の不適切な処理だと言われている。)

それ地域の問題になってないの?と高橋さん。でもすぐに、まあでも難しいか、問題にすると今の他の農家を傷つけてしまうことになるもんなと。

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ほんとにそう。環境問題というのはとても難しい。戦後の貧しかった時代には、ともかく国民を飢えさせないために、農薬も肥料も使って生産性を高めて、とにかくたくさん作るというのが「良い」ことだった。でも今は食べものが余って捨ててしまうような時代で、気候変動をはじめとして、自分たちが自然に対してやってきたことのネガティブな面が顕在化している。私たちの生活の多くは自然のポジティブな面に依存しているけれど、ポジティブな面だけ受け取るのは都合が良すぎる、ということなのだろう。ネガティブな面も一緒に生きていくこと、それが今は求められている。

過去に「良し」とされてきたことが、必ずしもそうではなくなってしまった今、変化する時代の状況に合わせて自分たちがどう振る舞うかを考え直さなくちゃいけない。ちゃんと向き合って、必要ならば変わらなくちゃいけない。変わるということは、良くも悪くも今を形作っている過去を、一部否定することにもなってしまう。それは痛みやつらさも伴うし、すごく難しい。

首藤さんたちは、自然栽培の耕作面積を増やしていくことでこの問題を解決していきたいという。地域全体としての施肥量減らして、この土地を守っていきたい。自然栽培でも米が作れる、そして高く売れるってことを自分たちがやってみせることで、仲間を増やしていきたい。そんなふうに熱く、力強く語ってくれた。

生きていくには食べものが必要で、その生産には多かれ少なかれ環境負荷が伴う。地下水を飲料水としてこれからも使っていくために農薬も肥料も減らすとなれば、生産者にとっては栽培管理の手間が増えるし、収量も減るかもしれない。消費者にとっては購入価格が高くなる。反対に、何も対策をしなければ、生産者にとっては今まで通りのやり方でいいし、消費者にとっても今までと同じくらいの価格で買える。その代わり地下水を飲料水としては使えなくなる。こういうトレードオフについてわかったうえで、どうしていきたいかを議論して、進んでいくしかない。
西条市の水の話に限らず、気候変動も全部そう。自然からいいとこどりして生きていくことはできない。

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農家の右腕という存在

自然栽培農家のロールモデルに、ということだったが、もう一つ、ロールモデルだなと思っていたことがある。販売や広報など主に生産以外の役割を担っている農家の右腕、進藤さんの存在だ。進藤さんは2年前まで美容業界にいた。美容や健康を突きつめていくうちに何を食べるかが大事だということに行きついて、たまたま知り合った首藤さんのところに働かせてほしいと飛び込んだそう。

私はしばらく前まで農業は男性がやるものとか、家族でやるものみたいなイメージを持っていた。だから女性で非農家出身の私には農業をやるなんて将来の選択肢にはなかった。でも最近になって女性農家とか、家族でやってない農家の存在を知って、新規就農も結構真剣に選択肢に入っている。ただ、生産よりは販売に興味あるんだろうなとも思っていて、そうなると農家に嫁入りか?なんて思っていたけど、農家の右腕という存在がまた新しい選択肢をくれた。

家族の形さえも多様になりつつある今だから、農家にもきっといろんな形がある。それ示してくれている先輩たちの存在は、イメージに縛られて選択肢すら消してしまっていた私みたいな人にとってはすごくありがたいことだなと思う。

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各種リンク

▼「REIWA47キャラバン」について

▼これまでのキャラバンの様子はこちら

▼私の書いた香川編もよかったら!


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東京大学農学国際専攻M1🌱 大好きな農学から消費スタイルや暮らしを良いものにしたい。
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