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よりみち通信

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毎月1回発行している『よりみち通信』。 紙媒体でも配布していますが、noteでも読めるように1年分をこちらのマガジンにまとめていきます。
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#よりみち通信

よりみち通信19ブック・カウンセリング「あれから10年」―私たちの秩序はどのように保たれているのか―

元東京オリパラ大会組織委員会会長の女性差蔑視発言に、まだ日本のジェンダー意識はこんなにも低いのかと、改めてがっかりさせられた人も多いことと思います。

しかし、10年前の東日本大震災の折に、すでにそのことは顕在化していたとはっきり描いている小説が、垣谷美雨『女たちの避難所』(新潮文庫)です。

津波にのまれ、帰る家を失った三人の女性たち。身を寄せた避難所では、高齢男性がリーダーとなり、段ボールの仕

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よりみち通信18 ブック・カウンセリング「医療」―日本の医療制度は、優れているか否か―

よりみち通信18 ブック・カウンセリング「医療」―日本の医療制度は、優れているか否か―

新型コロナウィルスが蔓延し、毎日のように「医療がひっ迫している」との報道を見ます。

しかし一方、この森田洋之『医療経済の嘘』(ポプラ新書)によれば、日本の病床数は世界一多いとのこと。え、日本の医療制度って一体どうなっているの?

実は「病床数≠死亡率」というのは、医療の世界では常識らしいのです。病床数が多いとそれだけ費用がかかるので、とにかくベッドを埋めなければいけない。そのためには、本来必要な

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よりみち通信17 ブック・カウンセリング「出版」―本を作るということ―

「本好き」を自認している人は多かれど、その「好き」が指すのは、書かれている内容に偏っていることが多いように思います。

しかし、モノとしての本を手にしてよく眺めてみれば、そこには内容だけでなく、多くの「仕事」が含まれていることに気づきます。

活字、紙、装幀、書体、校閲…。表舞台には出てこないけれど、それがなければ「本」が成立しない仕事の数々。稲泉連『「本をつくる」という仕事』(ちくま文庫)は、そ

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よりみち通信16 ブック・カウンセリング「プレゼント」
―あなたがそれを贈る理由、受け取る理由―

よりみち通信16 ブック・カウンセリング「プレゼント」 ―あなたがそれを贈る理由、受け取る理由―

私は単純な人間なので、たとえ嫌いな人であっても何かをもらうと嬉しくなって少し好きになってしまうことがあります。

でも、そんな感情の揺れにはちゃんと理由がある。「交換」ではない「贈与」は(良くも悪くも)人との関係性を作り出してしまうから…

そんな「贈与」という行為に隠された暗号を、まるで物語を語るように優しく伝えてくれるのが、この近内悠太『世界は贈与でできている』(ニューズピックス)です。

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これからの図書館を考える

これからの図書館を考える

先日、図書館専門誌『ライブラリーリソースガイド(LRG)』の最新号「特集:図書館からLibraryへ」の刊行にちなんだあるオンライン講評会に、コメントを求められて参加してきた。特集企画を責任編集した福島幸宏さん(東京大学大学院情報学環特任准教授)と指定コメンテーター二人がそれぞれ報告を行った後、フロアの参加者も交えたクロストークを行い、議論を深めていくというものだった。ZOOMの会議室には50人ほ

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よりみち通信12ブックカウンセリング「地方」―地方vs都市をのりこえる―

よりみち通信12ブックカウンセリング「地方」―地方vs都市をのりこえる―

コロナ禍の中でリモートワークが流行り、地方移住を希望する若者が増えているそうです。
たしかに、満員電車の三密はこわい。

でも、物質的な豊かさを捨ててまで地方に住むことに、どんなメリットがあるんだろう?
そんな疑問に答える2冊の本をご紹介します。

『都市と地方をかきまぜる〜「食べる通信」の奇跡』(光文社新書)は、限定1500部の食べ物付き情報誌を発行し、地方の農漁業と都市の消費者を丁寧につなぐ取

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東京が滅びるまで

東京が滅びるまで

先日、東京の友人と「オンライン飲み会」をした。ふだんは遠く離れていて、出張とかの言い訳がないと連絡もしづらい人とそうやって交流できるのはちょっと不思議だ。それはともかく、地方ではすでに緊急事態宣言が解除されていた一方で、首都圏ではまだ継続中というタイミングだったから、実はちょっとおそるおそるの参加であった。

山形にいて、テレビやネットなどの報道を連日浴び続けていると、それはもう東京は大変なことに

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よりみち通信11 ブックカウンセリング「東京」―都知事選に想いをよせて―

よりみち通信11 ブックカウンセリング「東京」―都知事選に想いをよせて―

普段、自腹で新刊を買うことがめったにない私が、「こ、これは!」と思って、つい書店に走って買ってしまったのが、石井妙子『女帝 小池百合子』(文藝春秋)。

タイトルと表紙がよくある芸能人の暴露本っぽくて、「どうなのよ?」と思っていたのですが、ページを開けたが最後、ほぼノンストップで一気に読み切ってしまいました。

ノンフィクションとはいえ、何が「真実」なのかは誰にも(多分、本人でさえも)わからないわ

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よりみち通信13 ブックカウンセリング 「川」  ―私たちを生かすもの、私たちが生かすもの―

よりみち通信13 ブックカウンセリング 「川」  ―私たちを生かすもの、私たちが生かすもの―

先月末の豪雨災害では、我らが山形の最上川があんな風に豹変することに驚いた人も多かったのではないでしょうか。

そんな「川」による災害の歴史と私たちの社会との関わりを紐解く本が、高橋裕『川と国土の危機』(岩波新書)です。

これまで日本で起きた水害の記録を記すとともに、どうしたら森と海に囲まれたこの日本が、豊かに安全に暮らせる土地になるのかを考えます。

そもそも、自由に変化を繰り返しながら「動いて

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社会の「底」にあったもの

社会の「底」にあったもの

「池の水を全部抜く」というテレビの番組企画がある。文字通り、地域にあるため池とかお堀とかの水を全部抜いてみたらそこにびっくりするものが沈んでいた/棲息していた!――という企画で、新庄でロケが行われたときのものを先日、入った蕎麦屋のテレビでたまたま目にした。何が沈んでいたのかはさっぱり覚えていないが、面白いなあと感じた感情だけはうっすら残っている。

この数か月、新型コロナウィルス禍のもとで生じてい

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よりみち通信10  ブックカウンセリング “家族”と暮らす –暮らしを問い続けること–

よりみち通信10 ブックカウンセリング “家族”と暮らす –暮らしを問い続けること–

緊急事態宣言発出からの、国民一人当たり10万円の給付金支給の決定――仕事を失ったり、収入が減ってしまったりした人が多くいる中、その措置については(金額やスピードに欠けるにせよ)評価したいと思うのです。が。

違和感を持ったのが、「世帯主に対して振り込まれる」というその給付方法。なぜに個人宛てではないの?日本は「家族」という単位を様々な物事の基準にすることが多いけど、そもそも「家族」って何なんだろう

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