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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~元摂食障害当事者からのメッセージ~334


「そう。カロリーだけじゃなくて、糖質とか脂質が何グラム含まれてるとか、そういうことが書いてあるの。それで、毎日見ながら『こんなにカロリーも糖質も脂質もあるんじゃ、絶対食べられないし、食べられるものなんてないじゃん!』とか思ってたの。それなら見なきゃいいのに、って思うんだけど、摂食障害ってそういう矛盾だらけのところがあるの」

「そっか、そうだよね。お菓子とかスイーツって、改めてカロリーとか見ちゃうと『げっ、こんなに高いんだ』ってなって、食べれなくなっちゃうもんね。だから私はそういうもの食べる時は、数字は見ないようにしてる。だって、そんなの見たって、食べたいものは食べたいし、気にしてたらおいしく食べられない気がするから」

陽子の言う通りだった。カロリーが高かろうが低かろうが、食べたいものは食べたいし、食べると決めたらいちいちカロリーとか糖質とか脂質とかを気にしていたら、おいしいものもおいしくなくなってしまう。陽子と話をしていると、すっかり忘れてしまった当たり前の感覚を思い出させてくれるようで、ありがたかった。

「本当に、そう。おいしいものは、最初の一口から、最後の最後までおいしくいただきたいよね。そんな、ごく普通の感覚を取り戻したい。私、やっぱり『普通に』食べたい。『普通に』おいしいものを食べて、『普通に』お腹が減ったら食べて、『普通に』お腹がいっぱいになったらごちそうさま、って言いたい。私、そんなみんなにとって当たり前のことがずっとずっと出来なかったの。買いたくもないのに仕事帰りに大量に食べ物を買って、食べたくもないのに片っ端からどんどん詰め込んで、吐きたくもないのに血が混じるまで吐いて、それでようやく『あぁ、今日も太らなかった』なんて意味もない安心感を感じて、やっと眠ることが出来て、長い長い一日が終わる。そんな生活から抜け出したい。こんなこと、一刻も早く終わらせたい。だけど、今までどうしてもやめることができなかったの」

「紗希……」

陽子が、だんだん霞んでいった。顔の輪郭が、周りの風景と同化して溶け出していくみたいに、ぼやけて曖昧になっていった。前を向いていられずに俯くと、雨粒で濡れていくように、スカートに徐々にシミが広がっていった。


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