見出し画像

緩和策を継続する中国

利上げラッシュ


株式市場が荒れています。先週先々週はFRB、ECB、BOE、SNB(スイス)が立て続けに利上げを行い、日銀のYCC政策にも投機筋によるアタックが見受けられ、株式市場は緩和バブル崩壊といわんばかりの総悲観に傾きました。かろうじてトリを務めた日銀は各種金融緩和策を維持し、市場の崩壊は土俵際一杯で回避されました。バランスシート政策の維持は、特に株式市場においては大きな意味があったとみられます(下図)。

先進国中銀と資産価格という点では、過去50年、世界的なインフレ発生時にはおおむね米→欧→日の順に利上げを行い、最後に日本が利上げをすると市場が崩壊してきたのが経験則です(下図)。過剰流動性がインフレにつながっている面は否定できないところですが、今回の政策維持は当座の安心感につながったとみられます。

高田創氏:過去半世紀5回のジンクスから見た日銀利上げ

東アジアに異常アリ


ただ、足下で金融緩和路線を維持しているのは日本だけではありません。中国も昨年末から金融緩和に舵を切っており、直近では5月20日に5年物の政策金利(最優遇貸出金利)を引き下げ、不動産融資などにかかわる長めの金利に低下圧力をかけました(下図)。4月には預金準備率引き下げも行っており、引締め一色の世界にあって中国の緩和傾斜が目立ちます。

中国が金融緩和を行えるのはインフレ率が低いからにほかなりません。5月のインフレ率は、欧米では前年比+8%超という異例の伸びとなりましたが、中国は同+2.1%と、日本と同程度にとどまっています(下図)。その日本ですら、菅政権の置き土産である携帯電話料金の引き下げが効いていることを踏まえれば、中国のインフレが如何に抑制されているか浮き彫りになります。米国と中国のインフレ率寄与を見ると、米国では耐久財、非耐久財(食料・燃料など)、サービス(輸送費・家賃など)が幅広く上がっているのに対し、中国はおしなべてどの項目も抑制されています。戦争を背景に世界的な燃料・食品価格高騰が起きている中で食品タバコ、通信運輸といった項目の伸びが鈍いのは奇妙です。

豚と石炭


中国の食品価格の伸びが抑えられている背景には、豚肉価格の下落があります。中国は豚肉の消費が非常に多いことに加え、現在は豚肉価格が周期的に下落する豚サイクルの下降期にあります。食品価格全体の伸びが鈍いのは、このような中国独自の事情があります。

資源価格については、まずもって中国の電源構成の7割超は石炭火力であり、当局は国内の石炭先物において価格統制を実施し石炭価格を低位かつ安定的に推移するようにしています(下図)。また、昨年秋の大停電を経て当局は石炭の安定調達に注力しており、内モンゴル自治区を中心に石炭採掘量は大きく増加しています(下図)。インドネシアからの石炭輸入が再開したことも、国内の石炭価格安定につながっているとみられます。

話題のロシア産原油爆買いも燃料費安定にある程度寄与しているでしょう。

以上、中国は豚と石炭という独自の事情によりインフレ率が低位で推移し、金融緩和を行える余地につながっているようです。引締めの津波に襲われた世界で、日本と中国の金融緩和は市場のアンカーとしての役割を果たすでしょう。

トラウマ克服はいつか


中国景気については、5月の主要経済指標は生産は早期回復、個人消費な緩慢な回復というペースの違いが際立つ結果となりました。新型コロナ再拡大とロックダウンの影響は家計や企業にトラウマという形で残り、貯蓄性向の高まりや投資意欲減退という傷を負わせています(下図)。短期的には取り返し消費の発現が期待されますが、「またロックダウンしたらどうしよう」という迷いが晴れない限り、景気の本格回復にはまだ距離があるでしょう。

トラウマが克服されるには、二度とロックダウンはないという絶対的な確信が必要であり、それを与えられるのは核心(習近平主席)しかありえません。すでに話題となっていますが、中国政府はこれまで行ってきたゼロコロナ政策の無謬性に固執するあまり、経済的犠牲に鈍感になっているおそれがあります。企業のトラウマは雇用や設備投資の手控えを通じ、経済に大きなダメ―ジを与えます。一例ですが、中国欧盟商会(≒在中EU商工会議所)が4月に行った調査では23%の企業が計画中の対中投資を他国に振り向けると回答しました。同時期に在中米国商工会議所が行ったアンケートでも、半数超の企業が対中投資を減らした/遅らせたと回答しています。この点について市場は期待先行の状態とみられ、「これだけ世界が経済再開したのだから、まさか世界の工場の中国もその流れに乗らないなど空気を読まないことはしないだろう」と踏んでいる節があります。中国政府のゼロコロナ政策の行方について、世界の利上げ・インフレ動向同様に目を光らせる必要があるでしょう。

※本投稿は投資を推奨するものではなく専ら情報提供を目的としています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?