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クッキーはいかが?

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1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
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#朝

あたたかさを確かめて

「来年になったら、あったかい敷きパッドを買い直すの」 そう言って、眠ったところだった。 わたしのあったか敷きパッドは、敷布団に対して少し小さくて、左右が余っている。 たまたま見つけて勢いで買ったもので(買って本当によかった。幸福度が増した)、グレイで(わたしはグレイの毛並みを愛している。昔飼っていたハスキーに似ているから)、小さいと言っても、わたしの身体に対しては充分な大きさだった。 大きさは足りているのだけれど、寝相には対応しておらず、パッドは右に寄ったり左に行ってしま

ついでに、良い朝

せっかくだから、という生き方を愛している。 それは、「ついでに」というのとだいたい同じで ついでに、郵便局に行こう、とか 郵便局にだけ行くのは面倒なのに。 百均に行くついでに、と思うと、なかなかいいぞ、という気持ちになる。 * 引っ越してからベランダが広くなったので、外でラジオ体操をするようになった。 惹かれるように、窓を開ける。 寒いのに、わかっているのに。 今朝はまだ暗い時間で、指先は真っ赤になった。 「今日はマイナス17度で」と書かれたハガキが、北海道から届いたば

12月の朝

書きたいことがないのか 時間がないのか、よくわからない。 朝、そろそろ仕事に行かなくてはならない。 そして、この朝のうちに1本は書くのだ。と決めていた。 毎日更新の、昨日分。 * 昨日は、帰ってきてごはんを食べて、そのまま眠ってしまった。 何度か目が覚めたけれど起き上がることもせず、部屋の電気を消すこともなく、気づいたら朝だった。 きちんと、朝に目覚ましをかけていた。 のろのろと起き上がって、ストレッチをして、シャワーを浴びて ほんの少し、時間に余裕がある。 ような気

冬の部屋

今朝は、ぎゅんと寒い。 床もテーブルも、水も、ぜんぶが冷たい。 寒さに支配されて、 眠いのか、おなかが空いているのか、やる気が出ないだけなのか ぜんぜん区別がつかない。 寒い。 朝のストレッチが終わったあと、ヨガマットに転がっていたら寒くてびっくりした。 何に驚いたかって、この部屋は夏には暑かったことだ。 家の中で、いちばん暑かった。 それなのに冬には寒いって、残酷すぎやしないか。 困ったなァ。 * ベッドの横の、薄い黄色のカーテンをめくる。 冬になると、どきどきめく

小さくて近いところ

朝、もにゃもにゃとパソコンの前に座る。 出勤前に、書いて、弾いて、を終わらせたい。 別に、朝が得意というわけではなくて 夜が眠かっただけで わたしはここに座っている。 * ものを書く能力の半分くらいは、適切なBGMを選ぶ能力である。 というのを、わたしは何度も噛み締めている。 書きたいことがあるから書いている、ということは稀で だいたいはどこかから、引っ張り出す。 ようやく書くことが決まっても、うまく集中できないことも多い。 没入の手助け、が音だと思っている。 *

ときどき、そんなことより花の水。親友の声と歌

早起きしよう。 が、いつもうまくいかない。 家を出る、とか 電話をする約束があると、とか そういう確固たる何かがあれば、ぜんぜん起きれるんだけどなあ。 「できれば」っていうときはだめ。 多くは、「できれば朝のうちに日課をやろう」ってやつ。 「絶対やらなくちゃ」のタイミングだと、起きれるんだけどなあ… まどろみながらも、その判断は見誤らないから結構すごい。とすら思うほど正確に。 * 「もうちょっと早く起きられたら」と思うことはある。 たくさんある。 掃除は終わったけど

朝、事実よりも真実を

すうっと、抜けるような感覚だった。 または、ふうっと落ちるような感覚。 何かがいなくなって ここにはいられなくなって 大きく欠いた、と思う。 大きく欠いた。 でもそのあとの行動や決断は、きちんと自分に委ねられていた。 悲しむのか、怒るのか 追うのか 唇を噛むことすらできずに、一度静かに見送った。 いつか帰ってきてくれればいい、と思ったけれど、そんなに易しい話ではない。と悟る。 煙草を辞めてしまったことが、時折寂しい。 ほんとうはいつも寂しかったはずなのに、いまでは時折

光の潜水艇

朝、雨が降ると家の中はしっとりと暗い。 身体を起こして、部屋の電気を点ける。 わたしの部屋、わたしだけの秘密基地が目覚めてゆく。 キッチンに出ると、窓から雨の気配が漂ってくる。 わたしはそれをたっぷり吸い込んで、見つめる。 まだ、キッチンには明かりを灯さない。 雨にも、光があると思う。 水の光、 静かに輝いてる。 夜の暗闇とは違うそれに照らされる小さなキッチンは、まるで潜水艇のようだった。 ゆっくりと漂う。 家だから動くはずはないし、わたしは潜水艇に乗ったこともない

わたしには、そういう生き方がいい。

そろそろ、いいかもしれない。 充分、満足した。 そんな気持ちで、ふとんを蹴り上げた。 * 眠ってしまおう、と思う。 ときどき、そう思う。 「少し休もう」ではなく 「もういいよ」と思って、眠りにつく。 「あれもこれもやらなくちゃ」とか、 「今日の日課も終わってない」とか、 「掃除もしてない」とか いろいろ思うけれど、まあまあ、落ち着きたまえ。 眠ってしまおう。 今日のところは、それでだいじょうぶ。 * そんなふうに眠ると、朝が来る。 “相当”寝すぎない限り、最終

いつかわたしは、夜へと帰る。

夜もいい、と思う。 やっぱり夜がいい、と思う。 最近、朝にエッセイを書いたり、日課をこなしたりする日々を過ごしていた。 日課を朝にすれば、夜には何も考えなくていいし、そのまま眠れるのがいい。 朝、仕事に行く前の限られた時間、“妙に”研ぎ澄まされた空気。 それは、朝だけの特別な時間だった。 朝にしか動かない器官がわたしの中には備わっているようで、「朝はいいな」と思っていた。 同時に、夜が恋しくなった。 朝がいい、ということは「夜はよくない」ということではない。 朝もよく、夜

はざまのひかり

夜は、眠ることにした。 「朝起きてから日課に取り組むこと」にハマっている。 これまでは、「夜眠るまでにやろう」と決めていた。 今日中に、という気持ちが強かった。 でも、「朝でもいいんじゃないか」と思えたら、暮らしの速度が少しずつ変わった。 夜は、眠ろう。 なにも考えず、倒れるように。 そして、朝のわたしに託そう。 きちんとパジャマを着て、コンタクトレンズを外して わたしは、堂々と横になる。 目覚ましを、朝6時にセットしたら、もう何も考えない。 わたしはベッドと睡魔に呑まれ

毎朝のわたし

朝は、眠い。 わたしはだいたい眠いし、眠るのが好きだし 朝はみんな眠いものでしょう?って、思うわたしもいるけれど。 かつて泊めた女友達が、起床3秒後から「今日見た夢がね!」ってふとんをたたみながら、いつものテンションで語り始めたことがあったので、どうやら朝が苦手じゃない人種もいるらしい。 と、そのときに知った。 それは、信じられない光景だった。 あれから何年経っても、わたしは朝が苦手だし、起床後30分以上経たないと、夢の話はできないと思う。 それでも朝には起きる。 もぞも

お気に入りの箱には、ときめきを詰めて

箱を捨てられない、と思う。 箱だけじゃなくて、プレゼントのリボンとか、スターバックスの紙袋とか。 手にした瞬間のときめきを、一緒に残したくなってしまう。 最近はようやく、選べるようになった。 残しておいても最後は捨てるだけ、とわかっている。 そしてときめきは、残念ながら明日にはもう消滅している。 だから、できる限りその場で捨てるようにしている。 どうしてもむり、と心が叫ぶものを除いて。 リボンのいくつかは、ぬいぐるみの首に巻かれる。 そして箱のいくつかには、何かを詰めて

とろり、溶けるコーヒー

起きてすぐ、洗濯機をまわしてバスルームに飛び込む。 そうしないとわたしは、もう一度眠ってしまう。 髪を乾かして、洗濯物を干して、掃除をする。 妙にテンションが上がって、「このあとはどうしよう」と意気込む。 そうね、コーヒーでも飲みましょう。 冷蔵庫には、ドリップしたコーヒーが眠っている。 家で飲むコーヒーは、牛乳と半分。 冷たい牛乳に、コーヒーを落とす。 このまま飲んじゃおうかなあ、と勇むような気持ちのわたしに、 もうひとりのわたしが「待てよ」と肩を叩く。 冬だもの