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光の潜水艇

朝、雨が降ると家の中はしっとりと暗い。

身体を起こして、部屋の電気を点ける。
わたしの部屋、わたしだけの秘密基地が目覚めてゆく。

キッチンに出ると、窓から雨の気配が漂ってくる。
わたしはそれをたっぷり吸い込んで、見つめる。
まだ、キッチンには明かりを灯さない。

雨にも、光があると思う。

水の光、
静かに輝いてる。

夜の暗闇とは違うそれに照らされる小さなキッチンは、まるで潜水艇のようだった。
ゆっくりと漂う。
家だから動くはずはないし、わたしは潜水艇に乗ったこともないけれど。

”この船はどこへ向かうのだろう”


小さく考えて、
そしてすぐに、ハッと息を呑んだ。

この潜水艇は、わたしのものだった。
そうだ、わたしが舵を握っているんだった。
“誰か”が、”いつか”、”どこか”へ連れて行ってくれるのではない。
わたしが蹴り出さなければきっと進まないままで、どこにも行かない。
ただ、漂うだけ


目的地を決めなくてはならない。
それは、途方もないことのような気がする。

そうだ、まずはケーキを買おう。それから考えよう。
頭が動かないときは、甘さが足りないんだ。
旅は長くなるから、日持ちするクッキーも買おう。
クッキーを買ったらコーヒーも飲みたくなって、コーヒーに入れる牛乳も買おう。
そんなことをしているうちに、何か思い浮かぶかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
何もわからなかったら、歌でもうたおう。

そうして、
そうして、

ささやかな、目標とも夢とも言えない希望のかけらたちを目指しながら
大層な目的地を語ることができなくても
この船は、わたしが望まなければどこにも行かない。

どうか、そのことだけ覚えていられたら。

もうきっと、誰のせいにもしないですむだろう。

思ったよりもわたしは身軽で、自由だということを
きっと近いうち、わたしは思い知る。
雨の光を浴びた、潜水艇が、
無邪気で冷たい光を携えて、わたしに教えてくれるのだと思う。




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