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とろり、溶けるコーヒー

起きてすぐ、洗濯機をまわしてバスルームに飛び込む。
そうしないとわたしは、もう一度眠ってしまう。

髪を乾かして、洗濯物を干して、掃除をする。
妙にテンションが上がって、「このあとはどうしよう」と意気込む。

そうね、コーヒーでも飲みましょう。

冷蔵庫には、ドリップしたコーヒーが眠っている。
家で飲むコーヒーは、牛乳と半分。
冷たい牛乳に、コーヒーを落とす。

このまま飲んじゃおうかなあ、と勇むような気持ちのわたしに、
もうひとりのわたしが「待てよ」と肩を叩く。

冬だもの。
コーヒーをあたためましょう。

わたしはマグカップを、電子レンジに押し込んで、「のみもの」と書かれたボタンを押す。

少しだけ張り切りすぎてしまった気持ちには、あたたかい飲み物がよく効く、と思う。
冷めきった心にも、明かりが灯る。
あたたかさの正義を、わたしは信じている。
「めんどうだ」とか「急がなきゃ」なんて思ったとき、そして「どうしようかな」と悩んだそのときは、あたたかい飲み物が良いに決まっている。
だって、冬だもの。
あたたかさ、は冬の特権で、それこそがあたたかさの正義の正体だ。

あたたかいコーヒーは、とろりとする。

とろりと、まどろむような味は、わたしの心臓にくるりとまとわりついて、凝り固まった血液を溶かしてゆく。
そう、これこれ
わたしはいつも、安堵する。
ばかのひとつ覚えみたいに、繰り返す。

今日も、冬のあたたかさに守られたことに、にんまりする。
大丈夫、もう魔法をかけてある。

今年初めて、コーヒーを温めて飲んだ、あの朝に。
わたしは悟った。
かさかさになってしまった心には、きちんと潤いを与えていかなければならない、と。
この冬は、とろりとしたあたたかさに、何度も救われてゆくのだろう、と。

今日もきちんと魔法にかかったわたしの、お気楽な単純さに
わたしはやっぱり、安心してしまう。

ああ、コーヒーは今日も美味しい。




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