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クッキーはいかが?

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1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
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#友達

明るく、健やかなこと

「ごはん、食べてく?」  尋ねられて、頷く。  ばんごはんのメニューは何でもいい。  ピザでもハンバーガーでも  作り置きのおかずでも、冷凍のごはんでも  一緒に、ごはんを食べられるということが  あなたのそばに行ける、わたしでいるということが。  ただ、それだけで  明るくて健やかな気がしている。

「楽しくなってきたね」

 急に、「電話してもいい?」なんて、びっくりしたよ。それも、23時でも構わないって。  電話を受けるときは、「どうしたァ?」って言うようにしている。もう、十年よりうんと前にだけれど、言ってもらって嬉しかったことを、忘れていないから。もし君が、どうもしていなくても。どうかしたことを、話せなかったとしても。  わたしはそれを、聞くつもりがあって、できるだけ寄り添いたいと思っていることを、願わくばそのひとことで、伝えたかった。  話を聞いて、一緒に考えて、「心がラクになったよ」

「から揚げ、食べる?」

その日、冷蔵庫には山盛りのから揚げが入っていて それはまるで来客を予期したかのように、ひとりでは到底食べきれない量だった。 「から揚げ、食べる?」 別に、お腹がいっぱいだったら、無理をしなくていい。 食べたくない気分というならば、それでもいい。 そういうときは、「いまは平気」って言ってくれれば大丈夫。 でももし、「から揚げ」 その言葉に、少しでも胸が躍る気持ちがあって 少しでも、お腹に隙間があって あるいは、隙間があるような気がして 食べちゃおうかなあ。と思ったら。

松永さんの場合は、

さっきまで、「もう22時になってしまった」というエッセイを書いていた。 眠すぎて、ぜんぜん先に進まなくて、下書きにして画面を閉じた。 眠すぎるときと、お腹が空きすぎているときは、どうしても書けない。 けれども人生の大半というのが、眠たいかお腹が空いているものだ。 やる気に満ち溢れている瞬間は刹那。 眠くもなくて、やる気もあって、具合も悪くない瞬間なんて、奇跡みたいな話だと思う。 そんなどうしようもない(だいたい眠い)のわたしが、noteの毎日更新を1400日を迎えようとし

ねむい(救い)

約束の時間の、1時間半くらい前にスタバに着いて 今日分のnoteを書いてしまおうと思ったのだけれど、撃沈してしまった。 「言いたい」と「伝えたい」は全く異なる作業で 伝えるために、どれだけ「言いたい」を削れるか。 今日は、書いた半分を消した。 伝えたいときには、それなりの準備が必要だということを学んだけれど、準備しようと思うと面倒で後手になるのはわかっているので、また勢いで書き始めるのだと思う。 むかしは、「準備のできないわたしはダメなヤツだ…」と思い、いちいちきちんと落

食べたいもの、大切なもの

友達に、おしゃべりしようって 誘われて、嬉しくて 日程が決まる前に、手土産を買ってしまったりして わたしの都合に合わせてもらって恐縮だなぁと思っていたのだけれど 今日は、どうしてもワガママを言いたくて 「ねえ、今日はコメダでもいい?」 シロノワールの、ブラックサンダーのやつ。どうしても食べたくて でも、なぜか なんとなくなのだけれど シロノワールは友達と食べたいわたしがいて 今日はワガママ 「いいよ!コメダ好きだよ!」 きっとそう言ってくれると思っていたから 君は、

居酒屋で噛みしめたもの

友達ふたりと、久し振りにごはんを食べた。 観劇まで時間あるからお茶しよ〜なんて言っていたのに、居酒屋しかなくて。 本当はケーキとコーヒーの気分だったんだけど 食べ始めたら、どんどんおなかが空いてくる謎の時間に突入してしまった。 ああ、人生ってすてき ママさんが陽気な、すてきなお店で居心地が良くて、また行きたいなァ。 わたしはお酒をあまり飲まないし、誰かと食事するのはあまり得意ではないので、ついついお茶に誘ってしまう。 スタバとか、おなが空いたらコメダとか 結局、コーヒーば

東京の雨

はじめての雨で、驚いている。 この傘を、買ってから。 もちろん雨は降っていた。 引越しの日も降っていた。 でも、かばんの中の、入れっぱなしの傘を引っ張り出したのは、はじめてだった。 1ヶ月と少し前 友達と、新宿で買った傘。 お気に入りの、ポケモンの折り畳み傘を壊してしまったのはさびしい出来事だったけれど あれは、傘屋だったたにぐちが褒めてくれた傘だった。 日傘の効果は、年々薄らいでゆくのは本当だと頷いたあとに 「でも、効果がなくなるわけじゃないから。お気に入りの傘を

めんどくさいは、本音を隠している

「”どうして?”って、尋ねるようにしているんだ」 電話から、パンさんの声が漏れ聞こえてくる。 パン屋の近くに住んでいたパンさんとは、一度だけ会ったことがある。 もう何年も前で、顔も思い出せない。 パンさんは子育ての話をしているようで、「尋ねるようにしている」とそう言っていた。 パンさんのことはあまりよく知らないけれど、子供を育てているような姿があまり想像できなかった。 でもきっと、子供を育てているような想像ができる友人、というのが少ない。 わたしたちは子供のときに知り合っ

いくつもの帰り道

映画を見るために、迂回した。 「どこでも見られる」タイプの映画じゃなくて、限定されたところでしかやっていなかったから わたしは、電車に乗った。 電車に乗ることを面倒、だと思うわたしもいるのだけれど 根本的に「乗り物が好き」だということを思い出す。 乗り慣れない電車はそわそわする。眠れない。 座るときもどきどきする。 見えるところに路線図があるか、確認しちゃう。 それってやっぱり、疲れるんだと思う。 でも、そわそわして浮かれちゃう。 浮かれちゃうってことは、楽しいんだと思

ときどき、そんなことより花の水。親友の声と歌

早起きしよう。 が、いつもうまくいかない。 家を出る、とか 電話をする約束があると、とか そういう確固たる何かがあれば、ぜんぜん起きれるんだけどなあ。 「できれば」っていうときはだめ。 多くは、「できれば朝のうちに日課をやろう」ってやつ。 「絶対やらなくちゃ」のタイミングだと、起きれるんだけどなあ… まどろみながらも、その判断は見誤らないから結構すごい。とすら思うほど正確に。 * 「もうちょっと早く起きられたら」と思うことはある。 たくさんある。 掃除は終わったけど

ライラックの横顔

ポストに、手紙が落ちていた。 ひっくり返してみると、いつもの筆跡だった。 わたしが彼女に手紙を書いたのは12日で、13日に投函している。 返事にしては早すぎる。 最近は、そんなことが続いていた。 「この手紙を書いていたら、あなたからの手紙が届いた」と走り書きされていたこともあった。 わたしたちは近年、手紙の返事を書くのをやめた。 たぶん、先にやめたのはわたしだと思う。 なぜだか、やり取りしている手紙は”返事”でなければならない、と思っていたことを、覚えている。 相手の

あなたの飛行船になりたい

覗き込んだ窓の、その先をゆびさして にこりとわらって、こどもみたいにはしゃいだ声で、こちらを見た。 「ねえ」 みんなに聞こえる声が、オフィスにすうっと通ってゆく。 「飛行船が飛んでるよ」 めずらしいね、と続いた声に惹かれて、何人かが立ち上がった。 「飛行船ってなんだっけ?」と言いながら、わたしも立ち上がった。 漢字は思いついたけど、姿形がわからなかった。 わからない。 だけれど目の前にあるなら、どうしても知りたい。 年々視力は落ちて、もう星も数えられないから見えるか不

紅茶の祈り

紅茶でも、飲もう。 そうしよう。 作業中のデスクの、 コースターの上が空いていることはない。 もう、絶対にない。と言ってもいい。 デスクのマグカップは、わたしのお守りだ。 * 紅茶は、少し手間だ。 冷蔵庫に常備してあるドリップコーヒーは、マグカップに入れるだけ。 インスタントコーヒーとか、粉タイプのお茶も数種あって、これは沸かしたお湯を入れるだけ。 紅茶は、お湯を沸かしたあとフタをして、ちょっと蒸らさないといけない。 知識として、「マグカップをあたためておくのがい