紅茶の祈り
紅茶でも、飲もう。
そうしよう。
作業中のデスクの、
コースターの上が空いていることはない。
もう、絶対にない。と言ってもいい。
デスクのマグカップは、わたしのお守りだ。
*
紅茶は、少し手間だ。
冷蔵庫に常備してあるドリップコーヒーは、マグカップに入れるだけ。
インスタントコーヒーとか、粉タイプのお茶も数種あって、これは沸かしたお湯を入れるだけ。
紅茶は、お湯を沸かしたあとフタをして、ちょっと蒸らさないといけない。
知識として、「マグカップをあたためておくのがいい」というのは知っているけど、そこまでは面倒が過ぎる。
それでも、フタをして蒸らすっていうのは
わたしの、特別で愛おしい、ルールのひとつ。
*
紅茶は愛おしい、と思う。
手間をかけて淹れるというのに不思議だ。
その過程を、愛おしく思ってしまう。
今日は紅茶の引き出しから、いただきもののティーバッグを取り出した。
かわいいパッケージを見つめて、ぽとんとマグカップに落とす。
お気に入りのマグカップを引っ張り出すことを、わたしは忘れなかった。
我が家で唯一の黒いマグカップにお湯をそそぐと、なんだか魔術みたいで、それもよかった。
少しだけお湯を入れて、フタをして。
待つのは苦手だから、そのあいだに別のことをする。
今日は、常備用のコーヒーをドリップした。
ドリップが終わる頃にお湯を加えて、ティーバッグをそおっと持ち上げる。
ゴールデンドロップ、紅茶は最後の一滴がいちばん美味しい。
わたしは今日も、信じている。
信じることが、まばゆいひかりのように、やさしい魔法になればいい。
わたしは、願っているのかもしれない。
*
願われているのだ、とも思う。
紅茶を贈ってくれたあなたが、わたしに
「やさしくてあたたかい時間を過ごしてね」って
そう、伝えようとしてくれたんだ、って。
一杯の紅茶が、わたしの肩を叩くように。
わたしは、信じている。
あなたが願ってくれたことを。
わたしも、願っている。
あなたの暮らしが、やさしくあることを。
小さく立ち上る湯気を見つめながら。
あなたのことを、思い出している。
※今日のBGM
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