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めんどくさいは、本音を隠している

「”どうして?”って、尋ねるようにしているんだ」

電話から、パンさんの声が漏れ聞こえてくる。
パン屋の近くに住んでいたパンさんとは、一度だけ会ったことがある。
もう何年も前で、顔も思い出せない。

パンさんは子育ての話をしているようで、「尋ねるようにしている」とそう言っていた。
パンさんのことはあまりよく知らないけれど、子供を育てているような姿があまり想像できなかった。
でもきっと、子供を育てているような想像ができる友人、というのが少ない。
わたしたちは子供のときに知り合って、家庭的な匂いやスペックを持っているひとは少なかった。
そしてわたしたちはいまも、子供のままだった。

たとえば、とパンさんの話は進んでいった。
結婚したいって思ってたとするじゃん。
でもどうしてって考えたらさ、
不安だったら金稼げばいいし
ヤリたいだけならそうすればよくて
つまり、何も欲望を考えずに結婚しちゃったら、満たされないかもしれないってはなし。

最近は、そういうことを考えているのだと言っていた。

めんどくさいは、本音を隠している。

今日は、この話をしようと思って、パンさんのことを思い出した。
7月11日、18時35分のメモに書いてあった。

これは、わかりやすくて心理すぎる。
そういうことだと思う。
パンさんの話に似ている、と思った。

「めんどくさい」はきっと、「どうして」を隠している。

例えば昨日のわたしは、ソファーに転がっていた。
動くのがめんどくさかったんだけど、「どうして?」と尋ねてくれたら「おなかが痛かったから」と答えただろう。
そしてもし、おなかが痛くなかったら手紙を書きたかった・
でもきっと、めんどくさくて書かなかった。
そのときはもう一度、「どうして?」と尋ねなければいけない。
そしてわたしは、「ごろごろしたい」以外の答えを持ち合わせていないだろうから、ごろごろするのに飽きたら手紙を書いたと思う。

本音と感情は、あまり近いところにないのかもしれない。
わたしは思ったより賢くはないし、なによりおとなになったところで賢くはなれなかった。

そう思えたならば、子供のころよりはおとなになれたのかもしれない。

でも、漏れ聞こえるパンさんの声は土曜の夜に酔っ払っていて
お父さんじゃなくて、学生の頃の先輩の匂いのそのままで、
変わらないことに安心するわたしは、卑怯だろうか。





※パンさんの住んでいた街の、パン屋のこと(まだある)

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