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東京の雨

はじめての雨で、驚いている。
この傘を、買ってから。

もちろん雨は降っていた。
引越しの日も降っていた。
でも、かばんの中の、入れっぱなしの傘を引っ張り出したのは、はじめてだった。

1ヶ月と少し前
友達と、新宿で買った傘。

お気に入りの、ポケモンの折り畳み傘を壊してしまったのはさびしい出来事だったけれど

あれは、傘屋だったたにぐちが褒めてくれた傘だった。

日傘の効果は、年々薄らいでゆくのは本当だと頷いたあとに
「でも、効果がなくなるわけじゃないから。お気に入りの傘を使ったらいいんだよ」と言ってくれたたにぐち。
それから、わたしの傘を丁寧に見て「良い傘だね」と言った。
カーボンで軽いやつだ、と言っていた。

次の傘も、カーボンにしようと思った。
鞄に入れっぱなしで、軽いやつ。

もう、ポケモンじゃないならなんでもよくて
でも、「なんでもいい」っていう気持ちで買うのだけは違うと思って。

だから、さゆりが新宿に来てくれると言って、にんまりしてしまった。
マルイにいるよと言われて、また笑ってしまった。

新しい傘は、さゆりと一緒に買った。
こっちがかわいいね、とふたりで言った傘。
これ以外にもかわいいものはたくさんあったけれど、あのときのわたしたちに一番だった。
これは、さゆりと買った傘。

今日、花柄の傘をさしながら
たにぐちと、さゆりのことを思い出した。
それは妙に勇ましく、同時にやさしい気持ちだった。

「東京という街は、ひとりで生きるには広すぎる」と、思っていた。

わたしはひとり、歩いている。
傘をさして、歩いている。
雨に打たれることなく、勇ましく、やさしく
それぞれの、友達のことを思い出しながら。

雨が好きかと聞かれたら、ちょっと悩む。
晴れているのは好きだと即答できるのに。
雨は雨で、いいところはある、と思うのだけれど
好きかと問われると、少し難しい。

でも、友達のことは好きだ。
これはもちろんで即答できる。

ああ、思惑通りだ。
適当な傘を買わなくてよかった。

わたしはいま、広すぎる東京という街を
雨からもさびしさからも、孤独からも守られながら歩いている。




※now playing

2022年12月15日
夜、プロントにて
友達に勧めてもらったアルバムを聞きながら

雨と友達の良い記憶が、また増えてしまったなあ。



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