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ライラックの横顔

ポストに、手紙が落ちていた。
ひっくり返してみると、いつもの筆跡だった。

わたしが彼女に手紙を書いたのは12日で、13日に投函している。
返事にしては早すぎる。

最近は、そんなことが続いていた。
「この手紙を書いていたら、あなたからの手紙が届いた」と走り書きされていたこともあった。

わたしたちは近年、手紙の返事を書くのをやめた。

たぶん、先にやめたのはわたしだと思う。
なぜだか、やり取りしている手紙は”返事”でなければならない、と思っていたことを、覚えている。
相手の返事を待ってから、書くべきだ。と信じてこんでいたわたしに対して、
「好きなときに書けばいいじゃん」と言ってくれた友達のことを、いまでも覚えている。

だから最近は、好きなときに書いている。
好きなことを、書いている。
あなたに話したいことを、話したいときに

わたしはバラを見に行ったときに、彼女を思い出した。
そのバラが、あまりにも美しく
でも花は送ることができなくて、せめて写真を撮って
お土産屋さんで、ポプリを買った。
これならば遠くの街にも届くだろう、と思って。

写真はポストカードに印刷して、ポプリと一緒に封筒に詰めた。

彼女の手紙は、15日に書かれたらしい。
久々に美術館に行ったこと、友達との食事が新鮮だった、と書かれていた。
(楽しかった、という感想より前に、新鮮だった、というのが彼女らしい。と思った)

ポストカードは、おそらく美術館で買われたものだろう。
フェルメールのイラストだった。
「窓辺で手紙を読む女」
なんだか、わたしたちにぴったりだと思った。

手紙には、「八重桜とライラックが咲いている美しい場所だった」とも書かれていた。

わたしはいま、ライラックの横顔を見つめている。
このあいだ、花屋で買ったところだった。
たくさんの、それもずいぶんとかわいらしい花たちの中で、わたしは初めてライラックを選んだ。
どうしても、この花を買わずにはいられなかった。

わたしたちはいま、遠い街で
フェルメールとライラックを見つめて、バラの香りのただよう部屋で

きっと、あなたのことを思い出している。




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