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住む場所に縛られない モバイルハウス生活をする若手建築家の生き方

全国どこへでも、車一つで移動をしながら暮らす。この生活を始めて4年、フリーランスの若手建築家は“場所”に縛られない自由な生き方を楽しんでいる。設計から施工まですべて自分たちで行う、個人事業主の建築家集団 HandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)のメンバー、32歳建築家のモバイルハウス生活を覗いてみた。

大石義高(おおいし よしたか)
二級建築士/ 第二種電気工事士。2015年大学院卒業後、建設会社へ入社。2017年よりHandiHouse project 参画。創業メンバーの下で1年間の修行を経て独立。フリーランスの建築家として活動する。2022年に株式会社楽工隊 設立。
オーナーさんとアイデアを出し合って、一緒に家やお店を作っていく過程が好き。会話を重ねるほど、自分だけでは思いつかないアイデアやデザインが出てきて、各々の個性が滲み出る空間が生まれる。そんな空間づくりを続けていきたい。

HandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)
個人事業主の建築家たちが集まって一人ではできないことに挑戦する多能工集団。「どんな家にしようか」という最初の妄想から作る過程まで、プロジェクトオーナー(施主)と一緒に作業をしながら家づくりを楽しむ。“施主参加型の家づくり”を提案しながら、設計から施工まで、すべて自分たちで行っている。

石垣 藍子(聞き手)
建築や飲食業界、子ども関係などの企業や団体の広報PRを行っている。自身の家もハンディに依頼し、庭にウッドデッキを作った。過去に、工務店選びで失敗した経験があり、施主が家作りの中心となって住まいに愛着を持てるようになることを目指すハンディの活動に興味津々。

誰でも始められる モバイルハウス生活

ーーこちらが大石さんのおうち?

大石:そうです。自分で作りました。

ーー建築士ってこういうのも作れちゃうんですね。

大石:建築士じゃなくても誰でも作れると思いますよ。

ーーえ?私でも?

車のボディには断熱材を塗って、少しでも暑さ寒さを防げるようになっている。屋根にはウッドデッキとソーラーパネルも。photo by 佐藤陽一

大石:できると思いますよ。荷台に寝る場所を積んでるだけですからね。電気はソーラーパネルをつけて、そこから引っ張ってきているだけなので、特に大きな工事も必要なかったです。
ただ、車の中って少し曲線になっているので、壁付けの家具などを入れるとなるとちょっと大変かも。難しさはそれくらいですね。

収納式のベッド。寝心地にはこだわって、お値段以上ニトリの最高級セミダブルベッドを選んだ。
電源、ポケットWi-Fi完備。オンライン会議も駐車場さえあればどこでも参加できる。 Photo by 佐藤陽一
イベント的にこんな楽しみ方も。

大石:一番のこだわりは、ベッドです。友人に、車で寝ていることを話したらバカにされたことがあるので、ニトリで最高級のセミダブルベッド買って入れました。「お前んちのベッドよりもいいもので寝てるよ」って言えるので(笑)

住まいはモバイルハウス 働き方はフリーランス 手に入れた自由と責任 

ーーモバイルハウスで暮らし始めて4年が経つそうですが、そもそもどうしてこのライフスタイルにしたんですか?

大石:建築の仕事っていつも同じ場所へ出勤するのではなくて、その時々の現場に毎朝早くから行かなきゃいけないことが多くて。現場が自宅から遠いと大変なんですよね。このライフスタイルのおかげで、仕事を受けるときに場所の心配をすることが減ったので全国どこでも駆けつけられます。現場近くの駐車場で寝泊まりすれば、ギリギリまで寝ていられますし、宿をとらなくても良いので金銭的にも助かりますね。

ーーお金も時間も無駄がない感じ、すごくいいですね。この生活にしてから何か変化はありましたか?

大石:一気に仕事への自由度も広がって面白さや楽しみも増えました。フリーランスになって働き方が自由になったおかげもあると思いますが。
新卒で入社したのは静岡を拠点とする建設会社だったのですが、会社の周辺で賃貸マンションを借りて、静岡近隣の現場に行く毎日でした。そういった環境では、北海道や沖縄から面白そうな仕事が舞い込んでも断らなければいけないですよね。そもそも会社員だったので、自分の一存では決められませんでしたし。でも、フリーランスだと自分でスケジュール調整もできますし、家(車)ごと現場へ移動できるので、工期が長引いたとしても普段のように生活ができてストレスも少ないです。

海が見える場所や、都心の夜景が綺麗な場所、広大な自然の中など、この生活をしていなかったら住めなかった場所で寝泊まりできるのも最高です。

北海道の現場にも愛車とともにフェリーで移動。

大石:あとは、この生活を面白がって仕事を頼んでくれた方もいます(笑)

ーーえ!?そんなメリットが!(笑)

大石:車で寝泊まりをしているのが面白いからお願いしたいと。半分冗談かもしれないですけどね(笑) でも、話題が膨らんで自分に興味を持ってもらうきっかけになったのは確かです。
思わずオーナーさんの前で、「車で寝ててよかったー」って言っちゃいました(笑)

2021年に開催されたタイニーハウスフェスティバルでは、大石の車も出展。この場所で寝泊まりして東京駅の夜景を堪能した。 Photo by 佐藤陽一

ーーこの生活で大変なことはありますか?

大石:やっぱり夏の暑さですね。真夏の車中泊は危険です(笑) 最近ポータブル電源で動くエアコンを購入したので、最悪泊まる場所がなかったら車で寝る算段はつけましたが…。

1年目は現場の地下室が涼しかったのでそこで寝泊まりをしました。次の年はマンスリー契約ができるシェアハウスで。3年目は1ヶ月間海外旅行でアジアへ行きました。家賃の支払いがないので家をあけても無駄になることもありませんし、アジアは物価も安いので生活費も日本ほどかからないのでなかなかよかったですよ。建築の現場は真夏は酷暑なので、夏に休暇を取ったのは公私ともによかったと思います。

ーーフリーランスだからこそできることでもありますね。

大石:そうですね。自分が働かなかったらお金も入ってこないので決断には責任も伴いますが、自分で判断して自分で決められるのは人生の楽しみが広がりますね。

車の窓に書かれたこの言葉。大石さんの生き方を体現しているかのよう。

一人でできないこともみんなで集まればできる フリーランスの建築家集団

ーー大石さんはフリーランスで活動していますが、HandiHouse project(以下、ハンディ)にも所属していますよね。どうしてハンディに入ろうと思ったのですか?

大石:ハンディとの出会いは学生時代でした。リノベーションスクールという街づくりや建築を学べる講座に参加したときに、ハンディの創業メンバーが講師として来ていて。

当時の僕は、建築学科に入ったけれど、目指したい方向性が定まらなくて悶々としていた時期でした。大学の講義で有名な建築家の話を聞く機会もありましたが、設計をする人が一番偉いような印象を持ってしまって。それってなんか違うなと思って、目指すのは建築士じゃないのかもと迷ったりも。就職活動で目指す方向が定まらなかったので、とりあえず大学院へ進みました。

そんなときに参加したイベントで、ハンディの人たちは気さくにワイワイ楽しく一緒に手を動かしながら家作りを教えてくれたんですよね。学生を相手にフラットな関係で、何だか近所のお兄ちゃんが教えてくれているような雰囲気で。大学の講義でこんな建築士に会ったことがなかった。しかも、設計をして指示だけ出すのではなくて、自分で施工までできちゃうなんてめっちゃかっこいいなと。こんな楽しいことを仕事にできるなんて最高だなと思いました。その日から、いつかハンディに入りたいと思いながら、まずは大工の技術を身につけようと建設会社に入社したんです。

ーーその後、憧れのハンディのメンバーになって独立もできましたね。

大石:ほんとラッキーでした。そろそろ次のステップにいきたいと思っていたところで、ハンディのFacebookで募集をしていたんですよね。思い切って申し込んで、創業メンバーの坂田さんの下で設計や施工、あらゆる家作りについて学んで。その1年後に、独立することができました。

独立のきっかけとなったプロジェクト「スイス食堂LePre」設計から施工まで大石さんとオーナーさんとで行った(左から坂田さん、大石さん、オーナーさん家族)

ーーハンディに入って、独立するまで1年というのは修業期間は短いほうですか?

大石:通常の会社員の感覚でいくと短いのかもしれませんが、ハンディは独立してもずっとメンバーでいられるので退職といった感覚とは違っていて。

メンバー全員が個人事業主で活動をしていて、それぞれのプロジェクトに応援という形で加わって建物を作る経験もできるので、色々やり方を見られるのも独立する上ですごくよかったです。先輩メンバー5人のやり方は三者三様で。例えば、この人の現場はいつ行っても整理整頓されていて綺麗だなとか、職人さんとの関係性がすごくいいなとか。それぞれのやり方を見よう見まねしながら、みんなのいいとこどりをさせてもらったことが独立してからもすごく役に立っています。

ーー独立後もハンディに所属する良さはどんなところですか?

大石:一人じゃない安心感は大きいですね。先輩後輩に関わらず、僕の現場へ応援にも来てくれたり。経験がない初めてのプロジェクトが舞い込んできたときには、先輩たちにいつでも相談ができるので心強いです。最初の頃は人脈も少ないので、職人さんやお仕事の紹介をしてくれたりも。今は、自分がスケジュール的にできない仕事を他のメンバーに紹介することもできるようになりました。せっかくのお仕事をお断りせずに信頼できるメンバーを紹介できる点もすごく助かっていますね。

HandiHouse projectのメンバー。2023年に新メンバーも加わり21名に。

いま、自由と責任の狭間で僕が大切にするもの

ーーこの働き方、生き方を選んだ大石さんが大切にしているものはありますか?

大石:やっぱり人との関わりやコミュニケーションですね。その上で、ハンディが大切にしている、“施主参加型”の家作りはすごく自分にあっていると思っています。

家作りにどうやって参加をすればいいのか、最初はわからなくて控えめなオーナーさんもいらっしゃいます。でも、会話を重ねてこちらが質問を投げかけていくうちに、オーナーさんがどんな暮らしを望んでいるのかたくさんアイデアが出てきたりも。

庭に作るウッドデッキの打ち合わせ。造園会社の方も加わって現場を見ながらみんなでアイデアを出していく。

大石:DIYは現場に来て主体的に家作りに関わってもらうための手段でしかなくて、現場を見ながらコミュニケーションをとることこそが大切だと思っています。

どんなものが好きなのか。どんな暮らしを望んでいるのか。遠慮していて本当の気持ちが言えない方にも言いやすい雰囲気を作れるように。現場にふらっと来てくれたときこそ、オーナーさんを巻き込むチャンスなので積極的に相談するようにしています。

オーナーさんが妄想段階で作った手書きのメモ。収納したいもの一覧。
メモを元に洗面所、脱衣所の収納を考えながらリノベーションし、オーナさんの暮らしに合わせた家作りが実現した。
オーナーさんのこだわりを細部に盛り込んだマンションリノベ。オーナーさん自らが見つけてきたタイルなど、大石も新しい発見が多かったという。
全国に展開するクッキー屋さん。原宿店の内装を担当。
2022年はクッキー屋さんの京都の店舗内装も担当。完成後の現場前で、車のウッドデッキの上から記念撮影。

ーーこういったやり方はハンディじゃないとできないものですか?

大石:そうですね。設計から施工まですべて自分でできるので、元請けの企業などを挟む必要がないためプラン変更やスケジュール管理も自分主導でお客さんに相談できます。だからコミュニケーションに時間をかけられるんだと思います。建築の世界も効率重視の流れが今も続いていますが、ハンディは効率は良くないけれど、満足度が高くてクレームもあまりないので、結果的にコストパフォーマンスが良いんですよね。

机に向かって書いた設計図以上に、現場でオーナーさんと話して変更した後の家のほうが断然魅力的で。オーナーさんのアイデアが加わったり、会話の中でどんどん家が良くなっていくことに毎回感動します。この仕事をやっててよかったなぁと思う瞬間ですね。

一緒に作った思い出と、家やお店への愛着を全国の人たちに提供できるように。今後もこのスタイルで、フットワーク軽く活動をしていきたいと思っています。

2022年開催したハンディ結成10周年イベント。オーナーさんや関係者およそ100名が集まった。大石が担当したオーナーさんも遠方からたくさん駆けつけてくれた。photo by 佐藤陽一

※HandiHouse project公式サイトはこちら
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