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独立してもチームで動く フリーランスでも副業でもない絶妙な働き方

普段は個人で活動をしながら、時にチームとなってプロジェクトに取り組む建築家集団「HandiHouse project」 2023年に独立した2人の若手建築家は、個人事業主でありながら、二人三脚で活動することを決意した。そこには、かつて4人でチームとなって活動をしていた創業メンバーへの憧れと、建築業界で新しい価値観を生み出していくことへの挑戦があった。

森川 尚登(もりかわ なおと)※写真右から2番目
大学卒業後、内装デザインの会社で営業として勤務。設計から施工までの全てを一人の担当者が行う家づくりに惹かれ、2019 Handihouse project参画。メンバーの山崎大輔のDAY’Sに所属しながら設計施工を学ぶ。2023年独立し、同世代のメンバー寛野雅人とともに“チームでつくるものづくりの良さ”を伝えたいと活動中。

中田裕一(なかた ゆういち)※写真左
HandiHouse project 創業メンバー。株式会社中田製作所 一級建築事務所 代表。神奈川県湘南エリアに根ざし、地域に密着したものづくりを展開している。高気密高断熱などの機能性を重視した家づくりや、タイニーハウスやキッチンカー、サウナ小屋など、幅広い分野の建築を手がける。新卒から経験者まで、若手建築家の育成にも力を入れている。

坂田裕貴(さかた ゆうき)※写真左から2番目
HandiHouse project 創業メンバー。株式会社a.d.p 代表。建築・内装の設計を中心に空間づくりを行う。2023年、HandiHouse projectの若手メンバーの後ろに回ってサポートや応援をする「後援」というポジションを提案し、自らが初めての後援メンバーとして次世代に向けて何ができるのかを構想中。後援メンバー提案への思いを綴ったnoteはこちら。

聞き手 石垣 藍子(いしがき あいこ)※写真右
企業や団体の広報PRをで行うフリーランス。HandiHouse project 広報PR。自身の家もHandiHouse projectに依頼し、庭にウッドデッキを作った。最近は、メンバーへのインタビューを行いながら、組織やコミュニティ運営の仕組みづくりにも携わっている。

HandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)※以下ハンディ
「どんな家にしようか」という最初の妄想から作る過程まで、プロジェクトオーナー(施主)と一緒に“施主参加型の家づくり”を提案。設計から施工まで、すべて自分たちで行う建築家集団。合言葉は「妄想から打ち上げまで」所属メンバーはそれぞれ会費を支払い、みんなでハンディを運営する。年齢やバックグラウンドも様々。普段は個人で活動をしているが、一人でできないプロジェクトはチームを組んで取り組む。
2023年に活動方針を刷新。その過程での裏話についてはこちらのnoteで

個人事業主がチームを組んで働くメリットとは

石垣:なおとくんは、2023年4月、独立して個人事業主になりました。これまでは、独立すると基本的には一人で活動をして、応援という形でハンディのメンバー間で現場を行き来するやり方が主流でしたが、最初から他のメンバーとチームを組んで活動することを宣言した人は初めてですね。

なおと:チームで活動をしようと思ったのは、単純に1人より2人で考えたほうが、良いデザインや良いモノが生まれると思ったから。ただそれだけなんですよね。

森川尚登  (Photo by 佐藤陽一) 

石垣:共同代表とか、代表、副代表といったように、2人で団体や会社を立ち上げるのではなくて、あくまでも個人事業主がチームを組むという形を選んだのですね。

なおと:相方の寛野くん(ハンディメンバーの寛野雅人)も僕も、昨年度までベテランメンバーのチームに所属しているスタッフでした。設計から施工までを上司の下で学んでいて。一通りできるようになったので、自分たちがやってみたいことにも挑戦してみたくなったんですよね。誰かの下で働いている状況だと、なかなか自分の時間をつくりにくいというのもあって。

石垣:スタッフのときも、独立した後も、ハンディに所属しているという意味では変わらないですね。

なおと:そうなんです。そこが独立への後押しをしてくれました。まだまだ繋がりや人脈も少ないですし、引き出しももっと増やしていかなきゃいけない中で、完全に1人で活動しなくてはいけない状況だったら独立していなかったと思います。経験豊富なメンバーにいつでも相談できるハンディに所属しているのは大きいです。

石垣:ハンディに所属しているおかげで安心感も得られるというのはいいですね。さらに寛野くんとチームを組もうとなったのはどうしてだったんですか?

なおと:ハンディに入って5年目になるのですが、僕はずっと創業メンバーが創業初期にやっていた、“チームでものづくりをする”といったやり方を自分もやってみたいと思いながら下積み期間を過ごしてきて。あの頃の裕一さんや坂田さんのようなことをしてみたいと思っていたし、絶対そのほうが面白いものをつくれると信じていて。

各々建築関係の会社で勤務した後に個人事業主となった4人が、同じビジョンの下HandiHouse projectを結成。2023年で活動12年目となる。結成当初はほとんどのプロジェクトを4人で担当し、現場でもプライベートでも一緒に過ごしていた。

裕一:あの頃は楽しかったなぁ(笑) いや、今も楽しいですけれど、今は若い子を育てる立場を選んだので、当時のような動きはできなくなったね。でもそれをまたやろうと思っている人が出てきているのは嬉しい。

なおと:1人で活動すると、結局自分の力量次第になってしまって、面白いことや新しいモノを生み出しにくいと思うんですよね。ちょうど同時期で独立を考えていた寛野くんと話してみたら、寛野くんもチームで動くことのメリットを感じていたので。よし!やろう!となったんです。坂田さんやベテランメンバーが応援してくれているのも励みになりました。

坂田:独立して主体的に動いたほうが、人って成長すると思うんですよね。寛野くんは僕のチームに所属していましたが、僕から独立を勧めてみたんです。

2023年に独立してチームを組んで活動している寛野雅人(左)と森川尚登(右)

坂田:いつまでも僕の下で働いていても受け身になって主体的に取り組めないと思ったので。自分で考えて自分で動くということを早い段階でやってみたほうがいいと思って提案してみたんですよね。ハンディに所属していれば、誰かに助けを求めることもできるし、それぞれのプロジェクトで施工の応援は常に欲している状況にあるので、仕事にあぶれることもないですしね。

石垣:なるほど。どんな成長を見せるのか楽しみですね。ハンディに所属している安心感のおかげで独立できたことといった声は他のメンバーからも聞きますね。

なおと:安心感はありましたね。そして、創業メンバーの12年の遍歴を考えると、僕もできるかなと思ったのも大きいです。チームで助け合いながら良いものをつくり上げてきたお手本が傍にある。4年間、すけさん(なおとが所属していたDAY'Sのリーダー山崎大輔)の下で、大小問わず毎日施工をしていたので、施工技術だけだと当時の4人よりも僕の方ができると思っていますし(笑)

裕一:当時、建築の仕事だけじゃ食べていけなくて全然違う業界のバイトをしてたメンバーもいたよね。なおとはそれよりも良い状況だよ(笑) あの頃を経て今、メンバーを増やすこともできて活動が続いているからお手本になれてるんだなぁ。よかった…。

結成当初のメンバーの活動についてはこちらのnoteで紹介中

現代のものづくりへの反骨精神 みんなで建築業界に新しい風を吹き込みたい

石垣:自分の個人活動とハンディとどっちが大事ですか?

なおと:今はハンディですね。

石垣:そうなんですね!どうしてなんですか?

なおと:僕はもともと、前職で感じた現代のものづくり業界に対して違和感を感じてハンディに入ったんですね。大きな会社で勤務していたので、一つのものをつくる過程で分業が当たり前でした。お客さんとコミュニケーションを取る必要がない部署もたくさんありましたし、お客さんも出来上がりだけを見て満足していた。そういった状況を見てきて、ものづくりの楽しさが失われていると違和感が出てきて。そもそも自分も営業担当だったので、手を動かしていないのに営業をしていることにも違和感があって。なので、ハンディに入って、自分も手を動かしながら、設計から施工までお客さんと一緒に進めていけるスタイルに挑戦して、ものづくりの楽しさをもう一度たくさんの人に伝えたいと思ったんですよね。
達成したい目標や、違和感からの反骨精神のようなものがあるので、みんなでハンディを大きくしていきたいというのが一番にあるんです。

なおとが独立のきっかけとなったプロジェクト、ハンバーガー専門店「グランビリーバーガー」オーナーさんと一緒に手を動かしながら店づくりをした。
「グランビリーバーガー」のオーナーさんがタイルを貼る様子。一緒につくる過程で、オーナーさんの店への愛情が日増しに強くなっていくことを感じたという。

裕一:僕たちがハンディを設立した動機と似ているね。ものづくりや建築業界への違和感を感じていた。誰のための家づくりなのかって。分業化が進むことで、住む人のこともつくる人のこともおざなりになっちゃってるっていう。

坂田:今、ハンディ内で独立するメンバーが増えてきているから、たくさんの同世代のメンバーで取り組めば、僕たちの時代にはできなかったこともできると思うし、可能性は広がっていく気がする。

なおと:メンバーの人材の流動も柔軟にしていきたいです。最初からチームで動いていなくても、それぞれの現場を応援で手伝う中でいつしかチームとなって活動しているような動きでもいいですし。

月に1度、メンバー全員で交流する「ハンディ会」建築関係の勉強会や、進行中のプロジェクトの相談や共有を行う。この日は、森川、寛野の現場にみんなが集まった。

なおと:自分のやりたいことを実現するためにハンディが存在するのではなくて、ハンディに所属しているからこそできることを模索していきたい。自分がやりたいこともやりますが、ハンディも一緒にフューチャーしてもらえるようになれば、建築業界全体が良い方向に向かうと思うんですよね。

石垣:具体的にはどんな方法があると思いますか?

なおと:例えば今やってるプロジェクトでは、僕と寛野くん、そこに秋山さん(メンバーの秋山直也)も入ってもらっています。プロジェクトが始まる前段階で、声を掛け合うことで、最初の打ち合わせから三人で入れます。そうすることで、各々が受け身ではなく自分のプロジェクトという意識で主体的に参加ができて、現場にも入りやすくなったりもするんですよね。

独立後初のプロジェクト、千歳船橋のベーカリーカフェ。オーナーさんと一緒に左官をする森川尚登と寛野雅人。秋山直也撮影。

石垣:確かに、最初からプロジェクトに参加するのと途中から参加するのとでは意識が全然違いそう。始まる前に声を掛け合うっていいですね。

なおと:そうなんですよね。そういったちょっとしたメンバー間のコミュニケーションがこれまでなかったというか、取りづらい状況だったのかなって。僕も独立したことで、今までよりも柔軟にコミュニケーションを取れると思うので、チームで動くことをハンディの中でも認知してもらえれば、こういうやり方もあるんだなって興味を持ってもらえるのかもしれないなって。ちょっとずつではありますが、モノづくりの世界もいい方向に向かったらいいなと。今僕ができるのはそういうことかな。

坂田:そういった考え方だったら、夏に中田製作所がやってる海の家のプロジェクトみたいに、色んなメンバーと流動的にやっていくのもいいよね。基本的に一緒にやっているのは寛野くんだけど、常にいろんな人たちとコラボレーションをするような。

なおと:そうですね。積極的にコラボレーションはしていきたいです。

毎年逗子海岸でオープンする海の家「シーサイドリビング」中田製作所メンバーが中心となって活動。他のチームからも多数施工に参加して、人材交流が盛んな現場。

裕一:なおとがいろんな人とコラボして、一人で抱える負担も減ったり、働きやすさのようなものを後輩たちに見せることで、今後独立するメンバーも、一人でやるよりは複数でやった方がどうやらよさそうだぞって感じるかもしれないね。僕たちも、多分一人で活動していたら今のような形にはできていなかったと思う。複数人で活動するメリットは絶対にある。そういうのを見せていってほしいな。

なおと:裕一さんや坂田さんがチームで活動していた頃とはまた違った形も探りたいです。より発展するようなやり方で、ハンディの活動をアップデートしていくことを目指していきたいです。

フリーランスでも副業でもない まだ名前のない働き方

石垣:なおとくんの働き方って、いわゆるフリーランスとはちょっと違う気もする。かといって、副業とも違うような…。

坂田:フリーランスと副業の間、みたいな感じですかね。会社員ではないけれど、ひとつの組織には所属していて。でも組織のやり方には縛られないで、自分で決めて働ける自由さもあるので。

なおとは建築以外のバイトもするって言ってたよね?

なおと:飲食にも興味があったのでやろうと思っているのですが、おかげさまで、しばらくは設計や施工の仕事が入ってまして。
裕一:建築にこだわらず、自分が欲しいスキルってハンディの仕事以外からも習得できるわけで。僕の妻(メンバーの中田理恵)も、中田製作所の仕事をしながら、業務委託で別の会社の仕事をしながら学んでいました。金銭的な目的ではなく、自分の可能性を広げるためにバイトをするっていうのはすごく良いと思う。

中田裕一

裕一:いろんな分野での経験がミックスされて、新たなハンディがなおとたちの世代で、もしかしたら生まれるかもしれない。同じ設計施工の中で生まれる可能性もあるけど、また違う要素を入れることによって面白く変化するのも楽しみだね。

こういう他分野での挑戦って独立したからこそできると思っていて。誰かのもとで働いていたらなかなか難しい。これはなんだろう、副業になるのかな。

坂田:フリーランスだけど組織に属していて、バイトもしている。今社会で言われている働き方のワードはどれもしっくりこないね。コロナの影響もあって、どんどん働き方が変わってきていますよね。今後もいろんな働き方が生まれてくると思う。これまでは会社組織の一員として所属会社の仕事だけしかやらなかったところから、副業っていう働き方が出てきて。個人事業主、フリーランスの人たちも増えている。

坂田祐貴

坂田:なおとがこれからやっていく、副業とフリーランスの間ぐらいの働き方が、今は社会の中で一つのポジションとして確立されていないかもしれないけれど、こんな働き方があるんだってもう少したくさんの人たちに知ってもらえれば、もっと働き方を自由に選択できるようになるかもしれなくて。
今は概念も確立されていないことで、会社員かフリーランス、どっちかじゃないといけないって思うと、なおとのような働き方が不安定な働き方のように思われることもあるのかもしれない。でも、この働き方に名前がついたら、世の中で当たり前になっていくのかもしれないね。

石垣:自分が一番やりやすい働き方に名前がつくと、自己紹介のときにも困らなかったり。当たり前になると生きやすさにも繋がりそうですね、

坂田:そうですね。会社員でもなく、フリーランスでもなく、一言では言えない働き方が社会で認められることで、しがらみや後ろめたさのない生き方ができるようになってほしい。そうすれば、時代の変化に合わせて自分自身の生き方も柔軟に変化できて、そんな自分を受け入れられるようになると、働きやすさにも繋がっていくと思っています。僕も、なおとを始めとする若手メンバーから刺激をもらいながら、これからの時代、どんな面白いことに挑戦できるのかを考えていきたいです。

取材・文 石垣藍子


2022年、メンバー全員で、1年間の話し合いを経て決めた活動方針とその裏話についてはこちらの記事でご紹介しています。ぜひ読んでみてください。
https://note.com/handihouse/n/n25cabfe3b074

※HandiHouse project公式サイトはこちら
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