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幸福経営学の知見から、はたらく人の幸せと不幸せについて考える【パーソル総研 井上氏 × パーソルイノベーション hanaseru事業部 木村氏対談】

パーソル総合研究所では、幸福経営学を提唱されている慶應義塾大学の前野隆司教授との共同研究として、これからの幸せなはたらき方を探求する「はたらく人の幸福学プロジェクト」に取り組んでいます。

はたらく人はどのようなことに「幸せ」や「不幸せ」を感じるのか。本プロジェクトでは国内の就業者(20代~60代)に対して質的調査と大規模なアンケート調査を実施。「はたらく人の幸せ/不幸せ」に着目した新たな経営指標を開発しました。

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はたらく人に“幸せ”をもたらす7因子を「自己成長」「リフレッシュ」「チームワーク」「他者承認」「他者貢献」「自己裁量」「役割認識」
はたらく人に“不幸せ”をもたらす7因子を「自己抑圧」「理不尽」「オーバーワーク」「協働不全」「疎外感」「評価不満」「不快空間」と定義。

個人や組織にとって望ましい状態(well-being)を追求する際に重要な介入の観点として提案しています。

今回は、「はたらく人の幸せ/不幸せ」をテーマに、パーソル総合研究所 主任研究員の井上亮太郎さんと、パーソルイノベーション hanaseru事業部の木村健太郎さんが対談しました(以下敬称略)。

        text by : ライター 猪俣奈央子

はたらく人にフォーカスし、「幸せ/不幸せ」の因子を探る

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    (パーソル総合研究所 主任研究員の井上亮太郎さん)

木村:井上さん、本日はお時間をいただき、ありがとうございます。今回は、井上さんが前野教授と共同研究されている「はたらく人の幸福学」についてお話をうかがいます。そもそも、このプロジェクトはどのように始まったのですか。

井上:私がパーソル総合研究所に転職したのは2019年4月。もともと私が興味を持って研究していたテーマと、パーソルが掲げる「はたらいて、笑おう」という経営理念の親和性が高いと感じたことが入社のきっかけでした。

私自身、慶應義塾大学の前野先生のもとで学んでいたことがあり、前野先生が提唱する「幸せの4因子」を、はたらく人にフォーカスしてもう一段粒度を下げてみたらどうかと考えたんです。因子として指標を開発すれば、組織開発や人材育成に介入していくポイントがより明瞭になるのではないかと。

木村:井上さんは、パーソルに入社する前から「はたらく人の幸せ」というテーマに興味を持たれていたのですね。

井上:入社前から「はたらく人の幸せ」を研究したいと明確に意識していたわけではないんです。もともとは人の認知や感性、とりわけ「はたらく人の“わくわく感”」を定量的に扱うためのモデル化など、プロダクト開発に資する研究をしたいと考えていました。

前職では15年ほど組織開発の仕事に携わっていて、さまざまな企業の人事コンサルティングをしたり、企業の人事担当者と一緒に研修を行ったりしていました。

ただ、人事担当者が楽しそうに働いている会社って案外少ないと気づいたんです。「最近、仕事にわくわくしていますか?」と聞いても、「いや、キツイっすね」という返答ばかりで(笑)。企業の研修や人事施策を企画する当事者がつまらなそうに仕事をしていたら、職場の“わくわく感”も醸成できないのではないかと思っていました。

ただ研究を進めていくと「仕事に“わくわく”は求めていません」という人も一定数いることがわかったんです。仕事において“わくわく”が原動力になる人もいれば、そうじゃない人もいる。考えてみればあたり前かもしれませんが、“わくわく”は万能な尺度ではなく、一部なんだと気づきました(笑)。そこからテーマを広げて「はたらく人の幸せ」と定義し、多くの方に共通する因子を具体的に見ていこうと思考が切りかわったんです。

「はたらく人の幸せと不幸せは対向概念ではない」という着想

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   (パーソルイノベーション hanaseru事業部の木村健太郎さん)

木村:はたらく人の幸福学プロジェクトでは、はたらく人の「幸せの7因子」だけではなく、「不幸せの7因子」も定義されてますね。「幸せ」と「不幸せ」の両方を見ていくことが大事なのでしょうか。

井上:そうですね。研究を始める前、疑問に思っていたのが「幸せと不幸せは、本当に対向概念なのだろうか」ということでした。たとえば「幸せのスコアが低い人は不幸せだ」と決めつけていいのか。「ものすごく幸せで、ものすごく不幸」という状況が同時に起こることはないのかと。
そこで「幸せな職場の条件と不幸せな職場の条件は表裏ではなく、別々のものとして存在している可能性がある」という仮説のもと調査をしたんです。

木村:そして、その結果、仮説通りになったわけですね?

井上:そうなんです。調査結果から幸せと不幸せは対向概念ではないことがわかりました。「幸せでないことが不幸せなのではない。幸せの条件を満たし、かつ不幸せの条件を満たさない職場が幸せな職場」だと。これは、しあわせなはたらき方を探求していくうえで重要な気づきとなりました。

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井上:幸せって、ある意味、際限がないんです。「もっと、もっと」と追い求めていくだけで満たされることがない。足るを知るためにも「不幸せの要素がどれだけ少なくなったか」という視点を持つことが重要だと考えています。

加えて、不幸せの要素を減らしていくことはリスク管理にもなります。たとえば、どれだけハードワークをしていても「自己成長」や「他者貢献」「他者承認」の実感がある人は高い幸福感を得られます。

この場合、幸せ因子が高いのはいいことなのですが、どこかでバランスを崩してバーンアウトしてしまう危険性もはらんでいる。片方の指標だけではなく、幸せ因子と不幸せ因子の両方を見ることでバランスをとることができるわけです。

木村:少し話がそれるのですが、私が好きな仏教用語で「少欲知足(しょうよくちそく)」という言葉があります。わずかな欲望で十分満ち足りているという意味です。

いま「幸せの因子と不幸せの因子の両方を見ていく」というお話を聞いて、この言葉を思い出しました。幸せだからいい、不幸せだからダメというわけでもないのかもしれないと。

「どんなときに自分は幸せや不幸せを感じるのか」を知っておくことが大事で、それは「これ以上オーバーワークするとマズイぞ」というふうに、自分でコンディションを整えていくことにもつながる
気がします。

井上:まさにその通りで、幸せや不幸せの因子は、個人や組織の目安になるものだと考えています。「少欲知足」や「足るを知る」という概念は東洋的ですよね。日本の文化的影響を受ける人たちは、日々の活動で幸せを感じている時でさえ、同時に不幸せにつながる要因が内在していることを恐れたりもします。「幸せすぎてこわい」とか、「いつか罰が当たる…」とか。

はたらく人の幸福学プロジェクトが定義しているのも、ある意味、“日本的な幸せ/不幸せ”です。他人と比較するのではなく、自分や自組織のコンディションはどうかを確かめる観点として活用いただきたいと考えています。

組織と個人の想いのズレを、どう解消するか

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木村:「社員にいきいきと働いてほしい」と考える経営者は増えているように見えますが、実際に、はたらいている人はそう感じていない。「組織をつくっている人」と「働いている人」の想いにズレが生じているのではないかと感じる場面が往々にしてあるのですが、井上さんはどう見ていますか。

井上:そうですね。まず、はたらいている個人が、正しい自己認識ができていないケースがあると思います。

「あなたは、はたらくうえでどの因子を重視していますか?」と質問すると、幸せ因子では「リフレッシュ」、不幸せ因子では「オーバーワーク」「評価不満」と回答する人が多いんです。ただ、重視していると回答した因子が、幸せ実感/不幸せ実感との相関で見たときに最も高いかというと、そうではないのです。

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実際に、幸せ実感との相関が最も高いのは「自己成長」や「他者貢献」。不幸せ実感との相関が最も高いのは「疎外感」「協働不全」なんです。

自分のなかで重視している指標と潜在的な意識にズレが生じている。社員の声に耳を傾けるのは大切なのですが、ステレオタイプに思い込まずに、データに着目する必要があります

また、経団連がまとめている新入社員を対象にしたアンケート調査を見ると、企業が新入社員に求めるものは「主体性」で、新入社員が仕事に求めるものの上位には「やりがい」が入ります。この傾向は、ここ十数年変わりません。やりがいがある仕事は主体的になれるはずですから、お互いに求めているものは似ていることがわかります。

木村:求めているものが同じなのに、なぜ、かみ合わないのでしょうか。はたらく個人と企業側、双方に理由がありそうです。

井上:はたらく個人についていえば、やはり“受け身”はよくないですよね。多くの人は「仕事のやりがいがほしい」と言いながらも、どこか受け身なのかもしれません。「やりがいを感じさせて」というのはナンセンスで、仕事の“やりがい”や“わくわく”は自分でするもの。させてもらうのを待っているものではありません。これは幸せも同じで、幸せは与えてもらうのではなく、自分で感じとるものではないでしょうか。

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木村:私自身の考えでは、仕事は取りにいくものだと思っています。それは、「やらされ仕事ではやりがいを感じにくく、成長実感を得にくい」という自身の特性を知っているから。もしかしたら受け身になってしまう人は、自分の動機づけとなるスイッチを押してもらう経験自体、少ないのかもしれません

井上:それはあると思います。日本企業は規律を守り、協調性を大事にする企業が多いのでしょう。新しいことをやろうとしても、失敗し、はしごを外される可能性があると思えば、思い切った行動はとれませんよね。新しいことに挑戦したり、オリジナリティを追求しようとしたりする社員の背中を押せる文化が組織に浸透しているかどうか。

そのためには、トップの覚悟がいちばん重要です。トップが、リスクをとって、「もっとやれ」と言わなければならない。そして幹部社員がトップの意を汲んだ言動を示さなければ、組織は変わらないと思います。

人生100年時代を見据え、多様な個人とどう向き合うかが組織成長のカギに

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木村:hanaseruは、「アンケート・サーベイ」と「1 on 1(ワン・オン・ワン ※1対1で行う定期的なミーティング)」を組み合わせて組織のコミュニケーションやマネジメントを支援するサービスです。

時代が移り変わっていくなかで、はたらく個人も、ジョブ型雇用に耐えられるようなスキルをのばしたり、自分にとっての「はたらく幸せ/不幸せ」の指標を持ちながらコンディションを整えたりできる能力を身につけていく必要があります。

hanaseruは、一人ひとりが「何を強みにし、これからどうなっていきたいのか」「組織から何を求められ、どうアクションを起こしていけばいいか」を考えるサポートを行っていますし、個人と組織をつなぐ橋渡し役になれたらと考えています

井上:過去を振り返ると、日本ではキャリアオーナーシップを育むような教育機会が乏しく、「自分はどうありたいのか」という視点から仕事観を醸成できている人は少ないのではないでしょうか。

ただ、人生100年時代といわれ、職業人生において走りきる距離も、おのずと引き伸ばされています。仕事はもはや苦役ではなく、楽しみながら長く続けていくものだと捉え方も変わってきています。個人も、組織も、サスティナブルな状態に持っていかなければなりません。

はたらく個人や組織の状態を第三者のプロの視点からみて、モチベーションを維持し続けられるように支援するhanaseruのサービスは、これからますます求められていくと感じます。

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木村:はたらいているすべての人にhanaseruを使ってもらい、自己効力感を持って前向きに日々の仕事に取り組める社会をつくるのが私の夢です。それは「はたらいて、笑おう」というパーソルの理念を体現することでもあります。

井上:「はたらいて、笑おう」を体現する働き方のコツは、はたらく人の幸せと不幸せの14因子から導きだすことができます。ただ、人によって、はたらく幸せは違う。どうやって自分自身のはたらく幸せ/不幸せに気づくか、どうやったら動機づけのスイッチが押せるかは、それぞれ異なるわけです。ゆえに、個人に目を向けることが大切なのですが、一人ひとりに寄り添うのは口で言うほど簡単ではありません。

それをプロの視点から伴走してくれるのがhanaseruのサービスなのだと思います。ときには「自己成長」を後押ししたり、「こういうことが得意なんですね」と承認・賛同したり、「自己抑圧」をときほぐしたり、見てもらえているという安心感で「疎外感」を減らしたり。はたらく人の幸福学の観点からみても、得られる効果は大きいと感じます。

木村:はたらく人の幸福学の知見も活用しながら、これからさらにサービスを進化させていきたいと思います。

本日は貴重なお話、ありがとうございました!

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hanaseruのサービスにご興味のある企業様は
ぜひお気軽にお問い合わせください。
https://www.hanaseru.jp/
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【プロフィール】
▼井上 亮太郎さん
株式会社パーソル総合研究所 主任研究員
大学卒業後、大手総合建材メーカー(現・LIXIL株式会社)にて営業、マーケティング、PMI(組織融合)を経験。その後、学校法人産業能率大学に移り組織・人材開発の教育コンサルティング事業に従事。 2019年より現職にて、人や組織、社会が直面する複雑な諸問題を創造的に解決するための調査・研究に従事。慶應義塾大学大学院 特任講師(SDM,PMP),社団法人ウェルビーイングデザイン:はたらく幸せ研究会 副代表

▼木村健太郎さん
パーソルイノベーション株式会社 
hanaseru事業部 セールス・マーケティング担当
大学卒業後、人材派遣会社にて営業、営業企画業務を担当。人材紹介会社の営業、営業マネージャーを経て、2021年4月パーソルイノベーション株式会社に入社。新規事業『hanaseru』のマーケティングフローの構築、セールス活動を担当する。
text by : 猪俣奈央子




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