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#小説
Baby,it's time-スプモーニ-【小説】
握った手に温度があったことに驚いて
一度差し出した手を引いてしまった。
「何。気持ち悪い?」
感触やら温度やらを間違いだと思いたくて、
タツロウの声にも答えず、そのまま無視して部屋に戻ろうとしたら、後ろから
「あのさぁ」
とタツロウが少し大きめの声を出した。
答えるのが怖くて、ベランダの窓を閉めようとすると、開いている側の窓ではなく、閉まっている側の窓のガラスをすり抜けて、タツロウが入って来た
Baby, it's time-タツロウ-【小説】
いま
ソファで隣に座る彼は
透ける身体をよそに、
何度も、
好きだ、と私に云うのだった。
聴こえない振りが出来たのは1週間で、
「あんまり無視してると、ユウリちゃんがお風呂に入って頭を洗っているときに後ろに立つからね」
というなんだか空恐ろしい台詞が決め手の口説き文句となった。
最低である。
幽霊とのお付き合いだ。
霊感などまるでないはずの自分が、だ。
始めはもちろん、
「嗚呼、とうとう
Baby, it's time ープロローグー【小説】
何も云いたくないから
ただ上の空だ。
それを知らない彼は
心配そうに握った手に力を込めたり、
『どうしたの?』
ときいたりする。
年下って感じだなぁと思う私は
大概おばさんだな、と思う。
ちゃん付けで呼ばれる自分の名前を
不思議だと思ったり、
小学生のとき、一学年下に何故かモテて
何気なく告白されてしまっていた帰り道を思い出したり、
そういうことがぱったりなくなった昨今の渇き具合の自分に苦
ナオヤクラシマに、会ったのだ。
「この掌の木片にどんな夢を見るか。
いいんだ、別に。
わからないのだろ?」
仰向けのままで薄ら笑いながら、
ぼそぼそと呟いている彼は
明らかに酔っ払っていた。
倉島直哉だ、とすぐにわかった。
この大学のシンボルである樹齢云十年の桜舞い散る中庭に、
陽の光の下で銀色に鈍く光る
でっかい鳥籠のインスタレーションを創った、
誰もが羨む才能を背負った、
あの、
ナオヤクラシマだ
【とある深夜のシンヤたち】-とある深夜の榛原信哉(ハイバラシンヤ)-
傘の下、
昔読んだ国語の読解テストの文章を
ぼんやりと思い出す榛原信哉である。
小さな女の子が森に迷い込んでしまって、
その森の奥には三人のおばあさんの魔女がいて、
透明なビニール袋にいっぱいの、薄いピンクの桜貝を詰めて売っていて、
そのサクサクなる音や色や見た目があまりに愛らしいので、
女の子が手元に持っているお小遣をはたいてそれを買って、
その後すぐにうちに帰る道を見つけて、
【とある深夜のシンヤたち】-とある深夜の向坂晋也(サキサカシンヤ)-
地下鉄の終電の車内で、
マスクをしているオッサンの数を
心中にてカウントするは、
向坂晋也(サキサカシンヤ)、25歳である。
ヴィレッジヴァンガードで手に入れた
黒く大きなヘッドフォンには、
両方の耳あてのど真ん中に白い星があり、
買った頃には「割とかっこよくね?」と思っていたものだが、
今となっては年の割にバカっぽく見える感じだ。
5年ものである。
しかも、い
ごたまぜのオレンジ 【小説】
煙草の煙をゆっくり吐き出してから、その人は云った。
「また新しい人が来たよ」
その人は小学生塾の理科の先生だった。
白衣がなぜかいつも薄汚れていて、
黒ぶちのめがねをかけていて、
ひげも生えていて、
髪もぼさぼさで、
完全におじさんだったけど、
笑うと、
その辺のいる男子と変わりがなく見えたので、
みんな、その人のことを
『リクちゃん』と呼んでいた。
「ささげはるかだよ、リクちゃん。知らない