マガジンのカバー画像

『義』のまとめ

46
長編小説 『義』 をまとめております。 ・男と『義』の定義。『義』とは、正義の『義』、大義の『義』だ。限界集落育った男は、東京の大学へ進学する。東京の地下施設にて、『義』の象徴…
運営しているクリエイター

#総合格闘技

『義』  -始まり-    長編小説

『義』  -始まり-    長編小説

始まり

 年代物の赤ワインが、透き通るほど磨かれたワイングラスに注がれていた。ワイングラスは高層ビルから溢れる光を受け、薄い縁が刃物のように輝く。二つのうち、片方のグラスの縁には、薄い桃色の口づけが付いていた。グラスの間に置かれたキャンドルは、親指くらいの炎を上げ、時の経過を穏やかに奏でつつ、テーブルを挟む若い男女を眺めていた。どこか、覚束ない炎だ。空調が効き過ぎているわけではなく、紺色の蝶ネク

もっとみる
『義』  -吉田の戦い- 長編小説

『義』  -吉田の戦い- 長編小説

吉田の戦い

 対峙していた吉田と宮本は、戦術を探り合うように距離を詰めてゆく。吉田は左手を前に突き出し、右手は腹部付近に置き、膝を軽く曲げた構えだ。吉田が摺り足で動いていると、ボクシング出身の宮本は俊敏な足取りで吉田の背に回ってゆく。背後を取られると、試合運びが困難になるだろう。

 大輔は、年末に家族と格闘技の番組を見るほどの知識で、格闘技に関して博学ではない。既知は、ゴングが鳴り、ゴングが鳴

もっとみる
『義』  -大金を手に- 長編小説

『義』  -大金を手に- 長編小説

-大金を手に-

「お疲れ様です」

 大輔は言った。吉田は表情を変えず、勝利に喜んでいる素振りもなかったが、肉体には汗が輝き、戦果を称え、美を更に修練させていた。

 吉田はパイプ椅子に座り、試合前と同じように腕を組んでいる。すると黒いスーツを着た男が吉田に近付き、白色の分厚い封筒を渡した。吉田は封筒を受け取り、中身を確認することなく、大輔に差し出した。これはなんだと思いつつ、大輔は封筒を受け取

もっとみる
『義』  -戦いを終えた吉田はどこに行くのか- 長編小説

『義』  -戦いを終えた吉田はどこに行くのか- 長編小説

戦いを終えた吉田はどこに行くのか

「吉田さん、もうお出掛けかい?」

 警備員が問い掛けるも、吉田は答えない。

「今日も晴天だから、墓参り日和だよ。あ、君は、斎藤大輔くんだね。お帰り。はい、これが預かった荷物」

 警備員は、大輔の荷物をテーブル上に乱暴に置いた。

「君。ここで見たことは絶対他言したらいけないよ。絶対にね。命を粗末にしちゃいけない。君は若いんだし。何歳かい? ほう、二十歳かい

もっとみる