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花子出版 hanaco shuppan
2021年10月9日 10:36
始まり 年代物の赤ワインが、透き通るほど磨かれたワイングラスに注がれていた。ワイングラスは高層ビルから溢れる光を受け、薄い縁が刃物のように輝く。二つのうち、片方のグラスの縁には、薄い桃色の口づけが付いていた。グラスの間に置かれたキャンドルは、親指くらいの炎を上げ、時の経過を穏やかに奏でつつ、テーブルを挟む若い男女を眺めていた。どこか、覚束ない炎だ。空調が効き過ぎているわけではなく、紺色の蝶ネク
2021年11月4日 07:00
幼馴染との時間の回想「大輔くん、大丈夫なの? バレないの?」 貴洋は囁くような声を出し、大輔のTシャツの裾を引っ張った。「大丈夫。貴洋くんは、本当にビビリだなあ。こんな時間に誰も来ないよ」 大輔は淡い月の明かりを頼りに、錆び付いたフェンスを登ってゆく。フェンスを乗り越えると、ジャンプしてプールサイドに着地した。振り向くと、貴洋が俯いている。「大丈夫だって。さあ、登ってこいよ」
2021年11月5日 07:22
ドライブ 潮騒が心地よい。身体を揺らす波も心地よい。旅愁にて蘇る、貴洋との記憶の数々も心地よい。「貴洋くん」 大輔は声を上げた。貴洋は、どこにいるのだろうか。 熱された砂浜へ上がった。健斗と咲子は並んで座り、楽しげにお喋りに耽っている。声が一面に広がっていた。大輔の姿に気がついた咲子が手を振る。「大輔くんも、こっちに来なっせ」 大輔はブルーシートに戻り、健斗の隣に座に座った
2021年11月6日 07:46
大輔と幼馴染の再会。秘密基地にて 大輔は、気が付くと暗闇にて体育座りをしていた。尻に畳の感触が感じられない。自宅ではなさそうだ。土の香り、夏草の香り、木の香りが漂っている。膝を抱えていた手を離し、地面を撫でると、木の板が触れた。目を凝らして辺りを見渡すも、酔いが醒めておらず、鬱蒼と茂る木々や笹薮に焦点を合わせるが出来ない。 突然、手の甲に何かが触れた。冷水のように冷たく、弾力がある。「