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おさんぽ

 細い路地にあるちいさな工場は、今日も仕事の合間、車の改造に余念がない。トンカン、トンカン、仕事の合間に趣味をしているのか、趣味の合間に仕事をしているのかわかったものじゃないけど、小ぶりのかっこいい旧い車がツートンに塗装され、まつげを閉じたり開いたりしたと思えば丸メガネのようなライトが着けられて、時々甲高いエンジン音をまち中に響かせながら闊歩しているのは、さんざ可愛がられているペットのお散歩をみるようで微笑ましい。

 はじめは修理で預かった車かなにかだろうと思っていたのだけど、もうかれこれ一年以上かけてあちこちやっている。だから、きっと店主の車なのだろうと思うようになった。
 ときどき座席シートが外して置かれていたりするのも見るから、内装もかなりいじっているようだ。この前見たらナンバープレートの位置が真ん中でなく端に設置し直されていた。どこまでアップデートするんだろう。
 わたしは車のことはよくわからないけれど、旧い車好きの友人のためにときどきこっそり写真を撮っていることを店主は知らない(ごめんね)。
 可愛がられているものは総じて、可愛い。

 さて、その細い路地を抜けて五叉路を商店街の方にすすんでいくと、角にかわいらしい花屋さんがある。外からもよく見えるガラス張りのショーウィンドウ風ディスプレイ、そしてその手前にも、所狭しと季節の花が並べられ、見るたび置かれる植物の種類が変わっては、ああもうこんな時期かあ、なんて感じさせてくれる。花屋さんは季節の縮図だ。

 その店先に、いつも機嫌よく座っている犬がいる。看板犬、というやつだ。
 少し眩しそうにした目が笑ってみえて、思わずこちらの顔もほころぶ。
 犬種はあまり詳しくないのだけど、コーギーだと思う。顔は知っているけど、こんなに大きいんだなコーギーって。
 ふかふかした毛並みが、触るととても気持ちよさそうだ。もちろん、むやみに触ったりはしないけれど。

 ときどき、花屋のおねえさんがコーギーを連れて散歩しているのに出くわすことがある。これを見かけたらその日はラッキーといってよい。
 コーギーというやつは、とにかく、おしりがかわいい。短い足でトコトコ、おしりをふってバランスを取って歩く。だから、すれ違いでなく自分の前方を歩いているのを見かけたときは、歩きながらこっそりと、揺れるおしりを眺めていられるというわけだ。なんだか、文字だけ見ると、とても変態的だ。フワフワ、トコトコ。

 コーギーの散歩コースにはあの、ちいさな工場の前の細い路地も入っている。

 ああそうか、あいつも看板犬なんだな。
 とびきりおめかしした、ツートンカラーの車体。

 わたしの住む街はどちらかというと下町で、ちょっとごみごみして、昔からの戸建てがおおくて、高架を走る電車から眺めると屋根がひしめきあって見える、そういう街だ。
 実は可愛がられているものにあふれている、そういう街なのだ。
 この街に住んで一年ちょっと。わたしはこの街を、けっこう気に入っている。

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