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在野のライターです。 まずは書きたいものをランダムにテーマをつけて書いていく予定です。…

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在野のライターです。 まずは書きたいものをランダムにテーマをつけて書いていく予定です。 よろしくお願いします!

最近の記事

この家の者は誰も働いていない  4 #創作大賞2024 #エッセイ部門

プールへ行こう!≪弟の話≫  我が家の弟はてんかん持ちである。別に何か悪いことしたわけでもないのに、こんな病気になってしまったことを、姉としてはただただひとえに気の毒だと思う。  他の姉弟と違う育てられ方をしたわけではない。だからこそ彼を見るたび、私は“幸い”健康でいられたに過ぎないことをひしひしと感じる。  様々な薬を試しても彼の発作は収まらず、とうとう発作を抑えるため、脳の一部を除去する手術まで受けた。  当初、これを聞いた私はもちろん驚いた。  脳を切り取るなんて言

    • この家の者は誰も働いていない  3 #創作大賞2024 #エッセイ部門

      嵐の模様替え ≪母の話≫  定年後も墓参りぐらいしか趣味(?)を持てていない父とは逆に、母には趣味が多い。それは園芸だったり、そこから派生して、服から食器から家具まで花模様で埋め尽くすことだったり、陶器集めだったり、刺繍だったりする。  母は専業主婦。自己肯定感と自己主張がめちゃくちゃ強く「性格、わがままだなぁ」と娘の私が思うことも度々の人だ。けれど人の性格は何でも裏表。母はその反面、私が本当に困っている時は、私の気持ちに寄り添って、優しい言葉をかけてくれる。そんな情の厚さ

      • この家の者は誰も働いていない 2   #創作大賞2024 #エッセイ部門

        墓参りは大さわぎ ≪父の話≫  年末年始、春と秋の彼岸、お盆、法事…。これらの墓がらみのイベントで一番、張り切るのは父である。長男であるがゆえに、常に我が家が、親戚一同が会する法事などで、主導権を取って来たことも大きいだろう。ただそこを差し引いても、父の仏事に対する、愛にも近い情熱は並々ならぬものがある。  仕事を定年退職してからというもの、新しい趣味を見つけようと、やれ卓球だ、DIYだ、などと手を付けだすものの、まるで身についてこなかった父。  さすがにひと頃より勢いは

        • この家の者は誰も働いていない  1 #創作大賞2024 #エッセイ部門

          そして、誰も働かなくなった ≪私の話≫  2024年4月下旬。  順当に行けば、私はここで契約社員として次の仕事の契約を更新する予定だった。  が、この時、現実には私は父と対面し、人生の決断を迫られていた。  実は嫌だ。本当は嫌だ。命綱の収入が保証される、今の仕事を手放すのは、ものすごく嫌だった。  でも。  「私が仕事辞めて、家にいた方が助かるんだね?」結局、私は父に向けてこう問いかけた。  頷く父。  父はこういう時、決して「お願いだから仕事を辞めて家に入ってくれ

        この家の者は誰も働いていない  4 #創作大賞2024 #エッセイ部門

        • この家の者は誰も働いていない  3 #創作大賞2024 #エッセイ部門

        • この家の者は誰も働いていない 2   #創作大賞2024 #エッセイ部門

        • この家の者は誰も働いていない  1 #創作大賞2024 #エッセイ部門

          タカラノツノ 第11話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《さいごの日》  タカがその場できり殺されなかったのは、ひとえにコマ姫がいっしょにいたためだった。この人は自分を助けてくれたのだ、と姫がひっしに声をしぼったからだった。  しかし、コマ姫の声が聞き入れられたのはそこまでだった。いくらコマ姫がそうではない、と言ったところで、助けるふりをして、じつは姫をさらおうとしたにちがいない、とうたがう者は決して少なくなかったからだ。いくさばかりをつづけ、だましあう殿さまたちの世界では、それはめずらしくもない考え方だった。  コマ姫はそのま

          タカラノツノ 第11話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第10話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《ふたたび城へ》  次の日の朝、女にあつくおれいを言って、タカは里を出た。「行くあてはあるのかい?」とたずねた女に、タカは「あっちだ。」と、城のある方を指さした。すると女は城下町まで行くという商人を道づれにつけてくれた。「この国ははじめてだろう?とちゅうまででもいっしょに行くといいさ。」というのがその言い分だった。タカはかさねて礼を言って、たびじについた。  しかしタカは、と石をかりて捨丸の山刀をとがせてもらうと、みじかく礼を言って、すぐに商人とはわかれた。城に向かうことを知

          タカラノツノ 第10話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第9話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《黒森山の土まんじゅう》  夜が明けるのをまって、一番にタカがしたことは、国じゅうに馬を走らせる、町の伝馬屋(てんまや)に行くことだった。タカが持ち出したねまきをみじかくさいてよごし、町でそれきていても目立たないようにした。それからえりに使われていた赤い布をほそ長くさいて、はしに三つ、むすび目を作った。そうしてからそれを、黒森山の方に行く早馬(はやうま)にたくし、荷物のついでに捨丸という猟師にわたしてくれ、とことづけた。  むすび目の三つついた赤い布は、きけんがせまっているし

          タカラノツノ 第9話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第8話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《くまざむらい》  気がつくと、タカは大きな部屋にねかされていた。頭のてっぺんがずくずくと熱を持っていたみ、あのできことが夢などではない、と教えてくれた。けれどもそれいじょうは何も考えられなかった。タカは高い熱にうなされぐらぐらする頭のいたみをかかえて、ふたたびふかいねむりに引きずりこまれた。  次に目がさめると、おどろいたことに、そこにいたのはくまざむらいだった。タカのきおくでは、殿さまといっしょにいくさ場に出陣したはずの男だった。こわばりついたくちびるをようやっとひらいて

          タカラノツノ 第8話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第7話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《その日が来た》  どんなに強いけものでも、年をとればおとろえ、若い者にたおされたり、ほかのけものに食われたりする。どんなに美しい花でもいつかはしわしわとかれていく。いくさで力をけずりながらゆたかになったタカの国にも、同じように“ほろび”が足音をしのばせてやって来ていた。  その負けいくさは、もともと殿さまがコマ姫の生まれた南の国に、むほんのうたがいあり、としかけたものだった。  しかし、むほんなどおこすつもりもなく、コマ姫まで人質(ひとじち)どうぜんで嫁に出し、自分の国の

          タカラノツノ 第7話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第6話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《城ぐらし》  その次の日、殿さまのおかかえの石工(いしく)と医者と学者がよびよせられ、タカの角をしらべた。家来たちと同じに殿さまもまた、ばかではなかった。たんに昔話だけをうのみにするのではなく、タカが鬼ではなく、角の生えた人間かもしれない、という考え方をすることも忘れてはいなかったのだ。  玻璃(はり)のようにとうめいなタカの角を見、金づちでかるくたたいたりしたあげく、石工は「この角は水晶と同じものでしょう。」という答えを出した。医者は、「角が生えていることよりほかにべつだ

          タカラノツノ 第6話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第5話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《殿さま》  くまざむらいは、タカが思うよりこまやかな男だった。見なれた里の近くまで来るとがさり、と持っていたミノをタカにかけてくれたので、里の人びとにタカの角は見られずにすんだ。これについてだけは、くまざむらいにかんしゃした。山道を下り終えるとおさむらいたちは馬にむちを入れて、いっこくをあらそうように見なれた里をかけぬけていった。  城に着くと、さっそくタカは土蔵(どぞう)のようなところにしばられたまま押しこめられた。だが、土蔵とはいってもさすがは殿さまの持ち物だ。タカた

          タカラノツノ 第5話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第4話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《城へ》  いくさはまだ終わってはいなかったが、捨丸はたたかいで左腕を失ってしまい、家に返されたのだった。もう猟はできそうにない、と捨丸は悲しげにつぶやいた。そしていくさのむごたらしさを目にしてしまったおかげで、すっかりその心はふさいでいた。もともと口数は多くなかったが、いくさから帰ってからはいっそう無口(むくち)になり、笑い顔もなかなか見せなくなった。それでも、母さんとタカはうれしかった。  「おれ、捨丸とかあちゃんといっしょにいられるくらい、もっとうでのある猟師になるよ。

          タカラノツノ 第4話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第3話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《山ぐらし》  猟師だったこともあったが、捨て子だったせいか、捨丸は里の人々といつもいっしょにいるということはなく、一日のほとんどを山ですごした。かあちゃんとタカとで住むようになってからの捨丸は、里に下りる回数をへらして、しっかり用心するようになった。そのおかげで、タカの角のことは三人のひみつにしていることができた。  里の人々は、捨丸が人ぎらいなことをよくわかっていて、捨丸のもとにやって来た母子づれのことを、ねほりはほり聞きださなかった。けれどかあちゃんはどんなふうに自分た

          タカラノツノ 第3話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第2話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《はぐれ猟師・捨丸》  二人はあたたかい風を追いかけるように、南へ、南へと進んでいった。「南の人たちの方が、おおらかでやさしい人が多いって、昔、とうちゃんが言ってたからね。」かあちゃんはそう言った。  でもその話が本当とは言いがたかった。若い母親と幼い子どもだけでさすらうのを見て、あわれに思ってくれる人たちもいた。そんな人たちがいる、いごごちがよさそうな村や里はいくつかあったが、手ぬぐいをまいたタカの頭のことは、いずれ人々のうわさとなり、さいごにタカの角のことがわかると、たい

          タカラノツノ 第2話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第1話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          あらすじ 北国の山村で農民の子として生まれた少年・タカには、生まれながらに頭に角があった。両親はこれをひた隠しに子どもを育てたが、父親が病死。同時に角のことも発覚し、村の不幸を「鬼」の仕業とする村人たちによって母親とともに村を追われ、流浪の旅に出る。 南へ下った二人は旅路の果てに捨丸という猟師と出会い、共に暮らすようになる。それまでと同様に、タカの角のことを隠しながらも山奥でそれなりの幸せを得て暮らす三人だったが、国の殿様が戦による侵略により、貧しい自国を繁栄させようと目論む

          タカラノツノ 第1話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          忘れがたき私的名作漫画 『パーム シリーズ』

          「愛は何度でも生き返るんだよ。だからお前が大切な人を失くしても 世の中を呪ったり、神様にあくたいついたりしちゃいけないよ。何があってもそりゃあまた戻ってくるもんだよ。」   今回、紹介する作品は伸たまき(現:獣木野生)さんの『パーム』シリーズ。  この作品はオタク女子が主な愛読者の新書館『Wings』に連載されていたもののため当時、全く注目されていなかった。もっともかなりオタクが市民権を得ている今では、その評価がどうなっているかはよくわからない。おまけにこの話、肝心の私も

          忘れがたき私的名作漫画 『パーム シリーズ』