Hal

在野のライターです。 まずは書きたいものをランダムにテーマをつけて書いていく予定です。 よろしくお願いします!

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最近の記事

忘れがたき私的名作漫画『王都妖奇譚』

「まばゆい光は濃い影をつくる。その影を引き受ける覚悟はおありか?」  今回紹介するのは岩崎陽子氏の『王都妖奇譚』。主人公は今や押しも押されもせぬ平安のスーパースター・安倍晴明と、その親友で妖など信じない、と息巻く藤原将之。この2人が都に跋扈する、大小の妖怪がらみの事件を解決してゆくという、王道の冒険バディーものだ。  当時、夢枕獏氏の小説『陰陽師』シリーズがブレイクしていた頃なので、設定も似ているこの物語は、この作品にインスパイアされたもの、という見方を実は私自身、してい

    • この家の者は誰も働いていない  6

      吝嗇家って言葉をこれで覚えた 《父の話》  父は調和の男である。子供の頃、かなり手厳しい躾をする父親(私にとっては祖父)とはムチャクチャ相性の悪かった父は、人と争うこと、人に無理強いすることを極端に嫌がる男に育った。要は祖父は教育のため、という理由でやたらに父への当たりが厳しく、自分の考えを押し付けるタイプだった、ということらしい。  そんな父なので以前にも書いた通り、決して自分から意見を言うことがない。  ただしこれは家の中限定。会社生活では自分から意見したり、など主張

      • この家の者は誰も働いていない 5

        その後の小松菜(私の話)  さて、このシリーズの中でも私を語ったパートでの前回、収入のなくなった身として、文末に小松菜を植えたことを書き残した。  今回はこの先の話について書こう。  結論から言えば、まぁまぁ数は蒔いたものの、収穫はたった2株だった。(多分、実際のプランターのスペースや間引くべき数を考えても、うまくすれば13株くらいは収穫できるはずだった)  ただ、この数字には絶望はしていない。そもそも私、農業に関してはズブの素人だ。きちんと経験と知識を積み重ねて来た農家

        • 忘れがたき私的名作漫画 『玄奘西域記』

          「一人びとりが考えるのを怠った時、人は時代にのみこまれる…。小さな手抜きが大きな災いの波へと広がってゆくのをわしは90数年、この目で見てきた。」  久しぶりになります。  創作大賞に応募したり、他で書いたりしていて、このテーマから遠ざかっていました。  今回、紹介したい漫画は諏訪緑さんの『玄奘西域記』。  世界中に愛される中国古典文学『西遊記』に題材を取った、数あるアレンジ漫画の中の一作品です。  『西遊記』。  日本の、特に漫画界でこれほどバリエーションの広い物語もある

          この家の者は誰も働いていない  4 #創作大賞2024 #エッセイ部門

          プールへ行こう!≪弟の話≫  我が家の弟はてんかん持ちである。別に何か悪いことしたわけでもないのに、こんな病気になってしまったことを、姉としてはただただひとえに気の毒だと思う。  他の姉弟と違う育てられ方をしたわけではない。だからこそ彼を見るたび、私は“幸い”健康でいられたに過ぎないことをひしひしと感じる。  様々な薬を試しても彼の発作は収まらず、とうとう発作を抑えるため、脳の一部を除去する手術まで受けた。  当初、これを聞いた私はもちろん驚いた。  脳を切り取るなんて言

          この家の者は誰も働いていない  4 #創作大賞2024 #エッセイ部門

          この家の者は誰も働いていない  3 #創作大賞2024 #エッセイ部門

          嵐の模様替え ≪母の話≫  定年後も墓参りぐらいしか趣味(?)を持てていない父とは逆に、母には趣味が多い。それは園芸だったり、そこから派生して、服から食器から家具まで花模様で埋め尽くすことだったり、陶器集めだったり、刺繍だったりする。  母は専業主婦。自己肯定感と自己主張がめちゃくちゃ強く「性格、わがままだなぁ」と娘の私が思うことも度々の人だ。けれど人の性格は何でも裏表。母はその反面、私が本当に困っている時は、私の気持ちに寄り添って、優しい言葉をかけてくれる。そんな情の厚さ

          この家の者は誰も働いていない  3 #創作大賞2024 #エッセイ部門

          この家の者は誰も働いていない 2   #創作大賞2024 #エッセイ部門

          墓参りは大さわぎ ≪父の話≫  年末年始、春と秋の彼岸、お盆、法事…。これらの墓がらみのイベントで一番、張り切るのは父である。長男であるがゆえに、常に我が家が、親戚一同が会する法事などで、主導権を取って来たことも大きいだろう。ただそこを差し引いても、父の仏事に対する、愛にも近い情熱は並々ならぬものがある。  仕事を定年退職してからというもの、新しい趣味を見つけようと、やれ卓球だ、DIYだ、などと手を付けだすものの、まるで身についてこなかった父。  さすがにひと頃より勢いは

          この家の者は誰も働いていない 2   #創作大賞2024 #エッセイ部門

          この家の者は誰も働いていない  1 #創作大賞2024 #エッセイ部門

          そして、誰も働かなくなった ≪私の話≫  2024年4月下旬。  順当に行けば、私はここで契約社員として次の仕事の契約を更新する予定だった。  が、この時、現実には私は父と対面し、人生の決断を迫られていた。  実は嫌だ。本当は嫌だ。命綱の収入が保証される、今の仕事を手放すのは、ものすごく嫌だった。  でも。  「私が仕事辞めて、家にいた方が助かるんだね?」結局、私は父に向けてこう問いかけた。  頷く父。  父はこういう時、決して「お願いだから仕事を辞めて家に入ってくれ

          この家の者は誰も働いていない  1 #創作大賞2024 #エッセイ部門

          タカラノツノ 第11話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《さいごの日》  タカがその場できり殺されなかったのは、ひとえにコマ姫がいっしょにいたためだった。この人は自分を助けてくれたのだ、と姫がひっしに声をしぼったからだった。  しかし、コマ姫の声が聞き入れられたのはそこまでだった。いくらコマ姫がそうではない、と言ったところで、助けるふりをして、じつは姫をさらおうとしたにちがいない、とうたがう者は決して少なくなかったからだ。いくさばかりをつづけ、だましあう殿さまたちの世界では、それはめずらしくもない考え方だった。  コマ姫はそのま

          タカラノツノ 第11話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第10話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《ふたたび城へ》  次の日の朝、女にあつくおれいを言って、タカは里を出た。「行くあてはあるのかい?」とたずねた女に、タカは「あっちだ。」と、城のある方を指さした。すると女は城下町まで行くという商人を道づれにつけてくれた。「この国ははじめてだろう?とちゅうまででもいっしょに行くといいさ。」というのがその言い分だった。タカはかさねて礼を言って、たびじについた。  しかしタカは、と石をかりて捨丸の山刀をとがせてもらうと、みじかく礼を言って、すぐに商人とはわかれた。城に向かうことを知

          タカラノツノ 第10話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第9話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《黒森山の土まんじゅう》  夜が明けるのをまって、一番にタカがしたことは、国じゅうに馬を走らせる、町の伝馬屋(てんまや)に行くことだった。タカが持ち出したねまきをみじかくさいてよごし、町でそれきていても目立たないようにした。それからえりに使われていた赤い布をほそ長くさいて、はしに三つ、むすび目を作った。そうしてからそれを、黒森山の方に行く早馬(はやうま)にたくし、荷物のついでに捨丸という猟師にわたしてくれ、とことづけた。  むすび目の三つついた赤い布は、きけんがせまっているし

          タカラノツノ 第9話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第8話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《くまざむらい》  気がつくと、タカは大きな部屋にねかされていた。頭のてっぺんがずくずくと熱を持っていたみ、あのできことが夢などではない、と教えてくれた。けれどもそれいじょうは何も考えられなかった。タカは高い熱にうなされぐらぐらする頭のいたみをかかえて、ふたたびふかいねむりに引きずりこまれた。  次に目がさめると、おどろいたことに、そこにいたのはくまざむらいだった。タカのきおくでは、殿さまといっしょにいくさ場に出陣したはずの男だった。こわばりついたくちびるをようやっとひらいて

          タカラノツノ 第8話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第7話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《その日が来た》  どんなに強いけものでも、年をとればおとろえ、若い者にたおされたり、ほかのけものに食われたりする。どんなに美しい花でもいつかはしわしわとかれていく。いくさで力をけずりながらゆたかになったタカの国にも、同じように“ほろび”が足音をしのばせてやって来ていた。  その負けいくさは、もともと殿さまがコマ姫の生まれた南の国に、むほんのうたがいあり、としかけたものだった。  しかし、むほんなどおこすつもりもなく、コマ姫まで人質(ひとじち)どうぜんで嫁に出し、自分の国の

          タカラノツノ 第7話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第6話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《城ぐらし》  その次の日、殿さまのおかかえの石工(いしく)と医者と学者がよびよせられ、タカの角をしらべた。家来たちと同じに殿さまもまた、ばかではなかった。たんに昔話だけをうのみにするのではなく、タカが鬼ではなく、角の生えた人間かもしれない、という考え方をすることも忘れてはいなかったのだ。  玻璃(はり)のようにとうめいなタカの角を見、金づちでかるくたたいたりしたあげく、石工は「この角は水晶と同じものでしょう。」という答えを出した。医者は、「角が生えていることよりほかにべつだ

          タカラノツノ 第6話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第5話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《殿さま》  くまざむらいは、タカが思うよりこまやかな男だった。見なれた里の近くまで来るとがさり、と持っていたミノをタカにかけてくれたので、里の人びとにタカの角は見られずにすんだ。これについてだけは、くまざむらいにかんしゃした。山道を下り終えるとおさむらいたちは馬にむちを入れて、いっこくをあらそうように見なれた里をかけぬけていった。  城に着くと、さっそくタカは土蔵(どぞう)のようなところにしばられたまま押しこめられた。だが、土蔵とはいってもさすがは殿さまの持ち物だ。タカた

          タカラノツノ 第5話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          タカラノツノ 第4話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

          《城へ》  いくさはまだ終わってはいなかったが、捨丸はたたかいで左腕を失ってしまい、家に返されたのだった。もう猟はできそうにない、と捨丸は悲しげにつぶやいた。そしていくさのむごたらしさを目にしてしまったおかげで、すっかりその心はふさいでいた。もともと口数は多くなかったが、いくさから帰ってからはいっそう無口(むくち)になり、笑い顔もなかなか見せなくなった。それでも、母さんとタカはうれしかった。  「おれ、捨丸とかあちゃんといっしょにいられるくらい、もっとうでのある猟師になるよ。

          タカラノツノ 第4話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門