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僕の壮絶転職記⑤(3社目:外資系)

キャリアアップ

取引先からの誘いで、僕は外資系の通信キャリアに転職をした。
年収は一気に100万円くらい上がった。24歳の時だ。

理想的なキャリアアップだったと思う。

唯一不安があるとすれば「英語」の部分だったが、簡単な英会話くらいは出来るし何とかなるだろうと軽い気持ちでいた。
これがとんでもない誤算であったことを、僕は入社してすぐ知ることになるのだけれど。

少し考えれば分かることなのに、なぜこの一番大事と思われる部分に不安を感じていなかったのか、あの頃に自分に聞いてみたい。

そこは完全なる外資系企業だ。
従業員は日本人の方が多かったけれど、日本は出先機関になるので内部的なやり取りはほぼ本社やアジア地域のヘッドオフィスと行うことになる。

僕は日本やアジアの通信キャリアとの料金契約交渉が主な仕事だったのだが、もちろん膨大な契約条項が記載されている契約書も英語だし、本社とのやり取りも英語、日本以外の取引先とも全て英語でのやり取りだ。

「無理だ。」
率直にそう思った。入社2日目くらいで。

小さいころに英会話教室には通っていたが、それと中高の学校で習ったくらいの英語力(英検3級)で太刀打ちできるわけがない。

なぜ僕は、「イケる」と思っていたのだろうか。
やっぱりあの頃の自分にもう一度聞いてみたい。

英語

「メール」はまだ何とかなった。
当時はGoogle翻訳はなかったけれど、ネット上の辞書サービスも翻訳サービスはいくつかあったし、リアルタイムでのやり取りではないので時間をかけて相手からの要望を理解し、ある程度適切に戻すことができる。

問題は「電話」だ。
新しいに会社に入ったときに、電話を取るのが怖いというのは恐らく誰もが経験することだと思うが、そんな生半可なものではない。
ヒアリング能力が著しくとぼしい僕にとって、電話でのコミュニケーションはほぼ不可能だった。

でも担当者は僕だ。
遠い海の向こうから、「電話」は容赦なく僕を目がけてやってくる。

誰もこっちの事情などは気にしてくれない。
人によって多少ゆっくり喋ってくれたりしたが、元が早いからゆっくり話してくれたところでやっぱり早いし、到底聞き取ることができない。

「Please send me an email.」

決まって最後はこう言うしかなかった。

毎日、電話がかかってこないことを祈りながら出社していた気がする。

海外出張

仕事も待ってはくれない。
入社2か月くらいでシンガポールへの出張が決まった。

シンガポールはアジア地域のヘッドオフィスで、半期に1回くらいの割合でそこで各地域の報告会が実施されるのだが、僕は日本の担当者としてそこに参加しなくてはならず、恐怖と不安を抱えたまま単身シンガポールへと向かった。

日常英会話とビジネス英会話は全くの別物だ。
1人で旅行をするのと、1人でビジネスミーティングに参加するのでは世界が違う。

参加したビジネスミーティングで、僕が唯一発した言葉は、

「No problem.」

だけだった。マジで。

あの時みんなが何を議論していたのか、僕に何を確認していたのかは永遠の謎だ。

その後も何度か海外出張をしたけど、会議やミーティングで満足にコミュニケーションを取れたことは1度もなかった。

挫折とリストラ

ここでの「英語」に関する挫折は、その後も長く尾を引くもので、今に至る社会人生活の中でも最大級のものだったと思う。
毎日が苦痛で、追い詰められていた。
英語教室に通うという選択肢もあったけれど、現在地点と周りのレベル差が大きすぎたからちょっと勉強してどうなるものでもなかったし、精神的な余裕も全くなかった。
それでも、やるべきだったとは思うけれど。
(あれから15年くらい経って、ようやくいま英会話教室に通っていたりする。)

会社の同僚全員がネイティブクラス。
強烈な劣等感を抱えながら日々仕事をしていた。
それでも、毎日が実践訓練のようなものだったから、ここでの日々で多少は英語力が上がったとは思う。今思えばだが。

そうこうしながら、またもや2年が経過しようとするころだったと思うのだが、世界規模でのリストラが始まった。

前回の記事でも書いたが、既に「電話」というコミュニケーションは次なる進化が既に始まっていて、「音声」に関する既存のトラフィック総量は世界規模で縮小していた。
「音声」から「データ」へのシフトチェンジの時期で、市場全体でリストラや撤退が相次いだ時期だったと思う。

僕のいた会社でも世界規模での事業転換と組織変更が動き始め、シンガポールでかつて会った同僚も、何人かは既に会社を辞めていた。

そして、僕がそうなるのも時間の問題だった。

僕は、また転職活動を始めていた。

(続く)

教訓

よく考えよう。「言語」は大事だよ。
いっときの感情や年収につられて安易に転職先を決めると失敗するかもしれません。

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