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薄楽詩集

40
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2024年5月の記事一覧

【詩】春の道化師

【詩】春の道化師

 春の道化師

知らないことを知っているといい
知っていることを知らないという
春の嘘は
だから
あけぼののパン屋のようないい匂いがする

その匂いにつられて
自由を分からないひとりの人類は
幾千万以上ものものとなってかり出され 
英霊という廃棄物となる だから
美しい嘘が産道のような地下水道を通り
今日も広場で噴きあげている

そうやって真実という嘘が嘘という真実になると
もうピエロは耐えられな

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【詩】引き潮

【詩】引き潮

 

 引き潮

過去という現在が今日も
ぼくの日暮れ待ちの海岸に
たくさんの漂流物を打ち上げる

墜落した魔女の叔母さんの形見の箒とか
三角帽子のピエロの叔父さんが忘れていったブリキの太鼓とか
少数民族の裸を撮りまくった元脱走兵の報道記者愛用のニコンのレンズとか
テロリストになったシスターが羊小屋に棄てていった真鍮の貞操帯とか
何にもおわっちゃいないのにぼくをポストモダン化しようとした
真っ赤な

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【詩】五月のノスタルジー

【詩】五月のノスタルジー

五月のノスタルジー

  あやめかる安積の沼に風ふけば
       をちの旅人 袖薫るなり    源俊頼

風が万物を薫らせ
蒼い静脈の這う近所の少女の乳房が膨らみ
出戻りの姉の白い太腿はむき出しで縁側に投げ出され
売春宿のぼくの恋人のお腹の産毛が陽炎のようにゆれる
そんな五月の白昼に不如帰が鳴き出すと
工事現場では必ず神隠しが起こり
少女の腋臭のような沼の匂いが山から下りてきて
夕暮の雨は予想

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