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名古屋の中心で祖母味を感じる/連載エッセイ vol.93

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.95(2016年・第4号)」掲載(原文ママ)。

相変わらず日本列島を縦断しまくる日々を過ごしている。

臨床家としては、その限られた地元での日程に合わせてご来店頂く、お客様に感謝の念が絶えないのであるが、そんな皆様からよく頂戴する…『全国イロイロなトコロへ行けていいですね!!』…というお言葉…。

実はコレ、ワタクシの『国内出張実態』を示すには、少々適切な表現ではないのである。

…というのも、第一に私が出張で向かう場所は非常に限られている。
私の所属団体の技術セミナーや会議に参加する為に頻繁に訪れる街といえば、本部のある岡山県倉敷市や、同じく西日本では兵庫県赤穂市、東日本では神奈川県横浜市の3つくらいしかない。

第二に、例えそれらの街に滞在しても、日中はセミナーやら会議やらに追われ、夜はその準備に勤しまなければならず、結果、その来訪回数に反して、観光的な街歩きはほとんどしてきていない。まさに『残念』の一言である。

そういう意味で言えば、多少自由時間の捻出できる海外出張で毎年訪れる都市…例えば、アメリカ・ラスベガスや韓国・ソウルの方がよっぽど街歩きには自信がある。

ちなみに飛行機への搭乗に関しても、利用頻度の高い国際線より、めったに使わない国内線の時の方が、妙に緊張してしまう。
その持ち込み荷物の手軽さや、搭乗手続きの簡素さが逆に不安になってしまうのだ…。
我ながら、拗らせているコトこの上なしである…。

さて、そんな私が今回訪問する事になったのが…中京は名古屋。

カイロプラクティック業界の様々な団体の代表が集まって、日本における法制化を含めた『制度化』へ向けて、意見を出し合い調整する会に参加する為である。

名古屋といえば…今から10年以上前、そこで地元の仲間達が開催している『お客様向け1泊2日セミナー』が、非常に評判が宜しいという事で、それに参加見学させて貰う目的で訪れたのが最初。

ただこの時も、初日の朝に高速深夜バスで現地に到着し、2日目のセミナー終了後には高速深夜バスで現地を出発するという強行日程であった。

あとは、倉敷からの帰り、乗車予定の寝台特急が悪天候で運休した際に、『とりあえず、東へ戻れるトコロまで戻ろう』となんとか辿り着き、ネットカフェで一夜を過ごした経験が2~3度ある程度…。

つまり、街としての記憶は皆無に等しいのである。

そんな場所へ、しかも会議の開始時間の都合上、前日入りをしなければならないとくれば、いつものワタクシであればガイドブックの1つでも購入し、しっかりと街の魅力を堪能するトコロであるが…。

実は、この名古屋出張の前に、3日間みっちり横浜にてセミナー講師業やら、会議やらをこなしてからの移動であった為に、その前日入りの段階で若干披露困憊…。

今回は残念ながら、ホテルで翌日の会議の準備をしつつ、ゆっくりと心身を休める事にした…不本意ではあるが。

横浜のホテルを、チェックアウト時間ぎりぎりに出発し、JR新横浜駅へ向かう。

いつもであれば『東海道新幹線・のぞみ』を使って、ピュ-っと西へ向かってしまうのだが、今回は如何せん、名古屋でのホテルへのチェックインを考慮すると、無駄に時間がある。
ここは何事も経験と、あえて各駅停車の『こだま』へ乗車。

そして分かった事…横浜から名古屋って、意外に距離があるんだなぁ~!!

普段であれば、東京から新幹線に乗車して、落ち着いた頃、右手に富士山が見えてきて、その辺りで1回意識を失って、名古屋あたりで目が覚めてPCを立ち上げて仕事に取り掛かる…というのが私の行動パターンなのであるが、各駅停車に乗ると、その所要時間は、なんと約2時間半!! 

時刻表を確認しないまま乗り込んだワタクシ…プチ逆浦島太郎状態であった。

ただその分、良い事もあった訳で、1つは普段気にする事もなかった東海道新幹線の沿線の街の外観を観察できた事。

そこは間違いなく、『通過地点』ではなく、沢山の人々が暮らす『生活拠点』であった。

もう1つは、気持ちに少し余裕が出来たので…所謂、独特な食文化から形成される『名古屋めし』について調べる時間が持てた事。

ただ、一通りスマホで検索して情報を収集しても、結局ナニを選択すればよいのかは決め手が見つからず、ここは地元に精通する仕事仲間に聞くのが早いと尋ねたトコロ、戻ってきた返答は…『某老舗の味噌煮込みうどん』。

名古屋めしという言葉が浸透する以前から、当地の名物として全国に名を馳せてきた逸品…。
調べると、宿泊予定のホテルからも近い様子。
よし…決めた!!

JR名古屋駅に到着し、巨大な駅ビルを抜ける。
『車優先社会』を象徴する大きな道路を、敢えて地下道ではなく、横断歩道で渡って路地へ抜け、ホテルへチェックイン。
荷物を置いて、そのままベッドへ突っ伏したくなる欲望を必死で抑えつつ、お目当てのお店へ直行。

到着すると、ランチタイム後の中途半端な時間にも拘らず、お客はボチボチ。
案内された席へ座って、一応メニューに目を通すも、やはりオーダーするは看板メニューたる『名物・味噌煮込みうどん』!! 

そして…待つ事、約10分、グラグラに煮立った土鍋が眼前へ到着!! 
鼻腔をくすぐる旨み溢れる味噌の香り!! 
蓋を持ち上げると、立ち込める蒸気の向こうに霞む、深い琥珀色の味噌スープ!! 
そしてその中に佇む、強ゴシうどんの美麗なシルエット!! 

いざ……実食!!!!………んん??……あれ!?

それは不思議な感覚であった。
初めて食したご当地名物にも拘らず、何故か新鮮味がない。

おかしい…。味噌煮込みうどん自体、初体験のはずだが…なんであろう…この懐かしい味わいは…?? 
カツオ出汁の効いたスープと濃い目の味噌風味…そしてそこに浸る炭水化物をかき込む感覚…。

そうだ…これは幼少時に父方の祖母が作ってくれた『卵味噌ぞうすい』の味だ!!

『卵味噌』とは、青森県津軽地方および下北地方に伝わる、鰹節やネギを味噌で煮込んで卵でとじた郷土料理で、白米やお酒のお供にチビチビやったり、ご飯の上に乗っけて、お湯で溶いて雑炊の様にして食する。

祖母は北海道・函館の出であったが、津軽食文化圏という事で、この卵味噌に慣れ親しんでいたのであろう、当然ながら、私にとっても『実家の味』として、幼少時より舌に刷り込まれる事となった。

故郷から遠く離れた縁もない街で、郷愁を誘う味覚と数十年振りに出会う…日本人の味覚嗜好DNAを感じられる、

なかなか面白い体験ができたなぁ…と思いつつ、折角だから東北人の度肝が抜かれるような名古屋めしとも遭遇したかったなぁ…と思いつつ、スープを飲み干すワタクシなのであった…。


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