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あの日の応援歌を君に/連載エッセイ vol.125

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.127(2021年・第6号)」掲載(原文ママ)。

脈絡のない告白で大変恐縮ではあるが、ワタクシ、所謂『高校野球』というものに対して、あまり興味を覚えない傾向にある。

いや、決して『アンチ』という訳ではなく、幼少時の娯楽は兄とのキャッチボールであり、近所の友達との野球ゴッコであり、なんなら1984年のセンバツにおける大船渡高校の躍進に心を躍らせたりもした。

それが何故に『無関心』寄りの心境になってしまったのかというと……想像するに、おそらく自分の高校時代の体験によるものであろう。

前年に16年ぶりとなる夏の甲子園出場を果たした高校へ入学した私は、在校3年の間には、甲子園とまではいかなくとも、県営球場での応援ぐらいは当然経験できると考えていたし、それがあるからこそ入学直後の『トラウマ必至な応援歌練習』も耐え忍んだ。

(昔は高校生活開始の通過儀礼として、今のご時世では絶対に許されないレベルの非常に厳しい応援歌練習を課している学校が多かったのだ。)

しかし……しかしである。

『1年生の夏→1回戦負け(一般生徒による野球応援なし)』、『2年生の夏→1回戦負け(同じく応援なし)』という崖っぷちの状況の中、通常はある程度勝ち進まないと行わない一般生徒による野球応援を『このままでは一度も球場へ行かずに今の3年生は卒業してしまう!!』という消極的な理由から、1回戦が行われる、雰囲気的にまだ閑散とした球場へ強引に動員され、しかも応援による後押しが『焼け石に水』程度にしかならないくらいの試合内容でチームは敗北し、微妙な空気のまま、午後から学校で何事もなかったかのように授業を受けさせられるという憂き目にあった、うら若き18歳の夏……。

あれだけ必死に歌詞を頭へ叩き込んだ応援歌が……あれだけ時間を割いて練習させられた応援歌が……青空の彼方に霞んで消えた……。

帰り道、自転車のペダルから足を降ろし、ふと見上げた樹の幹で大きく自己主張するセミを見上げて私はこう思った……『キミは鳴けるだけ幸せかもね……許すまじ、野球部の特別扱い!!』

閑話休題。

そんな訳で、高校野球に食いつきの悪い私が、先日は何度もスマホの情報を更新しながら、秋季東北大会決勝戦の進行状況を確認する状況と相成った。

何故か?
……それは翌日に花巻東高校スポーツコースでの年に1回の特別授業を控えていたからであり、もしその決勝戦が雨で順延となった場合、野球部の生徒に会えなくなってしまうからであった。そう、私にはどうしても会いたい部員がいたのだ。

こうして書き進めると、大概の方は、1年生にしてその通算本塁打数が全国から注目を集める『某選手』を思い浮かべるのかもしれないが(もちろん彼にも会ってみたくはあったが)、残念ながら然に非ず。

私が数年前から施術を担当していたコが、今は花巻東の野球部に所属しているのだ。

彼との出会いは、2年半前。
中学2年になった春のことだった。

彼は県内のリトルシニア(中学生による公式野球)のチームに所属し、強豪校での高校球児生活を目指してプレーしていたが、脊柱にあるトラブルを抱えており、専門の医療機関で小学校の頃から検診を受けていたものの、中学入学後にそのトラブルが急激に進行。
私の講演を聞いた養護教諭の紹介で来店した時点で、運動ができない状態が既に数か月経過していた。

私は彼の身体の状態を徹底的に分析し、彼自身と親御さんに、そのトラブルがどういうものであるか、我々の分野でできることとできないことは何か、過去の同様の脊柱トラブルへの対応例はどうであったか……などを真摯に説明し、ありがたいことに私の立案した施術計画を実行してくれることとなった。

礼節をわきまえる彼は、物静かなコだったが、その奥底にある強い意志に、私は全力で応えようと固く誓った。

その1か月後、軽い運動を再開。
そのまた1か月後、病院の検診でも良い兆候を確認。
更に1か月後、念願の野球練習に復帰。
そして秋には、検診結果が更に良好となり、新チームでの先発出場を勝ち取るまで回復した。

その後も、まだ骨格の成長過程にあることから、油断せずにケアを続け、そして出会って1年半となる昨秋、チーム経由で花巻東の野球部入部の内定を取り付け、年明けに受験そして合格。

全寮制をとるチームの方針に従って、今年の春から彼も居を移すこととなり、私は高校の最寄りの仲間店舗に彼を引き継ぎ、私たちは笑顔で別れた。
秋に行われるであろう、私の特別授業での再会を約束して。

さて時系列を戻すと、幸いにも決勝戦は無事に開催され、しかも『東北初優勝』という栄誉も。
私はニュース映像に映る2年生の中心選手を見ながら、『あぁ、このコ、昨年度の授業で見かけた生徒だなぁ…』などと呑気に反応しつつ車を走らせ、時間通りに校舎へ到着。

会場となる体育館にて、PCやマイクのチェックしながらバタバタしていると、やがて生徒達が入場。
マネージャーに、彼の座り位置を事前に確認するように頼んでいたので、それを引き継ぎつつ、授業開始前に生徒達の真横にスタンバっていると、彼がチラチラと視線を飛ばしてきた。

私が目立たないように腰元で小さく手を振ると、彼ははにかみながら前を向いた。
約束、守れたね。

授業は、むやみに大声を出してはいけないというコロナ禍特有の影響で、今年は生徒のリアクションが薄いかも……と担任の先生は危惧していたものの、例によって姿勢調整デモンストレーションで大盛り上がり。

直後に入った休憩で、質問をしたくてマゴマゴしている他の野球部の生徒から、間を取り持つよう小突かれた彼が声を掛けてきた。

『センセイ……お久し振りです!!』
『おう!!……背、だいぶ伸びた?』
『はい!!』
『うん……大人の顔になったね……。』

その時、私は心の底から思った。
君の人生に関わらせてくれてありがとう。
そしてこれから数年間は……高校野球が気になって仕方なくなるんだろうなぁ……。

願わくは、あの夏の日に口ずさめなかった応援歌を捧げる日の来たらんことを……!!


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