見出し画像

ビュ~ティフォ~☆サンデ~/連載エッセイ vol.26

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「ほねっこくらぶ通信 vol.28(2005年6月)」掲載(原文ママ)。

とある日曜の朝の話。

今年に入ってから何かと忙しく、週末の岩手に居る事がなかなかできなかった私であるが、桜の便りが届く頃から徐々に時間が作れるようになってきた。

そうなればする事はひとつ。
平日には来院する事ができない遠方の患者さんの為に院を開けるのだ。

その日来院したのは、通院歴6年の男性。
私が駆け出しの頃に患者になってくれた「酔狂な」方でもある。

彼は主だった症状が緩和してからも私の「言い付け」を守り、生活環境を改善しながら予防的に月1度の施術を継続していた。
数年前からは仕事の関係で県北のそのまた北のはずれの山村に住まいを移したが、それでも時間をつくっては数時間かけてはるばる来院する。

施術者と患者という関係とはいえ、さすがにそれだけの「付き合い」となると、その親近感たるや既に「身内」の域まで達しており、実は人見知りな私も、ありがたい事にとてもリラックスした心境で施術に臨める。

以前、患者さん向けの勉強会に泊りがけで参加した事もあり、施術中の会話に「患者教育の為の医学的な要素」を散りばめる必要もなく、互いの仕事の近況など他愛もない話に終始する。

無事に施術も終わり、帰りかけた彼は入り口近くのイーゼルに立てかけてある額縁の前で不意に足を止めた。

私はこの春やっと積み重ねてきた単位が認められてマードック大学を卒業できた事、先日その卒業式に参加する為にオーストラリアへ行ってきた事、そこに飾られてあるモノが国際的なカイロプラクターの証しともいえる「健康科学(カイロプラクティック)学士号」の学位証である事などを、お土産のチョコレートを差し出しながら説明した。

顔を上げた彼は満面の笑みで祝辞を発し、これまでの経緯を改めて尋ねてきた。

丁度お昼前で直後に予約が入っていないのをいい事に、ここに至るまでの紆余曲折や世界の評価、国内の現状など、裏話を交えながら面白おかしく伝えた。
自分でも大笑いしながら、しかしその瞬間違和感が…。

鼻がジ~ンとしたのだ。
気付けば涙が零れていた。
私はこの時初めて実感したのだ。
自分がやっと『コト』を成し遂げた事に。

思えば6年前、仕事も、人間関係も、家族でさえかなぐり捨ててこの業界に飛び込んだ。
心中の溢れかえる不安を、達者な口先と強がりで覆いつくしながら日々を過ごしていた自分。
その時向き合っていた患者さんに、今こうして誇りを胸にまた向き合えている。
そしてそんな自分を自覚できる幸せ。

「その歳で『自分は成長しました』なんてそう言えないもんなんだよ」と人生の後輩に諭すように語りかける彼に「それもこれも皆様の施術代で成り立っております」とおどける私。

彼の車を見送り青空を見上げながら「もう少し頑張ろう」と笑顔で呟く私であった。


☆筆者のプロフィールは、コチラ!!

☆連載エッセイの
 「まとめページ(マガジン)」は、コチラ!!

※「姿勢調整の技術や理論を学んでみたい」
  もしくは
 「姿勢の講演を依頼したい」という方は
  コチラまで
  お気軽にお問合せください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?