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ハウリと曇る盾/連載エッセイ vol.117

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.119(2020年・第4号)」掲載(原文ママ)。

軟禁6ヵ月目に突入である……。

あれほどまでに、月毎何度も県外講師出張をこなし、時には海外研修へ出かけていた私が……地元に留まり続けること、早半年弱……。
我ながら不思議な感覚である。

会議に関しては、すべてが流行りの「オンライン会議システム」での開催に移行。

恥ずかしながら、ほんの2ヵ月前までは、その何たるかを全く理解しておらず、慌てて解説文を睨みながら「アカウント(そのシステムを利用するための権利名義)」を取得していた私でさえ、今では普通にパソコンの前で、タイル状に表示された全国の仲間達と議論に勤しんでいる。
なかなか不思議な感覚である。

「トンデモ学説(面白おかしい学術的根拠のない話のネタ)」の1つのとして名高いものに、「ウイルス進化説(論)」がある。

これは、一般的な自然淘汰による進化説を否定し、ウイルスによって運ばれた遺伝子が、ある生物の遺伝子の中に入り込み変化を促すことで、進化が進む……という論理。

ネタとしては面白く、エンターテインメント業界ではしばしば出くわす「説」ではあるが、学術論文の発表や学問的な審査が行われていないため、科学学説として認知されてはおらず、現段階では学術的に否定されている。

しかしながら、この新型コロナウイルスの登場を受けた社会様式の「受動的」かつ「強制的」な変化の推移を見るにつけ、ついつい、この「説」を頭に思い浮かべてしまうのは、私の「エンタメ脳」が過ぎる故なのであろう。

閑話休題。
そんな訳で、「会議」に関しては大きな問題なく、オンラインに移行したが、問題は「講義」である。

ただでさえ私の講義は、大きなボディアクションを多用するため、昨今のTVで見かけるような、自室のデスクへ優雅に腰かけて、パソコン付属のカメラに向かって話しかけるようなスタイルは難しい。

自分が自己の店舗の壁際で、全国へ向けて講義する姿を夢想し、思い悩んだ私が、インターネットのショッピングサイトを眺めて、まずポチッた(購入した)のが……「演台」である!!!!(←ソコから入るのかよっ!!!!苦笑)

予想外に手頃な価格のものが見つかって安堵したが、これまた予想外に組み立てが複雑で、なかなか予想外な汗をかきつつ、おおよそ小一時間で施術室奥に真新しい演台が予想通りに鎮座することとなった。
ご満悦。

その後も、外付けのウェブカメラ&マイクやら、延長USBコードやら、20mのLANケーブルやらをポチリつつ準備を整え、数回の動作確認をしたうえで、約4ヵ月振りの講義を行う日を迎えた。

思えば私は、「講義講演」をすることで、「活かされ」てきたと、つくづく実感する。

元来怠け者の私は、人前で話すこと、そして、その準備をすることで自らにハッパをかけ、仕事のリズムを作ってきた。
しかしこの状況下で、それら機会が消失し、正直、モチベーションの上がらない日も数多あった。
人様の前で話をさせていただくことは、非常に面倒くさくて、同時に、非常に恵まれていることなのだ。

講義の冒頭で、まずは、このリモート講義の機会を設定してくれた方々、そして、パソコンの前で視聴してくれている全国の仲間達へ、心からのお礼を述べることから始めよう。
素直な自分の気持ちをぶつけてみよう。
よし……ここから「再起動」だ!!!!

『それでは続いての講義……センセイ、お願いしまぁ~~す!!!!』

『(スイッチオン!!)……ピィィィ~▲□●×……ロリロリ▽◆〇×~~!!?!??!』

やってしまった……。
よりによって、盛大にハウってしまった……(ハウリング:スピーカーから出る音をマイクが広い、その音がまたスピーカーから出て、それをまたマイクが拾うという状況が繰り返され、不快な音が発生する状態)。

結果、全国の仲間達の見つめるパソコン画面には、満面の笑みを湛えつつ、心に響く感謝の言葉を述べるステキ講師の姿ではなく、予想外の状況に冷や汗をかきつつ、機器の調整のためにいきなりフレームアウトする滑稽な四十路男の姿が映し出されることとなった……。

やってしまった……。
しゃべりの仕事において、「つかみ」を失敗することが、どれだけ大きな損失か、私は経験上、痛いほどよくわかっていた。
案の定、自分の声も、一段と上ずっている。
しかしそこは、自称・百戦錬磨のワタクシ……もしもの時に備えて準備した「秘密兵器=自前の演台」が本領を発揮し始める……。

想像していただきたい。背景はどう考えても、「店舗」。
しかしそこに鎮座する「演台」。
このミスマッチ感。

モニター越しに、数こそ少ないが、その事実に気づいた仲間達の「わざわざ買ったんかぁ~い!!」というツッコミの表情が見てとれる。
しめしめ……。
このジワジワくる笑い……よしよし……こっちのペースだ!!

更に私は、もう1つ「秘密兵器」を準備していた。
それはデモンストレーションをする際、モデルに飛沫がかからないようにするための、当時まだ珍しかった「メガネ式フェイスシールド」である。

それをスチャリと装着し、カメラに流し目を送る。
これまたモニター越しに「おぉ!!」というリアクションが見てとれる。
よしよし……更にコチラのペースだ!!

実際、このフェイスシールドは優れもので、着脱は自在、曇り止め加工もされており、普段の施術中にもイイ感じ。
その数日前には、追加注文を掛けたほどであった。

……ん!? 
追加注文分って……いつ届く予定だったっけ……まさか今日って訳じゃあないよな……仮に今日だとしても、まさかピンポイントで講義してる最中には届かないよな……あれ……さっき玄関の鍵、掛けたっけ……????

『(ドンドンドンッ)ごめんくださ~~い!! お届け物で~~す!!』

その瞬間、機能を凌駕するほどの冷や汗が一斉に吹き出し、シールドが一瞬にして曇ったのは……ネット通販レビュー的に内緒である……。


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