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がん治療には「攻め」と「守り」の漢方がある!漢方の専門医に聞く“患者さんに寄り添うがん治療”とは

「がん治療」と「漢方」はあまりイメージが結びつかない方もいるかもしれませんが、抗がん剤の副作用を抑えたり、栄養状態を良くしたりといった形で用いられることがあり、漢方薬を服用しているがんサバイバーは多くいます。

今回は、「がん治療における漢方の役割」について、修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治先生にお話を伺いました。

プロフィール

渡辺賢治先生
慶應義塾大学医学部卒業、同大医学部内科学教室、米国スタンフォード大学遺伝学教室で免疫学を学ぶ。帰国後漢方を大塚恭男に学ぶ。
慶應義塾大学医学部漢方医学センター長、慶應義塾大学教授を経て2019年より修琴堂大塚医院院長。

漢方の役割は「抗がん剤とともに、がんと戦う力を強める」こと

ーーがん治療において、漢方が担う役割とはどのようなものでしょうか?

渡辺:がん細胞を直接攻撃する漢方薬は無いので、がん治療において漢方にできることは限定的です。
ただ、がんをやっつけるためには免疫がとても重要なので、漢方で患者さんの栄養状態と免疫を保つ手助けをして、抗がん剤と一緒にがんをやっつける力を強める、という大切な役割があります。

がんとの闘いは長期にわたります。治療の過程で食欲が落ち、栄養が落ちてくると、免疫が下がってがんに負け始めてしまいます。がんに負けない人は免疫も栄養もなかなか落ちないものです。

ーーがん治療の副作用で落ちてしまいがちな食欲を、漢方を取り入れることで戻して、栄養を取れるようにするということですね。食事から栄養を摂ることはとても大切なのですね。

渡辺:ただ、がんは糖を栄養とする性質があるので、いきなり甘いものや炭水化物を食べて急激に血糖値を上げることは避けるように患者さんに言っています。
食べる順番も、野菜から食べて、次にタンパク質、最後にご飯を食べるようにしたり、甘いものを食べる時も、空腹時ではなく食事の後に少し食べるようにしたりすると良いです。
積極的に取って欲しいのはタンパク質です。
このように栄養状態を保ちながら、抗がん剤治療と並走していくことが、がん治療における漢方の役割です。

「守りの漢方」から「攻めの漢方」へ

ーーがん治療における漢方は、具体的にどのような使われ方をするのでしょうか?

渡辺:がん治療における漢方の使い方にはセオリーがあります。
ある程度がんと戦う力がある人には、「攻めの漢方」。補中益気湯(ほちゅうえっきとう)という薬をベースに、様々な抗がん生薬を組み合わせていきます。
「抗がん」と言ってもがん細胞に直接働くわけではありませんが、免疫を高めてがん治療に良い影響をもたらすための処方をします。

食欲がなかったり、精神的にダメージを受けてしまっていたりと、がんと戦う力がまだない人は、「守りの漢方」でがんと戦える状態を作ります。
栄養状態を良くしたり、体を温めたりして心身の基盤を整えてから、だんだん攻めの漢方に切り替えていきます。

渡辺:患者さんには体温と体重と歩数の記録をつけていただきますが、その推移を見ればがんと戦う力がついているかどうかがだいたいわかります。
治療中に体重を保つことはとても大切です。
化学療法中で倦怠感が強く、食欲や運動がままならず、体重や筋肉が落ちてしまうこともありますが、どうにか工夫して体重を落とさないように一緒に考えていきます。

抗がん剤の副作用による下痢はよくある例で、食べても下痢してしまうと、だんだん栄養が落ちて、抗がん剤も使えなくなってしまいます。
まずは下痢を止めて栄養状態を保てるようにしてから、攻めの治療に持っていきたいところです。

「人間を治す」という漢方医学の本領

ーー先生のところにいらっしゃるがん患者さんは、どのような悩みを抱えているのでしょうか。

渡辺:私たちの医院にはたくさんのがん患者さんがいらっしゃいますが、ステージもがん種もさまざまです。
抗がん剤の副作用を抑えたい方や、かなりステージが進んでいる方も。

なかには「どうしても手術をしたくない」という理由で、漢方での治療を相談にいらっしゃる方もいますが、私たちは患者さんが70歳以下であれば基本的には外科手術を受けるようお勧めして、病院を紹介します。
「漢方の医者に行ったのに、手術を勧められた」と言われることもありますが、早期のがんであれば西洋医学のもとで手術をし、がんを取ってしまったほうが良い場合が多いです。

ステージがかなり進んでいる方は、栄養状態が悪く、腹水が溜まっていたりむくみがあったりして、医療的に取れる手段はあまり多くないこともあるのですが、そういう方でも私たちはしっかり向き合って治療します。
「まだやれることがある」ということが患者さんの精神的な支えにもつながると考えています。

ーー大塚医院のHPにも『「逃げない」「諦めない」「最後まで寄り添う」治療を目指して』とありますね。

渡辺:はい。漢方薬が飲めないような状態になったとしても、まだ寄り添えることはあります。
定期的に来ていただいて、生活のアドバイスをしたり、介護保険を受けていなかった方に制度について説明して、その手続きのために地域の病院の先生を紹介することもあります。
西洋医学では、患者さんの生死や治療の成功・失敗で医療の結果を判断しがちですが、私たちが治しているのは病気ではなく、生きている人間です。ですから、どのような状態の人でも私たちは診ます。

私も元は内科医ですが、内科医時代だったら診ないような、珍しくて難しい病気の方もたくさん来られます。
病気そのものは漢方で治せなくても、床ずれを治すとか、下痢やむくみを改善するなどして、QOLの改善はできます。
「人間を治す」という漢方医学の本領は、そういうところにあるのではないかと思います。

ーーどんな患者さんでも最後まで寄り添う。なかなか難しいことだと思いますが、医師として患者さんに寄り添うとは、具体的にはどのように接することなのでしょうか。

渡辺:まずは診察にいらした患者さんの話をしっかり聴きます。
初診は特に長くて、最低でも30分。1時間ほどお話することもあります。
患者さんの悩みの裏には様々な背景があり、お話を掘り下げていくとポロッと色々なことを打ち明けてくださったりもします。

普通、病院だと医師は忙しくてゆっくり患者さんの話を聞くことが難しいですし、患者さんもそれをわかっているのでとても早口で色々なことを伝えようとされます。
なので、私は「そんなに慌てて話さなくて良いですよ」と伝えるようにしています。

落ち着いてじっくり話を聞いてるうちに、だんだん人生相談のようになってくることもあります。
もはや漢方とは関係ない、対人関係などのアドバイスをすることもあるのですが、実は漢方と繋がっていないわけではないのです。
人間を診るのが漢方ですから、患者さんに寄り添ってお話を聞くことを何よりも大切にしています。

後編へ続きます

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