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自分で情報を取りに行く・上手に看護師に頼れる「主体性のある患者」になるには?

前編に引き続き、慶應義塾大学看護医療学部 村上好恵教授にお話を伺います。
後編は「上手く医療者を頼れる患者になるには?」ということを、医療現場や看護師育成のリアルな現状を交えてお話しいただきました。

プロフィール

村上好恵(むらかみよしえ)教授
1990年弘前大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程卒業後、虎の門病院(看護師)、愛媛大学医学部看護学科(助手)、国立がんセンター研究所支所精神腫瘍学研究部(リサーチアシスタント)、聖路加看護大学(講師)、首都大学東京健康福祉学部看護学科(准教授)、東邦大学看護学部がん看護学研究室(教授)を経て、2024年より現職。
1999年兵庫県立看護大学大学院看護学研究科(修士)、2008年聖路加看護大学大学院 博士(看護学)取得。看護師、家族性腫瘍コーディネーターとして、遺伝カウンセリング外来(聖路加国際病院、埼玉医科大学総合医療センターブレストケア科、東邦大学医療センター大森病院など)担当。

お医者さんも看護師さんも忙しそうで話しにくい…どうして医療現場は人手不足?

ーーがん治療中の通院時も、「お医者さんや看護師さんは忙しそうだから、相談するのを躊躇してしまう」という声も聞きます。そういった医療現場の課題についてはどのように感じていらっしゃいますか?

村上:看護師は、本来はそういった患者さんの困りごとをなんとか助けたくてこの仕事を選んだはずなんです。忙しくて患者さんの話を聞く時間がないというのは、なんだかおかしな話だと感じます。

病院は、患者数に対して看護師を何人配置するか基準が設けられているのですが、外来における看護師の人員配置基準は30対1、30人の患者さんを看護師1人で対応しなければならないということです。この基準は昭和23年に制定されてからずっと変わっていません。

当時と今では医療の進歩が全く違いますから、看護師が行う処置の量や難易度は現代の方がはるかに上で、どんどん仕事が増えて複雑になっています。30人の患者さんを1人で対応するなんて、医療の実態に全く合っていないんです。
この状況を変えるために、日本看護協会が厚生労働大臣に対して人員配置の見直しを求める要望書を提出したりしていますが、まだまだ根本解決には道のりが遠そうです。

患者さんたちになんとか日々対応しなければ…と現場の看護師が必死になっている結果、一人ひとりの患者さんにしっかり向き合うことができなくなってしまっています。

「患者さんに聞かれたことに答える」だけが看護ではない

ーー医療の進歩は喜ばしいことである反面、現場の医師や看護師にはどんどん難しいことが要求され、それなのに人員配置の比率が増えていないとなると、医療現場はひっ迫してしまいますね。

村上:医療が進歩しているのはとても良いことですが、どんどん新しい薬が出てきて医療者も勉強が追いついていません。がん治療の薬に関しても、「この薬はどんな副作用が出るのか」というところまで理解できていない場合、真面目な看護師ほど「患者さんの質問に正しく答えられないなら相談に乗るべきではない」と考えてしまいがちです。
分からなかったとしても、「ちょっとわかんないよね、調べてみるね」と患者さんと一緒に悩んだり受け止めたりするのが本来の看護師のあり方だと思います。
看護の基礎教育でもそのように教えているはずなのですが、いつの間にか「聞かれたことに即座に答える」ということにばかり必死になってしまう。聞かれたことに答えるだけが看護ではありません。

そうなってしまうのはやはり現場が忙しすぎるということと、忙しすぎるために即戦力が求められ、「言われたことに即答して動くことが第一」という看護師の真面目さが拍車をかけていると思います。教育側と臨床現場が一緒に課題解決に取り組むことが必要です。

上手に医療者を頼る「主体性のある患者」になろう

ーーそうは言っても、患者としては医療者を頼らざる得ません。どうしたら良いのでしょうか?

村上:患者さんたちにはぜひ、遠慮せずに看護師に困りごとを相談して欲しいです。
人材育成や医療の構造の問題の皺寄せが、患者さんに行ってしまっているのが現代の医療現場なので、患者さんもある程度自分でリテラシーをつけておく必要はあります
ハカルテのようなアプリに体調の記録があれば、「この1ヶ月はこんな感じでした」と情報の共有がしやすくなって良いと思います。いざ病院でご自身の状況を説明しようと思っても、上手く説明できなかったり、色々思っていることがあっても焦って言えなかったりするものです。アプリなどを上手く活用して、短い時間でもスムーズに困りごとや相談ごとを伝えられるようになったらいいですよね。
自分で上手に頼りにいく、聞きにいくといった、ある種の「主体性」も必要です。

また、自分に合う医療者を選ぶことも重要です。患者さんも医療者も人間なので相性があります。
自分が合わない、話をちゃんと聞いてくれない医療者なのだとしたら、別の選択肢を考えてみる。我慢しながら通院するのは苦痛でしかないので、自分で選んで良いと思います。
自分の人生と自分の命に関わることですから、自分で選択して納得のいく医療を受けていただけるようになって欲しいです。

ーー自分から相談したり、情報を取りに行ったりできる能動的な患者であるためには、どのような心持ちでいたら良いのでしょうか。

村上:いまは高齢の方でもスマホを持っていらっしゃいますし、ご自分で調べて情報を取りに行くということはしやすくなってきたと思います。その反面、間違った情報にもアクセスできるようになってしまいました。様々な情報を知った上でどう選ぶかはご本人次第ですが、正しい情報を選び取るには注意が必要です。

「この情報、本当に合ってるのかな?」と迷ったら、看護師や病院の相談支援センターなどにぜひ相談してほしいです。「お医者さんには緊張しちゃって話せないけど、看護師さんや相談支援センターのソーシャルワーカーさんには話せる」という方も多いので、気軽に立ち寄っていただくのが良いと思います。相談支援センターには「話を聞くプロ」がいますからぜひ活用してください。

ーー村上先生、ありがとうございました!

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