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筋トレ後のタンパク質+炭水化物摂取/実は合成よりも抑制による作用が大きい


筋トレ後にタンパク質と炭水化物を摂ると筋肉が2倍速く大きくなる?

かつて、筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取すると筋肉が2倍速く大きくなるとメディアで広く宣伝されていました。しかし、現代のスポーツ科学はこの見解に異を唱えています。

「筋トレ後にタンパク質と炭水化物を一緒に摂取しても、筋肥大の効果は増加しない」

今回は、この新しい見解を支持する研究をもとに話していきます。


【参考文献はこちら】
インスリンはアミノ酸の供給が増加しても筋タンパク質の合成率を増加させない: システマティックレビューとメタアナリシス
この研究は、インスリンが筋タンパク質の合成に与える影響を調査しました。40の研究結果を分析した結果、インスリンは筋タンパク質の分解を抑制するが、アミノ酸供給が十分な場合、筋タンパク質の合成を顕著に増加させないことが示されました。これは、運動後にタンパク質と炭水化物を組み合わせることで筋肉成長が促進されるという従来の考えを見直すものです。


タンパク質に合わせて炭水化物を摂取すべきと言われる理由

筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取すると筋肥大が促進されるとされる理由の一つは、インスリンの働きにあります。

インスリンの主な役割は、筋肉内にエネルギーとなるグルコースを送り込むことです。炭水化物を摂取すると、体内で糖質がグルコースに分解され、血糖値が上昇します。この血糖値の上昇を感知してインスリンが分泌され、筋肉へのグルコースの取り込みが促進されます。これにより、筋肉のエネルギー源となるグルコースが供給され、グリコーゲンとして貯蔵されます。

また、インスリンは筋タンパク質代謝にも影響を与えます。筋タンパク質は常に合成と分解を繰り返しており、そのバランスが筋肉量の維持に関わっています。筋トレを行うと筋タンパク質の合成感度が上昇し、タンパク質を摂取することで合成が促進され、筋肥大が進むとされています。インスリンには筋タンパク質の合成を促進し、分解を抑制する作用があると考えられています。

炭水化物の摂取によりインスリンの分泌が増えると、インスリンは筋タンパク質を合成させるmTORを活性化し、分解を抑制することが示唆されています。このため、インスリンは筋肥大の効果を強化するとされてきました。

しかし、近年の研究はこのメカニズムを否定しています。

インスリンによる筋タンパク質の合成の促進は期待できない

「インスリンは筋タンパク質の分解を抑制するが、合成を増加させるわけではない」

この見解を最初に報告したのは、マーストリヒト大学のTrommelenらです。2015年、Trommelenらはインスリン投与による筋タンパク質代謝への影響を調査した40の研究をシステマティックレビューし、インスリンが筋タンパク質の合成を促進するわけではないことを示しました。

2016年には、ノッティンガム大学のAbdullaらがインスリンの筋タンパク質への影響を調査した25の研究をメタアナリシスし、同様の結果を報告しました。インスリンは主に分解の抑制に作用し、合成の促進効果は低いことが示されています。

【参考文献はこちら】
"Carbohydrate coingestion delays dietary protein digestion and absorption but does not modulate postprandial muscle protein accretion"
(炭水化物の同時摂取は食事中のタンパク質の消化吸収を遅らせるが、食後の筋肉タンパク質の合成には影響しない)

主要な発見

タンパク質の消化吸収の遅延: 炭水化物をタンパク質と一緒に摂取すると、胃の排出速度が遅くなり、アミノ酸が血流に現れるのが遅れます。
筋肉タンパク質合成への影響なし: 消化吸収が遅れるにもかかわらず、食事後の筋肉タンパク質合成(MPS)には炭水化物の存在が大きな影響を与えません。このことは、アミノ酸の利用可能タイミングが筋肉組織の同化反応に影響を与えないことを示唆しています。
食後の筋肉タンパク質の増加: 研究は、炭水化物の同時摂取がタンパク質の消化吸収の動態を変える一方で、食後の筋肉タンパク質の純増加バランスには変化をもたらさないことを発見しました。


方法論
参加者はタンパク質のみを摂取する場合と、タンパク質に炭水化物を加えて摂取する場合の食事を行いました。
血液サンプルと筋肉生検が行われ、血中のアミノ酸の出現と筋肉タンパク質合成の速度が測定されました。


結論
この研究は、炭水化物がタンパク質の消化吸収のタイミングに影響を与えるものの、食事後の筋肉タンパク質の合成能力を損なわないことを結論づけました。これは、特にスポーツ栄養や筋肉回復を最適化するための食事戦略に対して重要な示唆を与えます。

結論

これらの研究から、現代のスポーツ科学は筋トレ後にタンパク質と炭水化物を一緒に摂取しても筋タンパク質の合成は促進されず、筋肥大の効果は増加しないと示唆しています。タンパク質を十分に摂取することで、炭水化物を追加する必要はありません。しかし、インスリンが筋タンパク質の分解を抑制し、疲労回復を促進するため、必要な炭水化物の摂取は重要でしょう。

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