会社の成長を支えるナンバー2の育て方 vol.72 漂流する船にならないために
「君は舟なり、人は水なり」という言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。中国古典で性悪説を唱えた荀子の言葉です。
荀子の言葉は、人の上に立つ者が人の上に立てるのは人がいるからに他らならず、その人たちの共感を得るか、反感を買うかでその組織の安定性が決まると言っています。
舟を浮かべる水が荒れていれば航行に支障が出ますし、転覆することもあります。舟を浮かべるだけの量の水はそれだけパワーがあるということです。
組織というものは、トップとそれを支える者が互いに信頼し合える関係性にないと上手くいかないという示唆で、リーダーは部下という存在がいてはじめてリーダーという立場を得ることができるという道理ですから、そもそもリーダーは部下という存在に支えられていることを忘れてはいけないですし、上司としての権限を部下を理不尽に使えば、必ず手痛いしっぺ返しをくらうということです。
悪政に堪えかねて君主を打倒するために民が蜂起するといったことは歴史に多く、現代でも国で内戦が勃発する、デモやストライキが起きる、政府の支持率が下がるなど反感が行動に表れるのは昔も今も同じです。会社で言えば、無気力や反発、離職などですね。
いつの時代もトップと部下との間には信頼関係がないといけないということです。
■船を動すために必要なこと
せっかくなので、舟(船)というワードを使って違う観点から組織を眺めてみると、もう少し組織運営の成り立ちが明確になってくると思います。
<航行と組織運営>
・目的地=ビジョン
・航路=戦略
・乗組員=社員
・燃料=売上利益
・船長=トップ
・舵取り=管理職
船の航行を組織に置き換えてみるとこんな関係性になります。船は人の役割分担が明確であり、どこへどうやって行くのかが明らかです。
ところが、会社によってはビジョンもなく、事業計画もなく、舵取りがいないとことも珍しくなく、漂流している船のような会社が多いのが実態だと思います。
■この船はどこへ向かっているのか
まず、目的地とビジョンです。
目的地は、船がどこに向かうのかを示し、ビジョンは、組織がどんな理想を持ち、何を目指すのかを示すものです。目的地やビジョンが明確でないと、船は漂流し、組織は混乱するうえ、士気が高まることはありません。
「この会社はどこに向かっているのかよくわからない」
「この会社の現在地がどこなのかわからない」
「一緒に行きたい目的地ではない」
前進しているのか、後退しているのか、現在地はどこなのか、どこに行こうとしているのか、部下にこう感じさせてしまうと、同じ船に乗り合わせていても戦力として機能してくれません。
目的地やビジョンを決めるのは、もちろん船長であるトップの役目です。乗組員である社員に目的を伝え、共有し、共感してもらう必要があります。
ともに行きたい魅力的な目的地がなく、それが明らかになっていないと乗組員はどうなるでしょうか。
・指示待ちで自分で考えて行動してくれない
・積極的に意見を言わない
・やる気を感じない
仮に乗組員として待遇が良いとしても、一緒に行きたい目的地ではなければ、早々に船から下りたくなるでしょうし、下りないとしても、漫然と乗っているだけになるかもしれません。
「売上さえ上がってさえいれば大きな問題はない。燃料さえあればとりあえず船を動かすことはできる。」
燃料はもちろん最も重要ですが、その燃料をどこに向かうために使うのかが明確ではないということです。
売上が全てという経営者の考え方を否定する気は全くありません。
けれど、そこで働く社員としては日々、やるべき仕事があっても何のためにやっている仕事なのかよくわからず、結局は生活のためと割り切ってこなすだけになり、会社は存続するけれど、会社も社員も成長がないまま同じことの繰り返しになってしまうのが現実です。
■目的地にどうやって行くのか
次に、航路と戦略です。
航路は目的地にたどり着くための道筋であり、戦略はビジョンを実現するためのシナリオです。航路や戦略が明確でないと、漂流し、資金や時間、人材の能力といった資源を浪費してしまいます。
どんな立派なビジョンがあっても、それを実現する手立てが具体的でなければ絵に描いた餅となってしまいますから具体化は非常に大切です。
航路や戦略を決めるのは、トップと管理職の役割です。管理職は、トップから目的地やビジョンを受け取り、現実的な計画や目標を立てる必要があります。いわば航海士の役目です。天候や海流の動きを見て、障害物などに注意を払い航路を定めて巡行させなければいけません。
また、目的を達成するための計画が具体的であっても、その内容も大事です。売上利益を最大化し、規模を拡大することだけが目的であるといった極端な場合では、不正を行っても目標達成することがその組織の正義になってしまうこともあります。
トップの考えが浅く、実現性のない計画や目標を立てようとしているのであれば管理職は修正しないといけないですし、そして、人の道に外れていれば、諫めることができるのが理想と言えます。
■船を動かすための役割分担
最後に、乗組員と社員です。
乗組員は、船を動かすために必要な人材であり、社員は、組織を支えるために必要な人材です。社員が協力してくれないと、船は安定して進まず、組織は成果を出せません。
自分は航海士なのか、機関士なのか、見張りなのか、通信士なのか、役割や持ち場が明確でなければ努力のしようもないですし、自分の役割が全体の中でどんな関係を持ち、どう影響を及ぼすのかがわからないと協働することができません。
例えば、自分が営業部門に所属しているとしても、自ら数字を作るのか、チームで目標達成するのか、メンバーの育成や支援をするのかなど役割は異なります。自分の役割が曖昧なままでは期待される成果が人によって異なってしまいますので、この役割の定義もトップや経営幹部などが具体的にしないといけない対象です。
ビジョンと戦略を明確にし、社員をいかに育て、目標達成するか。
組織運営を船の航行に例えると、それぞれの役割や関係性が鮮明に見えてくると思います。
■環境の変化に対応する
そして、大事な点がもう一つあります。
天候や海流などの外部環境です。風向きが変わった、波が高くなった、潮の流れが変わった。外部環境は常に変化します。独り勝ちだと思っていた市場が後発にあっという間に勢力図を書き換えられてしまった、自社の商材の旬がとうに過ぎてしまったなどです。
その変化に対応するためには、ありきたりですがやはり柔軟性や創造性が必要で、柔軟性や創造性を持つためには、アンテナを高く持って、常に観察、分析、学び、考え続けるしかありません。
漂流している船は風の吹くまま、潮の流れに身を委ねたまま、運よく難破しないだけなのかもしれません。
太い顧客がいるから安泰。今は良くても、半年後にその顧客を失うかもしれませんし、内部でも、いま主力となっているメンバーが去っていくかもしれません。
冒頭で、「君は舟なり、水は人なり」とお伝えしました。
水は当たり前のように舟をただ浮かべるだけでなく、転覆させることもあります。
社員と信頼関係を築く努力をしないまま組織運営していると漂流する船になってしまう可能性が高くなってしまうと思います。
そして、多忙を極める経営者が社員と信頼関係を築くためには経営者一人が頑張るだけでは現実的に難しく、管理職のポジションにいるメンバーに橋渡し、媒介という役目を果たしてもらうことがやはり大事です。
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