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ドイツ:ホフブロイハウス

ある日の事。近所に住む知人が、ドイツに旅行に行ったから、とお土産を持ってきてくれた。ビニール袋に大事にくるまれたその中身は、一本のビールだった。


「ホフブロイハウスに行ってきたの。旅行関係にお勤めだから、分かるんじゃないかと思って」知人はそう話しながら、ドイツの土産話に花を咲かせた。


ミュンヘンのホフブロイハウスは醸造所が運営しているビアホールとして世界的に有名な場所だ。ドイツ南部を訪れた人ならもしかしたら行ったことがある場所かもしれない。バイエルン地方の民族音楽も楽しめる居酒屋で、華やかな雰囲気があうという。


いただいたビールを早速飲んでみた。ホフブロイハウス・オリジナルというそのビールは、のど越しさわやかで、いくらでも飲めてしまうような美味しさがある。少し薄めの小麦色をしたビールで、日本の夏にぴったりのビールだと思った。それまでドイツに行く機会は少しあったものの、ミュンヘンに足を運ぶ機会はなかった。かのビアホールでは一体どんなビールが出るのだろうと思っていたが、ようやく長年の謎が解けた気分だった。


新卒で旅行会社に入社した時に、まず覚えるべき場所の一つがこのホフブロイハウスだった。


ドイツの旅行商品を扱う場合は、旅の終わり頃に、夕食ビールで一杯やれる所として日程に組み込むことが多い。旅の途中であっても、出張や会議で疲れた体を癒す目的でこのビアホールでの夕食を組み込むこともある。


ドイツ在住の人からすると、「なぜ日本人はホフブロイハウスばかりに行くんだ。蒸留所の運営するビアホールなら、他にも良い所が沢山あるのに」という意見があった。そこで、その人におすすめのビアホールを選んでいただいたことがある。いくつかのビアホールは、その後日本からの団体旅行で行く定番となったが、それでもホフブロイハウスの人気は衰えていない。

やはり美味しいビールとエンターテイメントがある、といった祝祭的な空間の中で、非日常を味わえるところが、このお店の魅力の一つかもしれない。


また、このビアホールは大勢の団体客も受け入れてくれ、海外から来るお客様にも慣れている。旅人にとってもありがたい場所だが、同時に旅行会社としてもありがたい場所だと思う。

訪日旅行もそうだと思うのだが、外国人観光客を受け入れ慣れている店は貴重な場所だ。海外旅行で言葉の壁や文化の壁を超えるすべを持っているお店では、通常複数の言語に対応したメニューを出したり、外国語のできるスタッフがいたりと、言葉や文化の違うお客様へのサービスに力を注いでいる場合が多いと思う。旅人の側も言葉や文化の壁を乗り超える努力を惜しまないと思うが、同時に受け入れ先のお店のスタッフの方々にも大変な努力が要求されると思う。


今はまだ先がはっきりとは見通せないが、コロナ渦が収まり、また普通に旅行に行けるようになったら、どこの飲食店にも旅行者がやってくるだろう。ホフブロイハウスもどのように海外からのお客様を迎えてくれるだろうか。日本国内の飲食店も、海外から日本に旅行に行って美味しいものを食べたい、飲みたいと思っているお客様がきっと戻ってくるだろう。その日が来るのを、今は静かに待ちたいと思う。



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